5月18日、卓球の五輪3大会連続メダリストである石川佳純(全農)が東京都内で開いた引退会見は、ファンへの感謝で涙を浮かべる場面あり、質疑応答で披露した圧巻の中国語あり、パリ五輪を目指す後輩たちへのエールあり、盛りだくさんで心温まる内容だった。

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 約75分間の会見の全体を通じて漂っていたのは、一編のスポーツ小説を読ませてもらうような爽やかさだ。その理由は、石川が冒頭の挨拶で語った「コートに立った時は、その日の全力プレーを自分なりにやる。100%の準備、100%の状態で、その日にできる自分のすべてを出す。それを大切にして頑張ってきました」という言葉と、言動を見事に一致させてきた“トップアスリート石川佳純”の生き方に集約される。

 目の前の試合に全力を傾けるという美学は、最後の最後まで貫かれていた。
 「東京五輪が終わった時点で、それまでは『次のオリンピック』をすぐに口に出して目標にしてきましたが、東京五輪の後は目の前の一試合、一試合というところを目標にやってきました。ですから、自分自身もハッキリといつが終わりになるのか、正直分かりませんでした。そのなかで5月の世界選手権に出場できないことが決まって、自分としてもいいタイミングなのかなと思い、そこで現役引退を決意しました」

 そのタイミングとは、昨秋にあった選考会で、世界選手権個人戦(20日から南アフリカ・ダーバンで開催)の代表入りを逃した時のことを指す。

 石川はそこで引退を決意。そのうえで、具体的な時期の設定をいつにするかを熟考しながら決めていった。

“最後の試合”を4月の中国での国際大会にしようと決めたのは3月。家族のグループLINEにだけ、4月の大会を最後に引退することを伝え、中国へ向かった。
 「直前にファンの方に伝えようかなと思ったのですが、やっぱり最後まで全力で戦う姿を見てほしいと思って」(石川)、決意を自分のなかだけにしまい込んで対峙した最後の相手は、東京五輪女子シングルス金メダリストで、石川とは1歳違いの陳夢(中国)。

「コート外では友人でもあって、最後の試合が陳夢だったことに不思議な縁を感じました」

 石川は微笑みを浮かべながら、「終わった後は涙が出てくるのかなと思っていたのですが、すごく清々しく、嬉しい気持ちの方が大きくて、『やり切れたな』と思いました。現地のファンの方にも笑顔で手を振ることができて良かったです」と言った。

 リオデジャネイロ五輪以降に繰り広げられた東京五輪女子シングルス代表争いで抱えていた“苦悩”について、「何ごとも追い抜くときはすごく楽しいんですけど、追い抜かれるときは苦しさもあって、難しい時間もあった」と本音を吐露する場面もあった。

 それでもくじけずにここまで戦ってこられたエネルギーはどこから沸いてきたのか。

「現役生活が長くなればなるほど、苦しい時間は増えてきました。けれども、自分自身に向き合うことを諦めない、そこから逃げないという、自分なりのポリシーを強く持っていました」
  自分で決め、心に据えたモットーを最後まで貫いたからこそ、前を向いたまま引退の日を迎えることができた。

 今後は得意の中国語を活かして、世界中の子供たちが中国選手と練習試合をやるというようなイベントのアイデアも披露した石川。20日から始まる世界選手権に出る日本代表選手たちに向けては、「全員の目標が世界一だと思います。中国の壁は高いと思うけど、毎回毎回全力で戦って挑戦していくなかで突破口が見えてくるかもしれない。全力で戦ってほしいです」とエールを送った。

取材・文●矢内由美子

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