バルセロナの監督去就問題が、またしても風雲急を告げている。

 シャビ監督は4月25日、会長のジョアン・ラポルタとふたりで一蓮托生を強調し、退任表明を撤回して来シーズンの続投を正式に発表した。しかし、それがつぎはぎだらけの演出だったと明らかになるのに、1か月もかからなかった。

 その間、お株を奪われるようなスタイルのフットボールでジローナに惨敗(2−4)を喫し、来シーズンのスーペルコパ・デ・エスパーニャの出場権が与えられる2位の座からの陥落危機に陥るなど、クラブを揺るがす事態が次々に起こったが、そもそもシャビとラポルタ会長の間の不信感の根底にあるのは、補強を巡る考え方の食い違いだ。
  無冠という結果を受けて捲土重来を期すシャビが、今夏、積極的な補強を望んでいるだろうことは想像に難くない。16歳のラミネ・ヤマル、17歳のパウ・クバルシといったカンテラーノ(下部組織出身者)のレギュラー抜擢で評価を得ているとはいえ、補強重視の姿勢は就任当時からずっと変わらない。

 しかし、シャビは一度退任を表明しながら、もう1シーズン、チームを指揮するチャンスをもらった身である。前言を翻し、ラポルタ会長に対して監督続投への意欲を示した際、彼は現在のチームと選手への信頼を強調した。そして会長はその言葉を信じ、続投を決めた。

 だがシャビは、その舌の根も乾かぬうちに、「今のままではマドリーや他の欧州の強豪クラブには太刀打ちできない」と、まだ今シーズンを戦っているうちからタオルを投げてしまったわけだ。スペイン紙『スポルト』によれば、ラポルタ会長はこの発言を「裏切り」と捉え、怒り、失望したという。 もっともシャビの言葉と行動に一貫性がないのは、今回に限ったことではない。退任意向の撤回はその代表例だろう。「バルサの監督でいると、悲惨で不快な気分になり、人々に敬意を払われていないように感じるときが多い」と述べ、今年1月に「今がここを去るベストのタイミングだ」という断定口調で退任を表明したが、その後チームが白星を積み重ねはじめると、「現時点では」というクッションとなる言葉を頭に置くことで、心の揺れを巧妙に表現していた。

 ラポルタ会長は指揮官のその一貫性のなさに完全に振り回された格好で、『スポルト』の元編集長、ジョゼップ・マリア・カサノバ氏は、「シャビが今シーズン限りでの退任を表明した時点で、即契約を解除しなかったことが今回の大騒動を招く原因となった」と主張する。

 現地報道によると、ラポルタ会長は最終節のセビージャ戦後にシャビと再度話し合い、結論を出すという。しかし「解任」とした場合は、スタッフも含めるとおよそ2000万ユーロ(約34億円)の違約金が発生する。金欠のクラブにとっては言うまでもなく痛い出費だ。
  もちろん「辞任」という形になれば、違約金を支払う必要はなくなるが、スペイン国内ではいずれにせよシャビ政権は今シーズン限りで終焉を迎えるという見方が主流となっている。

 面白いのは、このニュースを取り扱っている現地メディアの大半が、シャビが口癖にしていた「現時点では」という前置きの言葉を入れて報じている点だ。ゴタゴタ続きのラポルタ・バルサは、取材歴の長い現地の番記者にとっても「予測不能のびっくり箱」のようだという。

文●下村正幸

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