不動産会社が便利屋さん「ベンリー」を始めた理由。街の高齢化にも対応

少子高齢化をはじめとする社会の変化は、不動産業界に変化をもたらし、新たなサービスを打ち出す企業も出てきました。
不動産の分譲・賃貸・仲介を手がける小田急不動産株式会社は、生活支援サービス(いわゆる便利屋さん業)をチェーン展開するベンリーコーポレーションとフランチャイズ契約を交わし、2017年に、ベンリー小田急鶴川店(東京都町田市)を設立、生活支援サービスに乗り出しました。開業から4年が経った今、まちの変化や課題などを振り返ります。

住宅購入者との継続的な接点として機能する

小田急不動産が生活支援サービス(以下ベンリー事業)に乗り出したのは、仲介やリフォームの商機を増やすフックにすることと、住宅を販売し、アフターサービスを終了した後も顧客との接点を得られるというメリットを考えてのことでしたが、当初想定していなかった、地域の高齢化によって生じた新たな課題も見つかりました。

60年近くにわたり、小田急沿線を中心に26,000戸以上の住宅を供給するなかで、沿線の65歳以上の世帯は全体の10%以上(男性10.9%、女性13.0%)と、少子高齢化、共働き世帯の増加が進んでいることが課題になっていました。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

住宅営業に25年以上携わった後、小田急沿線ベンリー事業を運営管理する生活サポートグループのグループリーダーになった望月直美さんは、ベンリー事業を通して気付いた街の変化をこう話します。
「一つは家族形態、家族観の変化です。例えば30年前、お子さまも含めた4、5人家族のお客さまが住宅購入をするとき、将来、お子さまの誰かがこの家に戻って同居し、老後の自分たちの面倒をみるだろうと想定していました。ところが今見ると、誰も戻っていません。そうなると、家の手入れや庭仕事などでもご夫婦だけではできないことが増えてきます」
30年ほど前の家族観は今とかなり違います。これは団塊の世代を見るとよくわかります。この世代は兄弟姉妹が多く、地方出身者の比率も高いのが特徴で、いわゆる跡取り(ほとんどは長男)が親と同居し、面倒をみるのは普通のことでした。大都市圏に出て家庭をつくり、住宅を持ったのは二男以降の子供たちでしたが、彼らもこの文化の中で育ちましたから、将来、自分の子供の誰かが同居して老後の面倒をみるだろう、少なくとも近居して助けてくれるだろう、と漠然と考えていました。こうした家族観は薄まりながらも今の60代くらいまで引き継がれています。

前提条件も違いました。「当時のお客様の妻はほとんどが専業主婦。また充実した介護施設のある今と違い、『老人ホーム』と言えば、身寄りのない人の行く場所、というイメージがあった時代です」(望月さん)。もちろん介護保険もありません。

そのすべてがこの30年で変わった結果、当時、住宅を購入した人々は今、“子供の助けなしに長い老後生活を過ごす”という想定外の状況にいるわけです。

もう一つは、同じ住宅でも、高齢化によって、若い時には気にもかけなかった点が課題になることです。「階段の昇降が大変、小さな段差が危険、といったことが起きてきます。長く住宅を販売してきた私にとっても、老いと住宅の関係はかなりの衝撃でした」

生活支援サービスを提供する企業は数多くありますが、サービスメニューが特定分野に偏らず、豊富であること、従業員教育が充実しているベンリーコーポレーション(以下ベンリー)との提携を決めたといいます(写真提供/小田急不動産)

生活支援サービスを提供する企業は数多くありますが、サービスメニューが特定分野に偏らず、豊富であること、従業員教育が充実しているベンリーコーポレーション(以下ベンリー)との提携を決めたといいます(写真提供/小田急不動産)

現在、ベンリー小田急鶴川店(以下小田急鶴川店)では、小田急不動産の分譲住宅に限らず、地元のニーズに応えています。小田急不動産によると、おおまかに言えば約8割は小田急不動産の分譲住宅エリア以外からの依頼とのことです。

お知らせも手描きで温かみがある(写真提供/小田急不動産)

お知らせも手描きで温かみがある(写真提供/小田急不動産)

(写真提供/小田急不動産)

(写真提供/小田急不動産)

1カ月あたり180件ほどの依頼があり、計10名のスタッフで対応しています。(※要チェック2)

店長を務める松浦一彦さんは、もともとリフォーム営業をしていましたが、ベンリー事業をはじめるにあたって、2カ月合田にわたるベンリーの宿泊研修を受け、技術面や、サービスにおける心得や接遇マナーといった面を学んだといいます。「その先は場数を踏むことでスキルを上げていきました。この4年間で修繕や故障対応など多くの仕事を単独でできるようになりました。プロの職人さんの協力、知識も得て、根本原因を突き止められるようになったことが大きいと思います」(松浦さん)
松浦さんは第二種電気工事士と福祉住環境コーディネーター2級の資格を持ち、また他のスタッフは造園業、自動車整備、家具職人、栄養士、SEなどさまざまな資格や経歴を持ち多士済々。しかも社員全員が認知症サポーター養成講座を受講済です。これは高齢者への対応力を高めようという配慮でしょう。

店長の松浦一彦さん(写真提供/小田急不動産)

店長の松浦一彦さん(写真提供/小田急不動産)

(写真提供/小田急不動産)

(写真提供/小田急不動産)

提供しているサービスは、ハウスクリーニング、庭の手入れ(草刈り、害虫退治など)、引越し手伝い、エアコン関連、不用品処理の手伝い、修繕、防災・防犯などと多種多様ですが、年間を通じて安定的に需要があるのは、ドアの建て付けの調整などの小修繕や草刈りなどの植栽関連です。「高齢化でお客さまには手が回らなくなった作業が多いですね。ベンリーの本部の統計でも、サービスを利用されるお客さまの平均年齢は60代から80代です」(松浦さん)

壁紙貼り(写真提供/小田急不動産)

壁紙貼り(写真提供/小田急不動産)

庭の手入れ(写真提供/小田急不動産)

庭の手入れ(写真提供/小田急不動産)

顧客の視点、価値観を大切にしてサービス提供

なかには、日常生活のお手伝いにとどまらないものもあったといいます。
例えば、夫を亡くされた女性から、遺骨の粉骨を頼まれたこと。「樹木葬を希望されていたため、粉骨が必要だったからです。しかし調べてみると粉骨は条件が難しく、最終的には専門業者の方にお願いすることになりましたが」(松浦さん)
高齢の女性から墓を探してほしいという依頼もありました。既に家としての墓はお持ちでしたが、かなり遠い地域にあって墓参が大変なため、住宅の近くに良い墓(墓地)はないかというご依頼でした。地域密着サービスという強みを発揮して、松浦さんは地縁のあるスタッフのツテなども利用しながら、墓地探しに奔走、この要望に応えたそうです。
若い層の事例では、夫婦ゲンカをして結婚指輪を妻が川に投げ捨ててしまい、探してほしいと言われたことも。「川に膝まで入って、『えーと、どのあたりに投げましたか』と確認しながら川底をさらい、なんとか見つけることができました(笑)」(松浦さん)

指輪を探すのに3時間ほどかかったとか(写真/PIXTA)

指輪を探すのに3時間ほどかかったとか(写真/PIXTA)

いずれも、通常の不動産会社には依頼されないような内容です。ときには家族の死や大切な思い出の品を探すという人生の一大事に寄り添うこともあって、松浦さんは「単なる作業やお手伝いではなく、相談されたり、客観的な視点での判断を期待されたりするなど、人間的な意味でも地域とつながる仕事だと感じています」と話します。

今では地域からも頼りにされる松浦さんですが、サービスを始めて1年ほどたったころに大きな失敗をし、気付かされたことがあるといいます。
「サービスが始まり、数年経って慣れてくると業者(サービス提供者)だけの視点になりやすいものです。あるとき、いわゆるゴミ屋敷化したお宅に片付けを頼まれてうかがったら、高く積み上がった品々を前に、お客さまは『このどれ一つとしてゴミじゃないんだ』と言われ、お客様の視点に立つことの大切さにあらためて気付かされました」。松浦さんにとっては、空間を占領し、整理・処分しなければならないモノとして見えても、お客様にとっては思い出や大切な記憶の証となる品々でした。「それからは仕事をする前のヒアリングに時間をかけ、お客さまのご希望を正確に把握するように努めています」(松浦さん)

(写真/PIXTA)

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高齢化社会と地域を守る役割にも期待

小田急鶴川店は、地域の福祉作業所、ケアセンター、商店会などと連携した地域貢献も行っています。

「小田急鶴川店は、地域の行事に参加したり、福祉作業所のつくった製品をノベルティにすることもしています。こうした姿勢は予想以上に地域に受け入れられ、小田急不動産への信頼にもつながっていると思います」(望月さん)

例えば、ケアセンターにとっては、ベンリーの仕事は個人宅に訪問するため、ベンリーを通じて高齢者の情報が分かることが助けになります。もちろんプライバシーや個人情報保護の面を厳守してのことですが、結果的に地域の目としての役割を果たしています。
「想像以上に一人暮らしの方、引きこもる方は多いですね。高齢の方にとって、小田急鶴川店のメンバーは子どものような存在なのかもしれません。その意味ではこの店は地域の見守り役も期待されていると思います」(望月さん)

地域の方々と一緒に花壇の花の植え替えを行った時の写真(写真提供/小田急不動産)

地域の方々と一緒に花壇の花の植え替えを行った時の写真(写真提供/小田急不動産)

その一つの証として松浦さんは、従業員が住民から、「小田急さん」や「ベンリーさん」でなく、個人名で呼ばれることをあげます。「作業の合間に、家族、住まい、テレビ番組などの話に花が咲くこともあって、それが親近感につながっている気もします」(松浦さん)

社会と社内に貢献できる事業に育てたい

小田急鶴川店では、不動産事業の顧客数の拡大には限界がある中で、地域密着を高め、リピート率を高めることをめざしています。そのために、今後はより収益性を高めるため、この事業に携わる人員の増員や店舗数の拡大を模索しています。加えて小田急グループの他部署の仕事への波及効果にも期待しています。「ベンリー事業を通してわかってきた高齢化の実情を、これからの住宅の設計やサービスに反映させ、本当に長く住み続けられる住宅ができればうれしいですね」(望月さん)
 
小田急鶴川店のサービスが、地域から歓迎されている背景には、少子高齢化があることは明らかです。しかしそれは出生率や寿命の延びという数の問題以上に、家族に対する考え方や価値観の変容という文化の問題であることがわかります。伝統的な家族観や三世代同居という住み方は、ごく一部を除いて復活することはないでしょう。とすれば、人間的温もりを含めて提供される生活支援サービスは今後、ますます求められるのではないでしょうか。

●取材協力
小田急不動産株式会社 生活サポートグループ
ベンリー小田急鶴川店
ベンリー小田急鶴川店 店舗日記

織田孝一