「やっぱりわたしのテニスはクレーが合っているんだなって、今年やっと実感しました」
 穏やかな自負を言葉に込めて、彼女は柔らかく笑う。
 全仏オープン予選の2回戦。アンキタ・レイナに6−3、6−2で快勝した、奈良くるみの言葉である。
 
 日本に生まれ育ちながら、「クレーが合っている」と明言する選手は珍しい部類だろう。奈良にしても元々は、クレーが得意なタイプでは決してなかったはずだ。
 大きな転換期となったのは、今も師事する原田夏希コーチと共に、独自のテニスの構築を目指した2012年の頃。

 155cmの小柄な身体で世界と戦うため、2人が築き上げたのは“大きなストライドのフットワーク”や“スピンを掛けたフォア”を用いた、コートを広く使うテニス。中ロブやアングルショットも多用する高い戦略性が、赤土で最も生きるのは言わば必然だった。

 2014年のツアー初優勝をつかんだのは、ブラジルのレッドクレーの上。目標を失いかけしばらくラケットを握らなかった4年前も、再びプレーの楽しみを教えてくれたのは、ローランギャロスの赤土だった。思えばクレーコートは幾度も奈良に、モチベーションや再浮上の契機を与えてくれた場所。そして今回も、コロナ禍による長い中断を経た後に、彼女はローランギャロスでツアー再開後初勝利をつかみとっていた。
 「それほど調子はよくなかったので、足と気持ちで戦おう」と割り切り勝った予選1回戦だったが、その接戦のなかで奈良は、ラリーを組み立てポイントを取る楽しみを見出していた。
 そうして迎えた2回戦では、立ち上がりから「クレーコートでやるべきテニス」を遂行する。

 スピンをかけた重いフォアで相手を押し下げ、浅くなった返球を得意のバックやスイングボレーで叩き込んだ。相手がポジションを下げ弾むボールに備えだすと、今度はドロップショットやアングルショットで前のスペースを活用する。早いリズムで攻めたい相手の持ち味を封じ込めた、まさに「クレーコートでやるべきテニス」だった。

 これで、7年連続の全仏オープン本戦出場まで、残すところ1勝。その前に立ちはだかるのは、先の全米オープンで大坂なおみとフルセットの接戦を演じた、18歳のマルタ・コスチュクだ。

 ランキング以上の実力を備えた新鋭が、厳しい相手なのは間違いない。ただ奈良は、「逆に良い相手だと思う」と笑みすらこぼす。
「今の自分のクレーの戦い方が、どこまでできるか試せると思う。今日と同じ気持ちで戦って、どうなるか見てみたいと思います」
 本人が楽しみにするその一戦を、見る方も楽しみにせざるを得ない。

文●内田暁

【PHOTO】奈良くるみのコースを狙ったサービス、ハイスピードカメラによる『30コマの超分解写真』