快走が続く北陸新幹線。2024年10〜12月はJRグループと地元が共催する、大型観光キャンペーン「北陸デスティネーションキャンペーン(北陸DC)」で盛り上がりそうです(写真:hnamasute / PIXTA)

2024年3月ダイヤ改正から2ヵ月。福井・敦賀に延伸された北陸新幹線は、開業1ヵ月に当たる3月16日〜4月15日の金沢〜福井間の利用客数が前年に比べ26%増、続くゴールデンウィーク(GW)期間中も14%増と、快走が続きます。そんな新幹線の福井二次アクセスに新しい魅力が加わります。

JR西日本が2024年6月1日から、福井県エリアで運行するのが最新映像技術を駆使したエンタメバス。JR福井駅と恐竜博物館などのスポットを結び、新幹線利用客を県内各地に誘います。バス車内で放映されるのは、地域の魅力満載のオリジナル映像。実写と動画を組み合わせた「新感覚XR(仮想・拡張現実)バス」です。2024年5月8、9の両日、東京で開催された試乗体験会の模様をお届けします。

アクセスバスにXRでエンタメを追加

エンタメバスの正体は「新感覚XRバスWOW RIDEいこっさ!福井号」。WOW RIDE(ワゥライド)の名に、聞き覚えある方いらっしゃるかもしれません。2022年初に東京都心登場で話題を呼び、本サイトでも「新感覚バスツアー」として紹介しました。

実はこの時点では開発途上。バスはドイツ製ダブルデッカー(2階建て車)で座席は若干狭く、定員も20人と限られました。

新バージョンが「いこっさ!福井号」で、国産バス2台の特別仕様車。定員36人。車内は一般の観光バスに勝る快適な乗り心地です。

「福井駅と観光地を結ぶアクセスバスに、XR技術でエンタメを付け加えた」といえば、イメージをつかんでいただけるでしょうか。

WOW RIDE乗りに福井にいこっさ!

JR西日本は、なぜこんなバスを登場させたのか。答えは福井の観光地立地にあります。

県立恐竜博物館(勝山市)、永平寺(永平寺町)、県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館(福井市)、東尋坊(坂井市)、あわら温泉(あわら市)は、いずれも福井駅から一定の距離があり二次アクセスが欠かせません。

東京〜福井間最短3時間切りのスピードが売りの北陸新幹線。JR西日本は、駅から主要スポットまでの楽しさいっぱいの移動も、もう一つの売りにする戦略です。「WOW RIDE乗りに福井にいこっさ(行こうよ)!」というわけです。

アンシンメトリーの車体

前置きが長くなりました。いこっさ!福井号に乗車しましょう。本来は福井駅前からですが、今回は東京遠征。日比谷、丸の内といった都心周遊コースが用意されます。

キャッチフレーズは「福井発、空想行き」。「いこっさ!福井号」のボディーには恐竜から東尋坊まで地域の魅力を詰め込みました(筆者撮影)

外観は、バスでは(鉄道でも)珍しいアシンメトリー(左右非対称)。ドアのある右側は福井のシンボル・恐竜のほか、越前ガニ、ソースカツ丼、あわらの湯、龍翔博物館(旧みくに龍翔館、坂井市)と福井のスポットのイラストがずらり。特別ゲストは2024年の大河ドラマ「光る君へ」の主人公・紫式部。20歳代の数年間、京都を離れて過ごしたのが現在の越前市と伝わります。

左側は「WOW RIDE」のロゴマークで、バスそのものが福井の映えスポット。新幹線を降りた観光客が、バスをバックに記念撮影する光景が目に浮かびます。

ラッピングイラストは福井県出身の中村サトルさん。「新幹線が福井に運んでくるワクワク感を詰め込みました。ぜひ福井で本物に触れて」と語ります。

SOS! 恐竜が出た!

車内は、すべての窓と天井からのモニターがディスプレー。発車後に画面が切り替わり変わります。「緊急ニュース!! 福井に恐竜が出現しました!!」。果たしてバスは無事、目的地に到着できるのか。ネタバレなし、あとは乗車してのお楽しみということでTo Be Continude(続く)……。

東尋坊に首長竜出現!! リアルな映像に思わず息をのみます=車内映像から=(筆者撮影)
車窓に映るのは福井……ではなく、東京遠征なので日比谷通り。スクリーンは映像だけでなく車窓の風景も映し出せます(筆者撮影)

車内コンテンツの総合演出は、映画監督でテレビでも「金田一少年の事件簿」など人気作を手掛けた堤幸彦さん、脚本は俳優・声優として活躍する池田テツヒロさん。出演はアイドルデュオ・タッキー&翼で一世を風びした今井翼さんと、味わいある演技が魅力の温水洋一さんら。池田さんや温水さんは、東京のWOW RIDEでもおなじみです。

RIDEコーポレーションがコンテンツ制作

いこっさ!福井号はJR福井駅発。目的地は恐竜博物館、一乗谷朝倉氏遺跡博物館、えちぜん鉄道(えち鉄)あわら湯のまち駅の3コース。2つの博物館は福井駅から往復、湯のまち駅は福井駅発だけで、帰りはえち鉄に乗車してもらう趣向です。そういえば映像には、一瞬ですがえち鉄電車も登場します。

訪日インバウンド対応では、英語、中国語、韓国語の3カ国語で音声ガイド。一定の会話への返信機能を備えるなど、AI(人工知能)を駆使します。

ダイヤは恐竜博物館1日4〜6便、朝倉氏博物館2便、湯のまち駅行き1便。あわら温泉では、湯のまち駅発着の温泉街周遊コースも用意されます。

コンテンツを制作したのは福井RIDEコーポレーション(企業名)。2023年8月、福井に設立されたスタートアップ(ベンチャー)企業で、JR西日本と地元金融機関に加え、東京でWOW RIDEを運行したKNT-CTホールディングスが参加します。KNT-CTは近畿日本ツーリストやクラブツーリズムの親会社です。

「新感覚バスを体験して」(飯田JR西日本地域共生部長)

運行期間は、2024年6月1日から夏休みを挟んだ9月30日までの4ヵ月間。チケットはJR西日本の「tabiwa by WESTER」(2024年5月31日から)または福井バスツアーを案内する「はぴバス」(発売中)で。バス乗車券に恐竜博物館入場券をセットした、割安な企画券も用意します。

東京の試乗体験会には、JR西日本本社から飯田稔督(としまさ)理事・地域まちづくり本部地域共生部長が出席。「東京や首都圏、さらに全国の皆さんに新幹線で福井にお越しいただき、新感覚バスを体験してほしい」と意気込みます。

いこっさ!福井号をバックに抱負を述べる飯田JR西日本地域共生部長(筆者撮影)

敦賀にはキハ28も

ここまで新感覚バスの話題でしたが、ラストは本サイトをご覧の皆さまへの敦賀観光情報。地域を代表するスポットが「赤レンガ倉庫」で、20世紀初頭に外国人技師が設計、2009年に国の有形文化財に登録されました。

館内には、鉄道と港がテーマの「ノスタルジオラマ」。隣接地に旧敦賀港駅舎を利用した「敦賀鉄道資料館」があり、国鉄気動車としておなじみだったキハ28が展示されます。

記事:上里夏生