日本代表での今季初の公式戦が始まった。5月30日から名古屋で開幕したネーションズリーグだ。

 昨季は世界選手権に挑み、準々決勝でブラジルを相手にフルセットの熱戦を繰り広げたが、惜しくも競り負け無念の5位。だが、磨き上げてきたスピードやサーブで主導権を握る日本バレーは、世界を相手に十分通用するものだと証明してみせた。

 東京五輪が2020年から1年延期され、24年のパリ五輪まで日数が限られるなか始まった昨シーズン。5年ぶりに指揮を執る眞鍋政義監督の采配に加え、注目を集めたのは初の主将となった古賀紗理那だった。高校時代から注目と期待を集め、15年のワールドカップにも出場したが、16年のリオデジャネイロ五輪への出場はかなわず、涙を飲んだ。

 その悔しさをバネに、所属するNECレッドロケッツでは攻守の要であるエースとしての活躍を見せ、18年の世界選手権、19年のワールドカップに出場し、21年の東京五輪にも選出された。だが五輪では初戦のケニア戦で着地の際に足首をひねり、最後まで満足のいくパフォーマンスを発揮できず、日本もグループリーグ敗退を喫した。
  一度は「もう日本代表でプレーするモチベーションがない」と、代表へ選出されても辞退しようとしていたと後に明かしたほどだ。結果だけを見れば不完全燃焼に見えるが、古賀のなかではリオ五輪の落選から走り続けた5年間に、どこかで燃え尽きていた。だが古賀のスピード、コート内で発揮するリーダーシップは比類なきものであり、眞鍋監督は主将に任命。一度は「絶対に行かない」と考えていたが、「もしも自分が(日本代表へ)行かずにパリ五輪へ行くことができなかったら後悔するかもしれない」と思いとどまり、覚悟を決めた。

 主将に就任して初のシーズンとなった昨季、まず世界を驚かせたのが古賀のスピードだ。チームとしても攻撃の柱としてきたバックセンターからのバックアタックが、眞鍋監督曰く「各国の監督から『あの日本のバックアタックの速さは何だ』と驚かれた」というほどであり、その中心は紛れもなく古賀だ。レシーブをしてからも素早く攻撃動作に入り、相手ブロックが完成する前に打つ。中央に意識が集まれば、サイドからの攻撃も効果的に決まるため、日本のバックアタックは必殺技でもあり生命線。特にスピードの基準となったのが古賀だった。
  キャプテンとしての堂々とした振る舞いに加え、速さと威力を増したバックアタック。充実のシーズンが続くかと思われたが、オランダで開催された世界選手権の中国戦で、東京五輪の悪夢がよみがえるかのように、着地でバランスを崩し負傷退場を余儀なくされた。古賀を欠くなか、同じアウトサイドヒッターの井上愛里沙や、石川真佑の活躍もあり、勝ち進んだ日本は先述の通り、準優勝したブラジルとも互角に渡り合う強さを見せた。

 しかし古賀自身はと言えば、決して満足のいく結果が得られたわけではない。だがそこで折れることなく、次のシーズンこそは自身が思い描くパフォーマンスを発揮すべく、NECでは再びバックアタックのスピードに磨きをかけた。

「常に練習から試合を想定してきた」と言うように、連戦が続くなかでも高さとスピードが衰えることなく、昨年末の皇后杯を制した。Vリーグでは、一時はファイナルラウンド進出に赤信号が点滅する崖っぷちに追い込まれた。だが抜群の勝負強さで「負けられない戦い」を次々制しファイナルラウンドへ進出し、ファイナル4の初戦で敗れた東レアローズとの再戦となった決勝も、フルセットの末に勝利し、6年ぶりのVリーグ制覇、MVPに輝いた。
  悔しさをバネに飛躍を遂げた充実のシーズンとなったが、実り多き1年となった理由は他にもある。プライベートに目を向ければ、同じ日本代表で活躍する西田有志との結婚を昨年12月31日の大晦日に発表した。

 年齢は古賀が4歳上の姉さん女房だが、2人で試合の動画を見るなどバレーボールの話で互いを刺激し合う。古賀にとっても「いろいろアドバイスをしてくれるので心強い存在」であり、西田も「一緒に頑張れる、刺激になるし頼れる、支えでもある」と彼女のサポートが大きいことを明かしている。

 開催国で予選免除の東京五輪と異なり、パリ五輪に出場するためには厳しい予選を勝ち上がらなければならない。だが逞しさを増し、真のエースとなり、頼れる伴侶もいる。夫婦で五輪、主将で五輪を果たすべく、自身の技と心を磨く。そんな古賀の戦いに注目したい。

構成●THE DIGEST編集部

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