トレバー・バウアー。2015年から5年連続で2桁勝利、通算83勝、20年にはサイ・ヤング賞を獲得などメジャーを代表するピッチャーのひとり。

 そんな超大物が紆余曲折を経てベイスターズに入団。ファームでのデビュー戦では横須賀スタジアムにチケットを求めるファンが大集結し、普段は顔を見せない海外メディアも取材に訪れるなど、“バウアーフィーバー”を巻き起こした。

 5月3日に一軍デビューを果たすと、7回をわずか98球で投げきり、被安打7、奪三振9、失点1と初登板初勝利をマーク。こぞって“さすが”と称賛していたが、9日の巨人戦は6回7失点(自責6)、16日の広島戦では2回7失点と大炎上。一度ファームでの調整登板を経てからの27日に6回を2失点と持ち直したが、ここまでの戦績は4ゲームに先発し、1勝2敗、防御率は6.86と期待に反する数字が並ぶ。

 サイ・ヤング賞受賞の実績も、わずか60試合に短縮されたシーズンの追い風に乗っただけだったのではないかなど、懐疑的な意見も散見され始めてしまった。

 なぜバウアーは日本で苦戦を強いられているのか。本人や関係者のコメントと共に紐解いてみたい。
  4月16日にファームのライオンズ戦で実戦デビューした際には、1死二、三塁のピンチで、トラックマン測定では全て150キロ超えのストレートで押しまくり、二者連続3球空振り三振で切り抜けた。

 女房役を務めた益子京右は「事前に話し合っていて、真っ直ぐ投げるときはベルトから太ももの間にミットを構えてくれと。そこを狙ってベルトから胸の辺りに一番強いボールが行くからと言っていた」と話し、「低めは基本投げないですね。真っ直ぐは。まあ投げられるんですけど、今日の段階では高めの真っ直ぐでファールや空振りを狙おうって話をしていた」とゲームプランを明かした。その上で「ホップ成分というか球速以上のものを感じますね。西武打線も真っ直ぐは強いんですけど、その打線でもわかっていてもバットに当たらないストレートでした」と証言していた。
  メジャーでは“フライボール革命”によるバレルスイングが主流になっており、ボールをすくわれる可能性の高い低めよりも、あえて高めに配球するのがトレンド。本人も「特にスタイルを変える事は考えていない」と話していたように、メジャー式のピッチングをしようと考えていたと想像される。

 しかし一軍で通用したのはデビュー戦のみで、9日のジャイアンツ戦では浮いた変化球を狙われ「球種選択のミス、ボールの精度、相手のゲームプランが勝った」と特にストレートが少なかったと反省。

 カープと2度目の対戦となった際は「感触で言ったら今年一番くらいで、コントロールも良かったと思う」と前回の内容を見直して投球しながらも炎上した。「バウンドするようなカーブをヒットにされてしまうとか、154キロ出ているインハイをホームランにされてしまうとか、ボールの質やコントロールの問題ではないのかなと思います。被打率自体が高く、フェアになるボールが全部ヒットになる不運。ボール球で勝負する、バウンドするような球で勝負する、いろんな球種、いろんなボールを投げていても今ヒットになっている状況。サインがわかっているとしても、7割は打たれない」とコメントもお手上げ状態。三浦大輔も「球が高い。それに尽きる」と突き放したような発言が耳に残った。
  だが27日の中日戦では6回を2失点。ソロホームラン2本に抑え、奪三振7と上々の結果を残した。クイックで相手の足も封じ、左打者には、内側に食い込むカットやナックルカーブでヒット1本に抑え込み、総じてストレートも低めに制球されるなど、課題も徐々に克服してきた感もある。球速は来日最速の159キロをマークし、1球1球のコマンドも上向いてきたが、この3連戦では初戦のロバート・ガゼルマンは7回を1失点、3戦目の大貫晋一はあと一死で完封と、バウアーよりも格段にいいピッチングを見せているだけに、特段優れた内容とは言い切れない。

 約2年間のブランク、WBCを制覇した高レベルのNPB。ネガティブな要因も相まって、戦前の予想ほどの活躍を見せられていないが「アメリカでは、このバッターは何が得意で何が苦手かというのをよく知っていたのですが、日本ではまだまだ知らない部分がある」との言葉から、メジャーでも相手の弱点を突く点にフォーカスしていたことが垣間見える。決して恵まれた体躯を持っていないが、野球を科学する“ベースボール・サイエンティスト”として成功を収めてきた知性派は、各データを集積、分析し、成功へのパズルを組み立てている最中ではなかろうか。

取材・文●萩原孝弘

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