「もしもチームが苦しんでいたら、『急いで復帰しなければ』と考えないようにするのが難しくなる。ただ、(今のチーム状態なら)そう考える必要もないよ」

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 右肘痛からのリハビリを続けるエース、ゲリット・コールが5月21日(現地)にクラブハウスで語った言葉が、ヤンキースの現状を物語っているのだろう。この日はコールにとって重要な日になった。昨季、初のサイ・ヤング賞を受賞した大黒柱は開幕から戦線離脱してきたが、回復は順調な模様。21日のマリナーズ戦前、多くのチームメイトやスタッフが見守る前で、ヤンキー・スタジアムのマウンドに立ち、ライブBP(試合形式の打撃練習)で計20球を投げて復調ぶりをアピールした。

 このままいけば、6月頃にはメジャー復帰できるかもしれない。そうなれば、チームはさらに活気づくだろう。もっとも、冒頭の自身の言葉にある通り、現状ではコールが“救世主”などになる必要はない。開幕直後から快調に白星を重ね、12日からは7連勝。24日を終えた時点で35勝17敗。超激戦区のア・リーグ東地区1位、リーグ最高勝率で突っ走ってきた。

「ここまではすべてがうまくいっている」。投打がきれいに噛み合っていることは、辛口になりがちな『ニューヨーク・ポスト紙』ダン・マーティン記者ですらもそう述べていたことからも明らかだ。

 特に際立っているのが先発投手陣の頑張りだ。ルーキーのルイス・ヒルが5勝1敗、防御率2.39で嬉しい誤算になり、クラーク・シュミットも5勝1敗、2.49、カルロス・ロドンが5勝2敗、3.27、マーカス・ストローマンが3勝2敗、3.05、ネスター・コルテスが5勝1敗、2.39。この5人は5月12日〜20日の8試合で何と7勝0敗、0.86と完璧な投球を続け、相乗効果を発揮しているようにすら見えた。「最大のサプライズは先発ローテーションだ。コールが抜けても『持ち堪えると』いったレベルではなく、強みになっていることには驚かされた」

 MLB.com のデビッド・アドラー記者がそう語っていたくらいだから、冒頭で記した通り、コールが復帰を焦らずに済んでいるというのも理解できる。

 この強力ローテーションに引っ張られるように、打線も本塁打数、OPSでメジャー 2位と好調だ。フアン・ソトの加入で層は確実に厚くなり、4月は打率.207とスロースタートだったアーロン・ジャッジも5月はエンジン全開。14試合連続安打を続けるアンソニー・ボルピーの成長、ジャンカルロ・スタントンの復活と好材料も多く、強力打線と呼んでも遜色ない陣容になった。

 「ラインナップのどあらゆる場所に生産的な仕事をしてくれる選手がいる。比較的健康でいられているのも大きいのだろう」

 新旧の役者たちが力を発揮し、アーロン・ブーン監督も笑顔を抑えるのが難しいようだった。

 もちろんペイロールに総額3億1200万ドルが費やされた金満チームなのだから、これくらい勝っても当たり前と思う人もいるかもしれない。ただ、昨季のヤンキースは7シーズンぶりにプレーオフを逃した後で、今季の前評判はそれほど高いわけではなかった。

  何より、予想以上のペースで勝ち進む今季のヤンキースはニューヨークのファンを喜ばせるだけの魅力があるように思える。最近はヤンキー・スタジアムにも活気が戻ってきた。ニューヨークに数多いドミニカ系のファンを喜ばせるという観点でも、やはり昨オフにソトをトレードで獲得した意味は大きかったのだろう。

 シーズン最初の50試合で十分な力を発揮したヤンキースは、さらに向上する可能性すら秘めている。好バランスの今のロースターに、コール、トミー・ケインリー、DJ・ラメイヒュー、そして昨秋旋風を巻き起こしかけた21歳の新星ジェイソン・ドミンゲスらが戻ってきたらどんなチームになるのか。「NBAのニックス、NHLのレンジャーズもプレーオフで勝ち進んだから、これまでは注目度が分散してきた。ただ、夏以降はヤンキースに興味が集中することになるのではないか。今季中盤以降、ニューヨークは盛り上がりそうだ」

 マーティン記者のそんな言葉通り、"悪の帝国"の行く手に明るい光が見えてきている。アンチも多いチームだが、アメリカ東海岸のベースボールはやはりヤンキースが強い方が盛り上がるのは承知の事実。球界最大級のヒールが蘇り、2024年は久々に強烈な存在感を発揮しそうな予感が少しずつ漂ってきている。

取材・文●杉浦大介

【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。

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