現地時間5月17日、ボストン・セルティックス(第2シード)とマイアミ・ヒート(第8シード)によるイースタン・カンファレンス・ファイナルがマサチューセッツ州ボストンのTDガーデンで開幕し、ヒートが123−116で白星発進を飾った。

 プレーオフでは戦いのステージが上がるほど、戦術も緻密になり、指揮を執るヘッドコーチ(HC)の存在が重要になる。セルティックスは就任1年目のジョー・マズーラHCがリーグ最年少の34歳であるのに対し、ヒートのエリック・スポールストラHCは現在52歳、2008年から同球団を指揮して今季が15年目の名将だ。

 2012、13年にはリーグ連覇を達成したほか、11、14、20年にもイーストを勝ち上がってファイナル進出を果たしており、この試合前の時点でNBA歴代5位のプレーオフ通算104勝(68敗/勝率60.5%)を残している。

 同一チームを率いて15年目というのは、サンアントニオ・スパーズのグレッグ・ポポビッチHCの27年目に次いで現役2位。以下、ゴールデンステイト・ウォリアーズ9年目のスティーブ・カーHC、デンバー・ナゲッツ8年目のマイケル・マローンHCが続くが、今年は異例とも言えるほど指揮官の解任劇が起こっている。

 レギュラーシーズン終了後に、ヒューストン・ロケッツがスティーブン・サイラス、デトロイト・ピストンズがドゥエイン・ケイシー(フロントへ転身)、トロント・ラプターズがニック・ナースと決別。さらにプレーオフで敗退したチームでは、ミルウォーキー・バックスのマイク・ブーデンホルザー、フェニックス・サンズのモンティ・ウィリアムズ、そしてフィラデルフィア・セブンティシクサーズのドック・リバースも解任が発表された。
  セルティックスとのシリーズ前、スポールストラHCは連日の解任劇に「不安にさせるね。本当に驚きの解任のニュースばかりだったから、タフな数週間になっている」と口にしていた。

「ドックは殿堂入りコーチだ。アンディ(エリスバーグ/ヒートGM)がいつも言っていることだけど、ファーストラウンドを突破すると、もう本当に優れたチームばかりなんだ。素晴らしい選手たちや組織、コーチングスタッフがいる。それでも敗れてしまうのは仕方のないこと。わずかなチームしか先へ進めない。だから本当に難しいことなんだ」

 今季のヒートは直近13年間で7度目のカンファレンス・ファイナルへ駒を進めたが、NBAという世界最高峰のバスケットボールリーグにおいて、プレーオフを勝ち上がることが非常に困難なことなのは間違いない。

 ただ、今オフはスポールストラHCが言及したリバースをはじめ、2019年にラプターズを優勝へ導いたナース、21年にバックスを50年ぶりの頂点へと導いたブーデンホルザー、下位に沈んでいたサンズを上位に押し上げたウィリアムズと、強豪チームのHCが相次いで解任されている。

 スポールストラHCは「私には意味が分からない。実績を残してきたベテランコーチたちが(解任されるなんて)、唖然としてしまう。すごく不穏なことになっている」と驚きを隠さなかった。

 6月22日に開催されるドラフトに向けて、今後は新たなヘッドコーチ人事も決まっていくことが予想されるだけに、プレーオフの行方はもちろん、“フリーエージェント・コーチ”たちの動向からも目が離せない。

文●秋山裕之(フリーライター)