アスリートへのインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回登場するのはスカイランニングで世界大会のメダル獲得を目指している上田絢加。大学卒業後にスカイランニングと出会い、仕事と競技を両立。会社員の傍ら、2020年スカイランニング日本選手権〈SKY〉で優勝を果たした。
世界の舞台へ果敢に挑戦する注目の女性スカイランナーにこれまでの競技歴、その土台となる食への意識、今後の夢などを聞いた。
■学生時代
──子どもの頃はどんなスポーツをされてきたんですか?
水泳を10年、トランポリンも数年やりました。家族で出かけたスキーも楽しかったですね。とにかくスポーツが大好きでした。
──中学・高校では陸上競技をやられていたそうですね。
中学は800mを中心にやっていました。短距離は才能の部分が大きく、純粋な走力でトップ選手に勝つのは難しいと思ったので、高校は400mハードルに挑戦したんです。
高校からの種目ですし、ハードルを極めれば勝てるチャンスがあると考えました。タイム的には全国の100傑に入ったんですけど、大阪はレベルが高くて上の大会に進むことはできませんでした。
──神戸大学に進学された後は、どんなスポーツをやられたんですか?
入学して基礎スキーのチームに入ったんです。授業がない期間は長野県の戸隠を拠点に練習していました。ただ私が求めていた方向性と少し違っていたこともあり、2年時からは別のスポーツをするようになったんです。
──大学在学中にウルトラマラソンにも参加されています。どのようなきっかけがあったんですか?
スキーチームをやめて、もやもやしていたんです。そのタイミングでたまたまフルマラソンを走ったらすごく楽しくて、距離を伸ばしたら面白いんじゃないかなと思ってウルトラマラソンに挑戦するようになりました。
──どんな大会に出場されたんですか?
最初のウルトラは70㎞で、河川敷を7往復するレースでした。走っているときは、「なにやっているんだ?」と思ったんですけど、フィニッシュしたら良かった思い出しか残らなかったんです。
一番印象に残っているのはチャレンジ富士五湖ウルトラマラソンですね。富士山を目前にゴールできるので達成感がありました。競技というより、旅行感覚で楽しく走っていた感じです。
写真:日本スカイランニング協会
■スカイランニングとの出会い
──大学卒業後はサントリーに入社されました。そのなかでスカイランニング(最初はトレイルレース)とどのように出会ったんですか?
就職で上京したら、トレイルを走る人が多かったんですよ。それまでトレイルランニングは知らなかったんですけど、社会人2年目(2017年)に興味本位でトレニックワールド㏌外秩父の43㎞に出場したのがきっかけですね。自然のなかを走る感覚は今までなかったので、こんなに心が浄化されるスポーツがあるのかと感動しました。
──そこからスカイランニングに入っていくわけですけど、出会いは〝偶然〟だったそうですね。
友人から「山を走るイベントあるからおいでよ」と言われて行ったら、2016年スカイランニング世界選手権日本代表の星野和昭さんが教えるスカイランニングの講習会だったんです。
──最初のスカイランニングのレースはいつですか?
2018年2月の講習会を受けた後、星野さんから「香港に面白い大会があるから行こう!」と誘われました。旅行好きだったので、エントリーしたらスカイランニングのレースだったんです。
急峻な場所もある50㎞超えの大会で、トータルで3000m以上登りました。きつかったですけど、すごく面白かったですね。しかもアジア選手権だったんですよ。
──結果はいかがでしたか?
強い日本人選手が他のレースに出ていたこともあって、3位に入ることができたんです。当時はスカイランニングのための練習をしていたわけではないので、正直ラッキーという感じでしたね(笑)。
その結果で日本スカイランニング協会の強化選手に選ばれたので、そこから本格的に競技に取り組んでいこうと心に決めました。
■スカイランニングについて
──スカイランニングがどのような競技なのか改めて教えていただけますか。
トレイルランニングと似ているんですけど、トレイルランニングはどちらかというと横移動が重要なんです。一方、スカイランニングはいかに速く登るのか。垂直方向に駆け上る競技になります。
──上田さんは企業で働きながら競技を続けてきました。仕事とスカイランニングをどのように両立されてきたのでしょうか?
今年の1月まではフルタイムで業務をしていたので、平日の練習時間は1時間ほどでした。ですので、その1時間は自宅周辺を走るくらいですけど、日常生活が全部トレーニングだという心構えでいます。
デスクで座って仕事をしているときも姿勢を正して腹筋を意識したりと、トレーニングを兼ねることもできます。無駄なことは一つもないという意識です。あと職場の方々に自分自身のことを理解していただくことも大切だと思っています。
──会場や季節によってコースの状況も異なります。どのようなトレーニングをされているのでしょうか?
平日はインターバルトレーニングなどスピード系の練習をすることが多いです。休日は毎週のように群馬県片品村に行ってトレーニングをしていました。心肺機能を強化する意味でも山を走るんですけど、関東以北で一番標高の高い日光白根山(標高2578m)はよく使いますね。冬は雪山をスキーで登ることが多いです。
──鋭い岩がむき出しの斜面もあり、厳しい環境下でのレースになります。ケガをすることも珍しくないと思いますが、どんなことを意識していますか?
軽く転ぶくらいはあるんですけど、これまで大きなケガはありません。自然が相手なので、無理をしすぎてはいけない競技です。自分の実力以上のことはしないように気をつけています。自分の状態、コンディションを見極めて、冷静に進んでいくことが大切です。
レース中は景色を見る余裕がないことが多いんですけど、練習でよく行く山でも季節や天候によって表情が違うので、毎回楽しんでいます。
──2018年にスカイランニングアジア選手権で3位になり、翌年にはジャパンシリーズ年間総合2位。2020年にはスカイランニング日本選手権で優勝しました。ここまでの競技歴を振り返っていかがでしょうか?
やっと本当にやりたいスポーツに出会えた。だからこそ仕事をしながらも、競技にのめり込むことができて、結果もついてきたのかなと思います。
──凄いスピードで結果を出されていますが、上田さんのストロングポイントを教えてください。
突出した部分はあまりないんですけど、日本人のなかでは下りが上手だと思います。一番の強みは自然が大好き、競技を楽しめるという気持ちかもしれません。
──スカイランニング世界選手権〈SKY〉は20年大会(コロナにより延期21年開催)が20位、22年大会は15位でした。3位以内という目標を掲げていますが、目標達成に向けての課題はなんでしょうか?
下りで何人か抜かしたんですけど、登りがまだ弱い。より登りを強化しないといけないなという感覚があります。1000mほどの高さを一気に登る場合もあるので、フォームが大切になってくる。フォームも見直していきたいと思っています。
■食生活について
──幼少期や学生時代の食生活について教えてください。
自分で何か意識したことはないんですけど、母親が栄養バランスを考えてくれていたのかなと思います。そのなかで、子どものころはきのこと貝類が苦手でした(笑)。
──現在、アスリートとして食生活で意識していることはありますか?
忙しいときも彩りには気をつけています。「まごわやさしい」(豆、ごま、わかめ、野菜、魚、しいたけ、いもの頭文字)は意識していますね。最近は栄養士さんのアドバイスを聞いて、細かな栄養素まで落とし込んで食事をするようにしています。
──海外遠征中の食事や栄養管理はどのようにされているのでしょうか?
食事付きのホテルに泊まることが多いんですけど、海外では発酵食品が少ないんです。なので、レトルトの味噌汁などは結構持って行きますね。あと海外で提供される食事は日本食よりカロリーがどうしても高くなるので、食事量などは調節します。
■きのこについて
──食材としてのきのこについての印象はいかがですか?
子どもの頃は苦手だったんですけど、栄養の勉強をして、その印象が大きく変わりましたね。とらなきゃいけない意識になりましたし、山に行くときのこがたくさん生えているので、親しみを覚えました。食べるようになったら、どんどん好きになってきたんです。
──好きなきのこ料理があれば教えてください。
野菜炒めに入れたり、えのきの肉巻きなどですね。簡単な調理でもおいしく食べられるので、助かっています。
──きのこの栄養的な価値はどのように感じていますか?
きのこはビタミンBやビタミンDが多く、他の食材ではとりにくい栄養素も豊富です。スカイランニングは上に移動するスポーツなので、体重が軽い方が有利になる。カロリーが低いのも有難いですね。
──きのこには腸内環境を改善する働きも報告されています。腸の状態、腸活について意識したことはありますか?
便秘で困ったことは数年ありませんし、海外に行ってもお腹を下すこともないんです。きのこだけでなく、お味噌やヨーグルトなど発酵食品も大好きなので、その効果が出ているのかもしれません。
■これからのこと
──生涯スポーツとして普及させたい、楽しさを伝えたいという思いで、妹さんとYouTubeの活動もされています。上田さんが感じるスカイランニングの最大の魅力は何でしょうか?
自然のなかを縦横無尽に駆けめぐる感じが魅力ですね。1日でたくさんの景色を観ることができるので、ランニング好きや登山好きはもちろん、自然が好きな人にも是非やってほしいなと思います。
──スカイランニングに興味を持つジュニアアスリートへのアドバイスをお願いします。
勝ち負けだけでなく、自然を満喫してほしいですね。楽しんでいたら結果がついてくるスポーツだと思うので、ぜひ一度体験していただきたいと思います。
キッズレースもありますし、ショートコースに出る中高生もいます。また一線で活躍されている60代もいるので、幅広い年齢層で楽しめる。体力がなくなってきたら登山に切り替えることができますし、かたちを変えてずっと続けられるスポーツかなと思っています。
──上田さんは4月から新たな環境で競技をされているそうですね。
サントリーを1月に退社しまして、現在は群馬県で専門学校を運営している中央カレッジグループに所属しています。競技を中心とした生活になったので、新たな目標に向かっていきたいと思います。
──具体的にはどんな目標ですか?
今まではスカイランニングがメインで、オフのトレーニングとしてスキーモ(山岳スキー)を取り入れていたんですけど、今後はスキーモをメインにしていきます。
目標は2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪です。ずっとやってきたスポーツが五輪種目になるのは奇跡。このタイミングを逃したら一生後悔するだろうなと思うので、夏はスカイランニング、冬はスキーモと両種目にチャレンジしていきます。
上田絢加(うえだあやか)
1993年2月10日生まれ、大阪府富田林市出身
神戸大学卒、中央カレッジグループ所属
大学卒業後、25歳からスカイランニングに挑戦。初出場となる2018年のアジア選手権で
いきなり3位に入る。会社員の傍ら競技に取り組み、2020年はスカイランニング日本選手権で初優勝、2021年にはスカイランナージャパンシリーズで史上初のスカイ、バーティカルの2種目で年間チャンピオンに輝いた。現在はスカイランニング世界選手〈SKY〉のトップスリーを目標に掲げる一方、スキーモで2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に出場を目指している。
「本当にやりたいスポーツに出会えた」スカイランニングと山岳スキーの2種目で世界へ挑む上田絢加の原動力と食習慣
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