体操ニッポンのエースが大会棄権の胸中をポロリとこぼした。

 体操のパリ五輪代表選考会を兼ねたNHK杯が5月19日、群馬・高崎アリーナで行なわれ、男子個人総合は20歳の岡慎之助が合計342.727点で初優勝を果たし、五輪初出場を決めた。2位だった萱和磨も2大会連続の五輪切符を手中に収めた。他には、団体総合で得点に貢献できる「チーム貢献度」で、杉野正尭と谷川航の2名が選出された。
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 熾烈な国内代表選考レースが決着した。ひと足先にパリ切符が内定していた東京五輪2冠の橋本大輝は、大会直前の公式練習で平行棒の演技中に右手の中指を負傷。病院で診察した結果、「右中指側副靱帯損傷」と診断。大会への出場は叶わず、無念の棄権を発表した。

 幸いにも怪我の具合は、いわゆる「突き指」。17日には、男子の強化本部長を務める水鳥寿思氏が「そこまで大きな影響はない」と軽傷を強調。「6月の強化合宿にしっかり間に合うようなスケジュールを想定している」と、復帰までの見通しを語った。

 橋本自身はこの大会期間、客席でチームメイトに声援を送ったり、代表候補選手らの演技をじっくり観察した。最終日の19日はパリ五輪代表選手として壮行会のステージに登壇。心配するファンの不安を吹き飛ばす元気な姿を見せた。
  橋本は競技終了後、報道陣の取材にも対応。「みんな素晴らしい演技でミスも少なく、本当にいい代表選考会だったと思います。自分もこの場で演技がしたかった」と、思わず本音を吐露。だがすぐに、「その気持ちを抑えて、パリで爆発させられたら」と話し、視線を花の都に向けた。

 国内選考レベルの高さを実感したと同時に、世界選手権の個人総合2連覇中の絶対王者は、客席から“ある懸念”を抱いた。「世界選手権を経験した時でも、やっぱり一番感じたのは、国内で評価されていたものが海外では評価されないことが本当に多々あるので。今日見て感じた所はつり輪の基準値だったり、他の基準値でも気になった」と話し、国際大会ゆえの判定基準を指摘。「これを海外でも評価されるように、しっかりと練習から積み上げていく必要があるんじゃないかな」と話し、十分な対策が必要だと感じたようだ。

 次に、誰もが気になる怪我の状態について問われると「(指は)握ったら、ちょっと痛いかなぐらい。そんなにひどい怪我ではない」と言いながら、「皆さん結構心配してくれるんですけど、そんなにひどくねえよと(笑い)。やっぱ欠場したことが、『よっぽど痛いのか?』って(周りが)思うんですけど、僕はそんなに気にはしてないですし、大丈夫です」と、明るく話した。

 逆に、開き直ることが一番の治療だとも語っており、「今この時期に無理する必要はないということも分かっているので、もう一度しっかり体を作る時期かも。実は今日も練習前にサブ会場で練習してたんですけど、できることは意外と多かった」と本番に向けて怪我を前向きに捉え、万全のコンディションで臨むことを誓った。

 東京五輪に続く個人総合の2連覇。さらには前回の団体戦で、わずか0.103点差で敗れ、銀メダルに泣いたリベンジも見据えている橋本。代表入りに懸ける仲間たちから多くの刺激をもらった体操ニッポンのエースは、静かに闘志を燃やしている。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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