現地12月9日、全米が、いや全世界が注目した争奪戦が決着した。大谷翔平がドジャースと契約合意に達したことが発表されたのだ。10年7億ドルは、マイク・トラウト(エンジェルス)の12年4億2700万円を上回るMLB史上最高額であるのみならず、NFLカンザスシティ・チーフスのパトリック・マホームズ(10年5億300万ドル)や、サッカーのリオネル・メッシが2017年にバルセロナFCと結んだ4年5億5500万ユーロ(約860億円)をも超えて、世界スポーツ最高額となった。

 詳細はまだ不明ながら、今回の契約のかなりの額は「後払い」形式になっているという。MLBにおける契約の後払いとは、一体どのような仕組みになっているのだろうか?

【PHOTO】日々輝く大谷翔平が魅せる喜怒哀楽の厳選ショット!(Part1) 

まず、後払いという手法自体は、大型FA契約においてはそれほど珍しいものではない。最近の例だと、マックス・シャーザー(現レンジャーズ)が15年にナショナルズと結んだ7年2億1000万ドルの契約にも後払いが含まれており、ナショナルズは契約期間終了後の22〜28年にかけて毎年1500万ドルもの金額をシャーザーに支払い義務を負っている。
  契約期間内の年俸額を抑えることで、チーム全体のペイロールの柔軟性を確保することが後払いの最大の目的。大谷の場合、普通に年平均で計算すれば年俸7000万ドルにも達する。そのうちのかなりの部分を後払い形式にすることで、他の補強に資金を回せるようになる。ドジャースにとってはもちろん、カネより勝利にこだわる大谷にとっても、この後払い形式はメリットが大きいと言える。

 MLB公式サイトによれば、大谷の繰り延べは「前例のない(unprecedented)」規模になると言われているが、過去にも風変わりな繰り延べ契約がなかったわけではない。代表的なところでは、1980年後半〜1990年代前半にMLB屈指のスラッガーとして活躍したボビー・ボニーヤの例が有名だ。

 99年オフ、ボニーヤは当時所属していたメッツを解雇された。ただ、この時点で590万ドルの契約が残っていたため、ボニーヤと代理人は球団に対し、支払いを11年まで遅らせる代わり、それ以降は年8%の利子をつけて、25年間の分割で受け取ることを提案した。フレッド・ウィルポン・オーナー(当時)がこれを受け入れたため、ボニーヤは72歳になる35年まで毎年120万ドル近くを手にすることになった。
  それだけならまだいいが、ボニーヤ最後にメッツでプレーした年の成績は60試合で打率。160、4本塁打、OPS.579という惨憺たる数字。ボニーヤに後払い分の年俸が支払われる7月1日(俗に「ボビー・ボニーヤ・デー」とも称される)は、毎年メッツファンに「こんな成績の尻拭いのために毎年120万ドルを払わなければならないのか」と“黒歴史”が突きつけられる忌まわしい日となっている。

 他にも、超長期にわたる「後払い」が提案された例がある。

 18年のシーズン中、ナショナルズはオフにFAを控えたブライス・ハーパー(現フィリーズ)に対し、何と2072年までの後払いを含んだ延長契約をオファーしていたという。実現していればハーパーには80歳まで支払いが継続されるはずだったが、本人が「65歳まで給料を受け取るような人間にはなりたくない」と拒否したため実現しなかった。
  最後に紹介する例も、考えてみればかなり奇妙な話だ。今季、アメリカン・リーグ最多の101勝を挙げるなど大躍進を遂げたオリオールズの“最高年俸”選手は、21年に現役を引退したクリス・デービスの1540万ドルだった。なぜ、このような事態になったのか。それは、デービスが15年に結んだ7年1億6100万ドルの超大型契約のおよそ4分の1が後払い形式になっていたため。加えて、若手中心のオリオールズには高額年俸選手がいなかったため、「すでにユニフォームを脱いだ選手がチーム最高年俸」という前代未聞の状況となったのだ。

 一部報道によれば、後払いによって大谷の年俸は「4000〜5000万ドル程度まで抑えられるかもしれない」とすら言われている。今から数十年後、大谷への“後払い”がボニーヤやデービスと同じ文脈で語られることがないように祈りたい。

構成●SLUGGER編集部

【関連記事】「どこで勝負する?」大谷翔平、ドジャース入り決定!MLB公式が予想した“最強スタメン”に反響「もうワクワクが止まらない」

【関連記事】「思い出をありがとう、ショウヘイ」エンジェルス専門メディアが大谷翔平に感謝「わたしたちはあなたを忘れません」

【関連記事】大谷翔平を失い「壊滅的な打撃」を受けたエンジェルス。専門メディアが補強を進言「山本由伸の獲得を」