多くの注目選手が出場した今年の夏の甲子園。中村奨成(2017年広陵・現広島)や吉田輝星(18年金足農・現日本ハム)のような甲子園の歴史に残る活躍を見せたスターは不在だったが、それでも将来が楽しみな選手は少なくなかった。

 そこで、今大会で輝きを見せた選手からベストナインを選出してみたいと思う。単純な活躍ではなく、「将来プロで活躍できる可能性が高いかどうか」というドラフト候補的な視点を選考基準とした。

【右投手】森煌誠(徳島商3年)
【左投手】黒木陽琉(神村学園3年)
【捕 手】尾形樹人(仙台育英3年)
【一塁手】佐々木麟太郎(花巻東3年)
【二塁手】月山隼平(浦和学院2年)
【三塁手】森田陽翔(履正社3年)
【遊撃手】横山聖哉(上田西3年)
【外野手】松本大輝(智弁学園3年)
【外野手】西稜太(履正社3年)
【外野手】正林輝大(神村学園2年)

 右投手は湯田統真、高橋煌稀(いずれも仙台育英3年)、小宅雅己(慶応2年)、高尾響(広陵2年)、玉木稜真(東海大熊本星翔3年)、東恩納蒼(沖縄尚学3年)なども印象に残ったが、1人を選ぶならやはり森になる。継投で戦うチームが大半の中で、徳島大会5試合、本大会2試合を一人で投げ抜いた。敗れた智弁学園戦こそ打ち込まれたものの、愛工大名電戦で見せた投球はスピード、コントロール、変化球すべてが高レベルで、大会ナンバーワンにふさわしい内容だった。
  一方の左投手は洗平比呂(八戸学院光星2年)、福田幸之介(履正社3年)を抑えて黒木を選出。背番号は10で、全5試合がリリーフでの起用だったものの、敗れた仙台育英戦以外はほぼ完璧な投球を見せ、イニングを上回る奪三振も記録した。スカウトのスピードガンで147キロをマークしたストレートは大きいカーブでより速く見せることができ、大型左腕の割にコントロールも悪くない。今大会に出場した投手の中では、ドラフト会議で最も早く名前が呼ばれる可能性も高い。

 ファーストはやはり佐々木の存在感が圧倒的だった。期待されたホームランこそ出なかったものの、宇部鴻城戦と智弁学園戦ではいずれも3安打を放ち、どの打球も速さは目を見張るものだった。まだ速いストレートには差し込まれることが多いものの、それだけボールを長く見ようという意識の表れであり、逆に低めの変化球はしっかり見極めることができている。これだけのスケールのある打者はそうそう出てくるものではなく、スラッガーとしての素質は疑いようがない。

 セカンドはドラフト候補と呼べるような選手は不在だったが、攻守ともに2年生とは思えないプレーを見せた月山を選んだ。打撃はタイミングをとる動きに無駄がなく、ゆったりとボールを呼び込んでセンター中心に弾き返すことができる。仙台育英の高橋から3本のヒットを放ったのは決してフロックではない。セカンドの守備も細かいステップでバウンドを合わせるのが上手く、スナップスローの上手さも見事だ。打てるセカンドとして秋以降も注目の存在である。 サードは迷いなく森田を選んだ。1回戦の鳥取商戦では内角高めのストレートを捉えてレフトスタンドへ運び、続く高知中央戦でも高めのストレートを左中間へ叩き込んでみせた。身体の近くから鋭く振り出せるスイングの軌道は理想的で、内角球をさばく上手さは天下一品。引っ張るだけでなく、右方向にも強く打てるのも魅力だ。貴重な右打ちの強打のサードということでプロからの評価も高い。

 ショートは中澤恒貴(八戸学院光星3年)、山田脩也(仙台育英3年)、八木陽(慶応3年)、百崎蒼生(東海大熊本星翔3年)など好素材が多かったが、プロ向きの選手となるとやはり横山がナンバーワンだろう。チームは開幕戦でタイブレークの末に敗れ、横山自身も1安打に終わったが、ショートゴロをさばいただけでその動きの速さと正確で強いスローイングにスタンドがどよめくほどだった。シートノックのボール回しからその送球の速さは際立っており、力強い打撃と脚力も目立つ。大型ショートとして早くからプロでしっかり育ててもらいたい選手だ。

 外野はともに決勝に進出した橋本航河(仙台育英3年)、丸田湊斗(慶応3年)、加藤右悟(慶応2年)なども当然候補となったが、プロ向きという意味で松本、西、正林の3人を選んだ。 松本は初戦は力みから不発に終わったが、徳島商戦では森からセンターバックスクリーンに叩き込むなど持ち味の強打を十分に発揮。たくましい体格で下半身の強いスイングが大きな長所だ。木製バットにしっかり対応して、守備、走塁がレベルアップすれば将来的なプロ入りも見えてくるだろう。

 西は高いレベルで走攻守三拍子揃ったセンター。脚力は今大会でも屈指で、それでいながらしっかり振り切って強く引っ張れる打撃も光る。プロ志望なら指名の可能性も高い。正林は2年生とは思えない打撃技術が光る。今大会は5試合全てでヒットを放ち、センター中心に強烈な打球を連発した。来年は九州を代表する打者になりそうだ。

 優勝した慶応からは0人、準優勝の仙台育英からも捕手の尾形だけという結果。プロ向きの選手はむしろ序盤に敗退したチームに多かった印象を受けた。目玉候補の佐々木を筆頭に黒木、森田、横山なども、10月のドラフト会議に向けてぜひ覚えておいてもらいたい選手である。


文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。