MLBでは、ドラフトでの成功を判断するためには忍耐強さが求められる。トップクラスの選手であってもメジャー昇格には2年、大半の選手は3〜5年を要するからだ。

 だが、エンジェルスの遊撃手ザック・ネトは違う。彼は昨年6月のドラフトで指名されてからわずか9ヵ月後にビッグリーグへ昇格した。2022年のドラフト指名選手では最速の昇格だった。

 エンジェルスは昨年のドラフト全体13位でネトを指名した。契約金350万ドルは、全体13位の推奨額(440万ドル)を下回っていた。おそらくこれは、ネトが他の1巡目上位指名選手ほど知られた存在ではなかったからだ。

 ネトはキャンベル大という、ノースカロライナ州の小規模な学校の出身だった。そして、あまりにも型破りな打撃スタイルが少なくない数のコーチやスカウトを遠ざけた。

 メジャー最初の36試合で、ネトは打率.248、2本塁打、OPS.682という成績を残している。決して好成績ではないが、大学を出てからまた1年も経っていないことを思えば十分に許容できる範囲だ。

 マイナー(大半は2A)では通算44試合で打率.322、8本塁打、OPS.937をマークし、素晴らしいディフェンスも披露していた。今春のメジャーキャンプでもアピールし、ドジャー・スタジアムでのオープン戦最後の2試合でも活躍した。
  ネトの打者としての能力と遊撃でずば抜けたディフェンスを目の当たりにして、エンジェルスはメジャー昇格の準備が整っていること、そしてデビッド・フレッチャーよりも遊撃のレギュラーに適任であると判断したのだ。

 4月15日、エンジェルスは少なくとも25年まで2000万ドル以上の契約が残っていたフレッチャーにマイナー降格を告げ、ネトを2Aから昇格させた。

「そうせざるを得なかったということだね」。ネトが昇格した日、フィル・ネビン監督は語った。「この春、私たちは彼の素晴らしい才能をたくさん目にした。ドジャー・スタジアムでのフリーウェイ・シリーズでの活躍には驚かされた。2Aでも絶好調だし、今がいいタイミングだと判断した」

 それから1ヵ月以上が経ち、ネトは今後も長くエンジェルスのショートストップを務めることは確実になったように思える。昨年のドラフトで、スカウト部長のティム・マックルベインが下した判断が正しかったことを証明した形だ。
  エンジェルスのスカウト部長としては、昨年が初めてのドラフトだったマックルベインによれば、チームの意思決定者全員がネトを指名するべきだとの意見で一致していたという。だがそれは、彼特有の風変わりなスウィングを分析してからのことだった。ネトのレッグキックはかなり大きく、左足をまるで投手と同じくらい高く上げる。極端にレッグキックが大きいと剛速球に振り遅れ、緩い変化球にはタイミングを合わせづらい、というのが球界の常識だ。

「私も最初は懐疑的だった」とマックルベインは言う。「だが、彼の映像を見ると、どんな時でもタイミングをしっかり合わせている。決して振り遅れることがないんだ。メジャーでは投手の球も速くなら、どうしても心配になる。だが、大学で剛速球を投げる投手と対戦する時でも彼はいつもうまくタイミングを合わせていた。言ってみれば天性の才能だね」

 ネトによると、あの独特のレッグキックは高校に入る前から始めていたという。彼は、ジャスティン・ターナー(現レッドソックス)やハビア・バイエズ(現タイガース)といったメジャーリーガーを模範に自分のスウィングを作り上げた。ネトはまた、状況に適応するのも巧みだ。2ストライクに追い込まれた時や、投球動作が素早い投手と対戦する時はレッグキックを封印する。「あんまり急いでスウィングをいじるのは、コーチとしてはあってはならないことだ良」とエンジェルスのマーカス・テームズ打撃コーチは言う。「まずは彼に任せてみるつもりだ。彼には独特の感覚があって、これまでうまくやってきているからね。傍から見て風変わりだからと言って、それをいじるのは良くない」

「『このレッグキックじゃ成功しない』と言われると、それが間違いだってことを証明してやるという自信につながるんだ」とネトは言う。「僕はずっとそういう人たちが間違っていることを証明してきた。だから、このビッグステージでも自分が通用することを証明したいんだ。これまでやってきたスタイルでね」

文●ジェフ・フレッチャー

プロフィール:『オレンジカウンティ・レジスター』紙でエンジェルスのビートライターを務めるベテラン記者。アスレティックスやジャイアンツでも番記者を務め、全米野球記者協会(BBWAA)の一員として、殿堂入り投票権も持つ。昨年、大谷翔平についての著書『SHOーTIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』(徳間書店)を発表した。