Socotra(本社・米国カリフォルニア州)は、クラウドベースの保険プラットフォームを提供する企業。モダンなアーキテクチャーによって、保険会社は保険引受、保険管理、請求、報告などの複雑なやりとりを効率的に管理できるようになり、テック企業も保険関連の事業に参入しやすくなる。同社の創業者でCEOのDan Woods氏に、創業の経緯や事業の優位性などについて聞いた。

保険証券管理システムの課題に着目し、クラウドネイティブなサービスを構築

―職業的背景と、Socotra創業の経緯をお教えください。

 私の主なバックグラウンドは、エンタープライズ・ソフトウェアです。大学院ではコンピュータサイエンスと人工知能を学びました。卒業後はPalantir Technologiesに入社し、データモデルやスマートエンタープライズ、API、データの重要性などを学びました。Palantir Technologiesには6年ほど在籍し、その後はベンチャーキャピタルに転職しましたが、そこで保険業界の課題に気がついたのです。

Dan Woods
Socotra
Founder & CEO
スタンフォード大学で人工知能に関する理学修士を取得。ビッグデータ解析を専門とするPalantir Technologiesでのエンジニアを経てプライベートエクイティ投資家に転身。保険業界におけるシステムの課題に着目し、2014年にSocotraを創業した。

 保険会社には、保険契約管理システムと呼ばれるものがあります。これは、保険証券が保管される場所で、その上で価格や顧客管理などさまざまなアプリケーションを操作する、保険ITの心臓部とも言えるものです。私が知る限り、当時クラウドやオープンAPIなど昨今の技術に基づいた保険契約管理システムは見られず個別最適化されたシステムばかりだったため、そんな状況に「信じられない」という思いを持っていました。

 Salesforceは、質の高いデータモデルやパートナーエコシステムによってCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)を効率化していますが、私は保険業界に対して同じようなことをしたかったのです。

―現在提供しているプロダクトについてお教えください。

 中心的な製品は「Socotra Connected Core」という、保険会社が保険証券を保管するための管理システムです。Connectedとあるとおり、ほかのシステムとうまくつながるように作られています。保険会社はライセンスを購入し、説明書を読むだけで利用できます。これは本当に簡単なことのように思えますが、以前は誰もやっていませんでした。

 2022年にはアプリのマーケットプレイスもリリースしました。ここでは保険会社に対して、データプロバイダーとそのプラットフォーム、格付け、ドキュメント管理、支払い処理といった保険バリューチェーンを構成するアプリを提供しています。現在16のアプリがあり、スマートフォンのアプリやブラウザの拡張機能のように手軽に機能を追加できます。

 さらに、業界をリードするソフトウェアとデータプロバイダーをシームレスに統合した、「Socotra CorePlus」をリリースしています。これは、特定の保険業種を対象としたITソリューションで、現在は自動車保険と住宅保険に利用されています。例えば、車の価値を調べるツールや住所に基づいて家の情報を得るツールなどがあり、これらをパートナー企業のシステムに統合しています。エンタープライズITは非常に複雑ですが、Socotraはこれをシンプルにしたのです。

 ビジネスモデルは基本的に年間契約のライセンス型です。最低料金があり、保険料が一定額を超えると、その割合に応じて金額が増えていきます。

image: Socotra

保険会社に加え、保険業界に参入するスタートアップも支援

―Socotraプラットフォームの優位性や成長性についてお聞かせください。

 保険会社と、保険業界のスタートアップが主な顧客です。これまでの保険システムは構築に非常に時間がかかり、オープンAPIがないため外部連携も困難でした。スタートアップはAWSやSalesforceなどモダンなテクノロジーに精通していますので、弊社の製品とはとても相性がよく、すぐに開発をすすめられます。AWSやSalesforceはEメールでユーザー登録して、コンソールを操作したりドキュメントを読んだりしてすぐに使えますね。保険業界に挑戦したいスタートアップも、このような仕組みを求めていたのです。

 これまでの保険システムの場合は本稼働までに時間がかかり、メンテナンスも自分たちでしなければなりません。Socotraなら、従来の方法と比べておよそ半分の期間で構築できるため費用対効果も高いです。しかも柔軟にスケールアップ・調整できます。保険会社は商品を販売したあとでも、市場のニーズにあわせて価格や内容を頻繁に変更し、より価値を高めることができるのです。

 顧客は保険会社を中心に40社以上います。2022年のARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は前年比の51%増で、その前の3年間は毎年2倍以上増加していました。急成長の理由は、モダンな技術で証券管理システムを構築した唯一の企業だからです。従来の技術で個別最適化するソリューションを展開する競合はいますが、先ほども申し上げたとおり非効率です。ローコード、ノーコードで保険証券を作成するキットのようなものを提供する企業もありますが、複雑な財務処理や柔軟な更新が難しいなどの問題があります。私たちは2014年に創業し、非常に複雑な課題に長期にわたり取り組んできた一日の長があります。

image: Socotra HP

助けを求める人たちのために、高品質なテクノロジーを提供し続けたい

―今後の事業展開や、長期ビジョンをお聞かせください。

 今後は、「Socotra CorePlus」に注力しながら商品ラインナップを増やし、商品改善を続けていきます。保険会社が自動車保険や住宅保険の商品を作りたいと思ったときに、その会社が望むすべての技術を組み込んだ完全なソリューションを提供できるよう、より多くのパートナーが参加できるようにしたいのです。たとえば、保険会社は、自分たちがやりたいことを実現するために、10以上のソフトウェアパッケージを契約するのは嫌がるでしょう。「Socotra CorePlus」なら契約はシンプルで、継続的に機能改善がなされます。

 これまでは欧米市場を中心にビジネスをしてきましたが、アジア太平洋地域も拡大していく予定で、現在はオーストラリアに拠点を構えています。日本市場に参入するには、システムインテグレーターの存在が重要だと考えています。日本の保険会社がSocotraのライセンスを購入して利用するには、日本のことをよく知るエンジニアリングチームの力が必要となります。

 Socotraのビジョンは、保険業界が高品質なテクノロジーを自由に使いこなし、より革新的で価値の高い商品を提供できるようにすることです。多くの人が毎日スマートフォンやSNSなどモダンなテクノロジーを使っていますね。しかし、保険業界はそうなっていません。保険業界は助けを必要とする人を思いやる業界と言ってもいいですが、そのために必要な高品質な技術を持っていないのです。

 Socotraによって保険会社の効率性が向上し、コスト削減の効果を保険契約者に還元することもできるでしょう。助けを必要とする人に最高のケアを提供するため、高品質のテクノロジーを提供していきたいのです。