「誰も通らないのに、なぜ信号が赤になっているのか」。そんな素朴な疑問から交通システムの課題解消に挑戦したのがNoTraffic(本社:米国カリフォルニア州)だ。同社は、道路の信号に設置したセンサーから得た情報をクラウドで解析するプラットフォームを提供している。これにより、効率や安全性の向上だけでなく、公共交通機関や緊急車両、歩行者、マイクロモビリティなど、さまざまな移動手段の調和を実現している。共同創業者でCEOのTal Kreisler氏に、プロダクトの概要と日本市場への参入など将来展望を聞いた。

目次
「誰もいない交差点の赤信号」に抱いた疑問
交通プラットフォームを構成する4つの要素
サービスを導入した都市の事例
アプローチの手法は「Teslaに似ている」
欧州や日本からも多くの関心

「誰もいない交差点の赤信号」に抱いた疑問

―専門領域と、NoTraffic創業の経緯をお教えください。

 私はビジネス法と会計の学位を持つ、財務・ビジネスの専門家です。私以外の2人の創業者(CTOのUriel Katz氏と、CSOのOr Sela氏)は、それぞれがディープテック分野からの豊富な経験とAIなどの専門知識を持っています。ある夜、CTOのUrielは「誰もいない交差点で信号が赤になる理由が分からない」という疑問から、エンジニアとして問題解決の方法を考え始めました。

 この問題は、単に車の交通量が少ない夜間の交差点に立つ人の問題だけではありませんでした。私たちは、交通信号全体がどのように連携して、より効率的で安全な環境を作り出し、他の道路利用者とも通信できるように変革するかという、はるかに大きな課題に気づきました。これが私たちのプロジェクトの出発点となり、2017年末にNoTrafficを創業しました。

 交通管理の分野は過去100年間、ある意味ほとんど変化がありませんでした。今でも多くの信号機が時刻表に基づいて運用されており、多くは未だにオフラインで機能しています。

 私たちは約5年の歳月をかけて、信号機をクラウド接続が可能でダイナミックなネットワークへと変革する交通管理プラットフォームを開発しました。2022年半ばには、この目標を達成し、TIME誌によって世界で最も影響力のある100社のうちの1社に選ばれる栄誉を得ました。現在、私たちの事業は主にアメリカとカナダで展開しています。数百の顧客企業や市町村、州にサービスを提供しており、それぞれの交通管理能力の向上に貢献しています。

Tal Kreisler
NoTraffic
Co-Founder & CEO
インターディシプリナリーセンターで法律学およびビジネスと会計の学士号を取得した後、IDC Beyondで起業学を学ぶ。2015年からBeta Financeで財務/ビジネスコンサルタントとして勤務し、2017年にNoTrafficを共同創業し、CEOとなる。

交通プラットフォームを構成する4つの要素

―提供されている交通管理プラットフォームはどのようなものでしょうか。

 私たちのプラットフォームは4つの異なる要素で構成されています。1つ目は、交差点の信号機につけたIoTセンサーです。このセンサーはAIを利用して、交差点周辺のあらゆる事象を人間の目と同じレベルで把握することが可能です。そして、これらの情報をクラウドに接続し、データをアップロードする機器を取り付けます。設置作業に要する時間は約2時間程度で、この作業が完了すると交差点はクラウドに接続されます。

 2つ目の要素は、「モビリティ・オペレーティング・システム」と呼ばれるクラウド上のダッシュボードです。これにより、交通機関がボタン1つで交通を簡単に管理できるようになります。クラウドに接続された信号機からのデータを受信し、現在どれだけの車両が存在し、それぞれの車両の種類や速度、歩行者や自転車の数などが把握できるようになります。

 3つ目は、モビリティ・オペレーティング・システムからアクセスできるモビリティマーケットプレイスです。これはアプリストアのようなもので、追加の機器を導入することなく、さまざまな機能を簡単に導入できます。

 4つ目は年間を通じてのサポートです。弊社が提供する24時間体制のサポートチームがシステムを監視します。何か問題が発生した場合や異常なイベントがあった場合には、オペレーターが迅速に対応します。

image: NoTraffic (検知機能)

image: NoTraffic (ダッシュボード)

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サービスを導入した都市の事例

―2022年から現在まで、多数の導入がされているようです。しかし、交差点ごとにセンサーを設置するなど、手間がかかりそうな印象を受けます。

 私たちは、地域の交通を管理する公共部門との関係を持つディストリビューターと協力しており、これによりプラットフォームの導入プロセスを簡素化しできます。データを取得できるようになれば、交通部門の責任者に対して、交通の流れの改善方法、サービスレベルや安全性の向上方法、既存システムの経費削減方法、排出量の削減方法などの解決策を提案できます。

 私たちのモビリティ・オペレーティング・システムは、交通管理のOSと考えていただければと思います。各都市や交通部門は達成したい目標を定義し、その目標を最適な方法で実現するようにシステムを操作します。

 例えば、カナダのバンクーバー市は歩行者の目的地への到達時間を短縮することを目標にしており、私たちはそれを半分に削減することに成功しました。その一方で、車両の遅延などは引き起こしていません。

 米アリゾナ州ツーソン市では、渋滞緩和を目指し、私たちは以前は毎日発生していた1マイル程度の長い車の列を解消することに成功しました。その結果、現在はその地域の交通の流れはスムーズになっています。また、同州フェニックス市では安全性向上を目指しており、赤信号を無視する車両の数を約70%削減することで、事故のリスクも低減しました。このように、各都市が私たちのOSとアプリケーションを目的に応じた方法で使用し、成功を収めています。

image: NoTraffic (信号機に取り付けたNTセンサー)

アプローチの手法は「Teslaに似ている」

―現在、交通管理システムの領域で同じようなアプローチをする競合はいますか。

 交通管理システムの市場はすでにありました。しかし、私たちは革新的なアプローチで参入しました。自動車業界にTeslaが参入したことと似ています。Teslaは自動車を発明したわけではありませんが、全く異なるアプローチで、EVや自動運転、ソフトウェアのアップデートによる機能向上など新しい価値を提供していますね。懐中電灯、電卓、地図、カメラなど別々にあったものをデバイス1台で使えるようにしたiPhoneも同様です。

 既存の交通管理システム事業者は昔ながらの技術を提供していますが、私たちは、各要素を統合し、デジタル化・自動化のアプローチよって全く新しい価値提案を提供しています。これにより、各都市や交通部門は今までにない大きな飛躍を遂げています。

 私たちはこのアプローチを「ソフトウェア定義型交差点」または「ソフトウェア定義型交通インフラ」と呼んでいます。これは、1つのハードウェアプラットフォームに多くのソフトウェアアプリケーションを提供することで、新たなデバイスを購入する必要がなくなるというものです。私たちのプラットフォームの利用者は多くのアプリケーションを利用して改善を続けるなど、ほぼすべてのアカウントで成長が見られます。

 従来の交通管理システム事業者は、デバイスを販売した後で売上が確定すると、それ以上のサービスを提供する動機がなくなることが多かったです。しかし、私たちのプラットフォームでは、顧客の利益と私たちの利益が一致しています。これにより、初期の取引だけでなく、顧客が満足するサービスを継続的に提供することが求められています。

 たとえば、オンラインでのメンテナンスも可能にしました。何か問題が発生した際には、技術者の到着を待つことなく、オンラインで機器にアクセスしてすぐに問題を解決できるのです。私たちの顧客は、私たちとの取引を通じて、これまでにない新しいレベルのサービスを体験して非常に満足しています。

欧州や日本からも多くの関心

―アメリカやカナダ以外の地域でもサービスの提供を考えていますか。

 はい。ヨーロッパや日本からも多くの関心が寄せられています。当社が何かを発表するたびに、日本のメディアや企業から引き合いがあります。日本ではセンシングやIoTが盛んであり、私たちのプラットフォームに対する興味が高いと想像します。

 北米以外の地域での展開については、現地のパートナー探しが必要です。必要なハードウェアの物理的な設置を行う事業者や、自治体や交通機関に既にシステムを販売しているディストリビューターも必要です。カナダに進出したときは、現地の大手通信事業者の協力を得て、トロントを含む多くの都市で事業を展開しています。

―各所でモビリティを革新しようという動きがあります。御社の長期ビジョンと、将来的なパートナーへのメッセージをお願いします。

 私たちの目的は単に素晴らしい技術を導入することだけでなく、実際に世界に影響を与えることです。排出ガスの削減、事故の減少、事故後の避難時間の改善を通じて、人々の命を救い、道路での時間を減らし、家族や大切な人との時間を増やすことができます。これが私たちのモチベーションです。

 将来的には、対応範囲を拡大し、各交通信号が最適な方法で協調して動作するようにしたいです。それだけでなく、自動運転車、ライドシェアアプリ、ナビゲーションアプリなどモビリティセクターの他のコンポーネントと接続し、より効率的で安全な環境を実現することを目指しています。

 自動車メーカー、交通機関、自治体、地域の企業などが連携・協力して展開するスマートシティプロジェクトは、包括的で広がりのあるモビリティの未来を示しています。今、この分野で活動することは非常に魅力的です。スマートシティやモビリティを戦略の一部と見なす企業や、戦略と組み合わせることが可能な企業の方々には、ぜひ私たちに連絡していただきたいと思います。喜んで議論を開始し、お互いの可能性を最大限に引き出す機会を共有したいです。

image: NoTraffic (platform diagram)