相手のダブルフォールトに乗じ、試合開始直後から一気に流れをつかみにいった。いきなりのブレークでリードすると、ポジションを上げ、圧力をかけ、なおかつ長い打ち合いも制し流れをジリジリと掌握する。

 気付けば相手に1ゲームも与えることなく、第1セットを颯爽奪取。第2セットは並走状態が続いたが、第5ゲームをブレークし、広げたリードを最後まで守り切った。

 最終スコアは、6−0、6−4。男子テニスツアーのマスターズ1000「マイアミ・オープン」2回戦で、ダニエル太郎が第13シードのアレクサンダー・ズベレフから完勝と言える勝利をつかみ取った。

 今季、足首の靭帯損傷から半年ぶりに復帰したズベレフが、まだ完全に調子を取り戻したとは言い難いのは確かだ。この日は体調を崩していたともいう。ただそれらの事情を差し引いても、ダニエルの心身は勝利を指して、ピタリと重なり合っていた。

「とにかく、相手を後ろに押し下げようという気持ちで試合に入っていたんです」
  シード選手の利点である初戦免除が、試合勘が戻り切らぬズベレフにとっては、むしろ不安材料になることをダニエル陣営は察していたのだろう。ただ6−0の一方的なスコアは、取ったダニエルにも、幾分の居心地の悪さを覚えさせる。

「ファーストをああいう形で勝つと、ちょっとセカンドセットで怖くなる。この流れが、セカンドセットでもずっと続くことはないだろうなという恐怖があった。そこで恐怖に乗っ取られず、どういうふうにすれば相手がもっと息苦しくなるかを意識した」

 その決意を実践できたのは、この1か月でキャスパー・ルードやマテオ・ベレッティーニと戦い、競り勝った経験が大きい。その2試合ではいずれも第1セットを取るも、第2セットは相手の逆襲に合い落としている。

 だからこそ今回のズベレフ戦では、襲い来る内なる恐怖に備え、そして打ち勝った。

「セカンドセットでも、相手のサーブで必ずプレッシャーをかけ続けた。それが、相手がなかなかリズムをつかみきれなかった理由だと思うし、それができたのは経験だったり、自分が技術的にうまくなってきたからだと思います」
  そう言いダニエルは、満足そうな笑みをこぼす。とりわけこの日の試合で威力を発揮したのは、フォアハンド。それは前週のBNPパリバ・オープン時に、ダニエルが「課題」に上げていた点だ。

「フォアで自分から支配する」のが彼の求めるテニスであり、6−0、6−4のスコアは、そのテーマ完遂を意味していた。マイアミ・オープン開幕前も、“アドバイザー”のスベン・グローネフェルトと共に、フォアを重点的に磨いてきたという。

 2月に世界4位のルードにも勝ったダニエルは、もはやズベレフ戦の勝利も、特別なこととは感じていないのだろうか?

 その問いに“30歳の成長株”は、「半々くらいですかね」と応じる。

「自分がこういうことをできるというのは、前から信じていた。でもズベレフ相手に6−0、6−4のスコアで勝てるとまでは、なかなか思えなかった」
 「あと今までは、先週の大会で良い結果を残せていると、『一回くらい気持ちを抜いても良いかな』と思ってしまうこともあった。でも今回は、『またここから連戦だ』みたいな気持ちで取り組めたことは、すごい良いこと。この波を逃さず、一度リラックスしてから、また上げていきたい」

 難関ズベレフを突破した先では、現在好調の23歳、エミル・ルースブオリがダニエルを待つ。

「クールで、常に安定した良いプレーをする」と警戒する世界54位は、安定感を次なるテーマとするダニエルにとって、格好の試金石になる。

現地取材・文●内田暁

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