MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)やFPS(ファーストパーソンシューター)をはじめ、競技性の高いゲームジャンルを題材に対戦相手と競い合う……それが”eスポーツ”である。その市場規模はここ数年、急激な成長を遂げている。「Global Esports Market Report 2020」(Newzoo)によれば、2023年度の時点で収益規模は約1700億円に到達する模様だ。

 しかし地域別の規模感を参照すると、中国とアメリカが二強として存在感を放つ一方、日本のeスポーツ市場はまだまだ小さいと言わざるを得ない。というのも、2019年時点の日本の市場規模は約61億円。国内市場が目覚ましい成長を遂げているのは事実だが、他国より抜きん出てeスポーツシーンを牽引しているとは必ずしも言えないだろう。

 なぜ国内eスポーツ市場は海外と比べて規模感が小さいのか?「ゲーム大国日本」と言われているのに、なぜeスポーツは出遅れているのか? 今回はゲーム市場やゲームに対するユーザーの向き合い方などに焦点を合わせ、国内eスポーツ市場が遅れを取っている理由について解説する。
  まずはゲーム市場そのものに注目してみたい。「ファミ通ゲーム白書2020」(ファミ通)によると、2019年の世界ゲームコンテンツ市場は15兆6898億円とされている。日本単体で見た場合だと1兆5000億円となっており、世界市場においても決して引けを取っていない。10年連続で拡大言わば”ゲーム大国”と言って良い動向である。

 では、ゲームユーザーが興味を示すプラットフォームはどうだろう。同じくファミ通ゲーム白書2020には、”2019年のゲーム人口(4793万人)のうち、アプリゲーム(スマートフォン向けアプリ)のユーザーは微増”と置きつつも、”家庭用ゲームユーザーとPCゲームユーザーは減少”と記してある。家庭用ゲームユーザーは約2200万人、PCゲームユーザーは1330万人。”家庭用ゲーム機とPCの両方でゲームプレイに興じている”ユーザー層がいたとしても、両データの差は明白だろう。

 ここで抑えておきたいのは、国内ゲームユーザーの周辺事情。世界のeスポーツシーンで特に活況なのは、『League of Legends』や『 Counter-Strike: Global Offensive』といったPC専用ゲームタイトルが多い。この傾向は今に始まったことではなく、eスポーツ黎明期の1990年代末の時点から既に顕著であった。
  ところが日本はそうではなく、ゲームの主流は家庭用ゲーム機(以下、CS)である。1983年発売の「ファミリーコンピュータ」を一種のターニングポイントとし、『スーパーマリオブラザーズ』、『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』等々、CSのアクションゲームやRPG(ロールプレイングゲーム)を中心として家庭用ゲーム市場が形成されてきた。その反面、仕方のないことかもしれないが、PCゲーム市場は中国やアメリカよりもスケール感が小さい。上述の通り、PCゲームユーザーも少なめであり、eスポーツシーンと関わりの深いPCゲームタイトルのユーザー母体も同様に小規模である。

 具体例として、同じアジア圏に属する韓国の取り組みを挙げてみよう。韓国は20年ほど前から官民一体となり、PCゲームを中心とするeスポーツ市場の形成に力を入れてきた。1997年12月に行われた「Korea Professional Gamers League」を皮切りとし、各地域を統合したeスポーツイベントが出現。形態は荒削りながらも、ゲームタイトルを用いた競技型イベントが一種の産業として始動。2000年には「21世紀プロゲーム協会」(現・韓国eスポーツ協会)も発足し、人々は競技型ゲームの秘めるポテンシャルに注目し始めていた。
  また、日本のネットカフェに近い施設「PCバン」が韓国内に大量出店されていたのも要注目。利用料金も1時間あたり日本円で数百円と手頃かつ、一時は2万前後の店舗が常時フル回転していたこともあり、韓国のPCゲームユーザー増加に大きく貢献した。放送事業者もeスポーツの試合をケーブルテレビで取り扱い、「On Game Net」を筆頭とする専門チャンネルが登場。実際にイベントへ参加するプレイヤーとは別に、試合を外から見て楽しむ観戦者が増え、eスポーツは興行(エンターテインメント)の側面も強めていった。

 上記はあくまでも韓国におけるeスポーツシーン発展の例だが、「家庭用ゲーム以上にPCゲームが盛り上がっていた」という一点に注目するだけでも、PCゲーム市場ならびにPCゲームユーザーとeスポーツ市場の関連性が掴めるのではないかと思う。逆に考えるなら、”PCゲーム市場の成長・育成”が国内eスポーツシーン繁栄の鍵を握っていると言えるだろう。
  PCゲームを取り巻く事情に加えて語っておくべきは、日本の法制度。国内でeスポーツ元年と謳われた2018年を境に、高額賞金を取り扱うeスポーツイベントが既存の法制度に抵触するとして、ゲーム業界を越えてさまざまな専門家から意見が寄せられていた。何かと議論の巻き起こるeスポーツと法律の関わり合いについては、「日本eスポーツ連合」(以下、JeSU)やプラットフォーマー、有志の働きがけが功を奏し、以前より幾らかは緩和化したように思われる。

 特に不当景品類及び不当表示防止法(景表法)、刑法、そして風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律(風営法)はネックであったものの、このあたりは「日本eスポーツ連合」(以下、JeSU)が公共団体と話し合いを進めたことで、一つずつハードルは取り除かれているようだ。既に解決策が見えていた景表法と刑法のほか、風営法に関しても2020年9月にガイドラインが策定され、法律面に対する取り組みは堅調に進んでいる。
  ここまで”国内eスポーツ市場が遅れを取っている理由”を、PCゲームユーザーと海外におけるゲーム文化、法制度の観点から追ってきた。とはいえ、立ち上がりの遅れた日本も昨今になってeスポーツ市場が隆盛しつつあるのは確か。目に見える動きとして、eスポーツ関連施設の新規オープンが目立つ。気軽に立ち寄ってPCゲームを遊べるカフェ、お酒や食事と一緒にeスポーツ観戦も楽しめるバーラウンジ、さらには60歳以上のシルバー層を対象に捉えたeスポーツ教室など、上は北海道、下は沖縄まで、全国各地に特色ある施設が点在。「esports 銀座 studio」(東京都・銀座)、「REDEE」(大阪府・吹田)といった複合施設・大型施設の新設も話題を集めた。

 eスポーツイベントと言えは都内を含め、都市圏で開かれるものが主流とされがちだが、各地方を拠点に行われるローカルイベントも特筆すべきポイント。人気ぶりによっては数百人単位の参加者が押し寄せることもあり、地域密着型の催しとして十分に地方創生を果たしている。
  2016年12月に誕生した「ToyamaGamersDay」ではゲーマーコミュニティと地元企業、テレビ局が手を取り合ってイベントを演出。別府温泉で有名な大分県は、大分県eスポーツ連合の主導で「BEPPU ONSEN LAN」を企画。足湯で身体を温めつつ、参加者が持ち寄った機材でそれぞれゲームプレイに興じるという、同県の観光名所と絡めたイベントで注目を浴びた。こうした動向は地方創生になるだけでなく、各地方の人々に「eスポーツとは何たるか」を普及するハブの役目も担っているのではないだろうか。
  冒頭で述べた通り、日本eスポーツ市場は世界規模において控えめであり、今後の成長を見越して各企業が参入中の”投資フェーズ”である。eスポーツに情熱を感じた人々の資産や試みが、これから何年かけて花開くのか。国内eスポーツ人口(選手・観戦者など)は順調に増加傾向を辿るのか。未来のeスポーツシーンに希望を抱きつつ、市場の行く末に注目したい。

文●龍田優貴