総額約1178億円!ソトの超破格契約で改めて痛感する「日米年俸格差」。MLBとの差は今後も広まっていく一方なのか<SLUGGER>
THE DIGEST12/17(火)16:30

ソトは総額では大谷をも上回る超大型契約でメッツに入団した。(C)Getty Images
15年総額7億6500万ドル=約1178億円(1ドル=154円換算)
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平均年俸78億5400万円(実際は可変式で約115億5000万円が契約金)。
ヤンキースからフリー・エージェント(FA)になったフアン・ソト外野手が、メッツと合意した超大型契約の内容である。
日本プロ野球(NPB)では総額ではなく推定年俸で語られることが多いのでそちらに合わせると、NPBにおける日本人選手の史上最高年俸は田中将大投手(2021年/東北楽天)の9億円で、他の選手たちより3億円程度上回っていたが、それでもソトの約8分の1程度でしかない。
そういう格差がどうして生まれたのかはスポーツビジネス専門家の皆さんに任せるとして、事実としてアメリカのプロ野球には高卒(か同じぐらいの年齢の)新人で早くから一軍(この場合はMLB)で活躍すれば、76億円以上の年俸を15年間にわたってもらえる仕組みがあるということだ。
もっとも、今回のような破格の大型契約が誕生するたびに、アメリカでも賛否両論が噴出する。
ソトの契約は、昨オフに大谷翔平選手がドジャースと交わした10年総額7億ドルの史上最高契約を総額で上回る。そのため「エース級投手の実力がある大谷だからこそあの突出した契約になるわけで、実質、攻撃面だけで(ソトの守備の評価は高くない)こんな契約になるのは過大評価だ」などという声も上がった(SNSではもっと酷評する声もある)。
そんな中、もっともなことを言っていたのは、マリナーズなどで活躍した元内野手で、MLBネットワークのオフの定例番組『Hot Stove』のホストを務めるハロルド・レイノルズだった。「一つ確実に言えるのは、若くしてメジャーリーガーにならないと、こういう契約は勝ち取れないということ。最近のアメリカでは、まず大学に進学することを奨励されているし、野球で成功できなかった時のことを考えたらそれは理解できることです。しかし、それではソトの年齢(26歳)でFAにはなれないので、こんな大型契約は勝ち取れない。高校卒業と同時にプロ入りすることが、それを可能にするのです」
そのコメントを聞いてすぐ、年明けに発表される米野球殿堂入りの候補者にもなっているアレックス・ロドリゲス元内野手を思い出した。
先頃来日し、日本でも「A-ROD」の通称で親しまれているロドリゲスは、フロリダ州マイアミ近郊のウェストミンスター・クリスチャン高校時代、野球の遊撃手とアメリカン・フットボールのクォーターバックという花形ポジションの「スポーツ二刀流」選手だった。
最終学年、彼は33試合で打率.505、9本塁打、36打点、35盗塁と活躍して「ドラフト全体1位指名の逸材」と注目されていたが、ドラフトに先駆けて地元マイアミ大から野球とフットボールの「スポーツ二刀流」としての奨学金を勝ち取っていた。
当時17歳のA-RODが大学進学を諦めたのは、1993年のドラフト全体1位でマリナーズから指名されたからである。彼は3年総額230万ドル(契約金100万)で契約すると、翌年、18歳の時に早々とMLBデビュー。最初の2シーズンはメジャーとマイナーの間を行ったり来たりしたものの、96年、20歳の時にメジャーに定着して打率.358で首位打者タイトルを獲得。98年には「40−40(42本塁打&46盗塁)」を達成するなど、着実に実績を積み上げていった。
そんな彼がFAになったのは00年オフ、24歳の時だった。大事なFA権取得年に打率.316、41本塁打、OPS1.026、132打点、15盗塁と、いわゆる「5ツール(打率・長打力・スピード・守備・強肩)・プレーヤー」からさらにスケールアップした強打者へと変貌を遂げつつあった彼はその時点で通算打率.309、OPS.934、189本塁打、595打点、133盗塁と、スーパースターにふさわしい成績を残しており、同年オフ、10年総額2億5200万ドルという当時の北米プロスポーツ最高額でレンジャーズと契約した。
A-ROD(と言うよりレンジャーズと代理人のスコット・ボラス)が球界関係者から批判されたのは、それが当時の最高契約を630万ドルも上回る超高額契約だったためだ。
A-ROD獲得に失敗したメッツのスティーブ・フィリップスGM(現解説者)は「特別な選手に与えられた特別な契約」と表現しながらも、「一人の選手にそれだけの投資をすると、他の補強ポイントを犠牲にしてしまう」というコメントを残した。
フェルナンド・タティースJr.(14年3億4000万ドル)やマニー・マチャド(11年3億5000万ドル)らを擁する今では信じられないかも知れないが、当時は低予算球団だったパドレスの編成最高責任者ケビン・タワーズは地元紙にこう語っている。
「こういうことが起こると、小さな市場のチームが競争するのは難しい。テキサス・レンジャーズにとっては良い日だったろうが、球界にとっては悪い日だ」
当時、MLB副社長だったサンディ・アルダーソンはもっと否定的な意見を述べている。
「この契約はチーム運営のすべてに影響する。シーズンチケットの購入者が『我々は一体何を買っているんだ? アスリートを見るためなのか? 真の競技のためなのか? このチームは本当に勝つチャンスがあるのか?』と自問することになるだろう。これは危機的な状況です」 奇しくも、ソトの代理人も当時のA-RODと同じボラスである。彼は当時、MLB機構や他球団の否定的な意見に対し、冷静にこう答えている。
「待たざる者が突然、持つ者になった、という意味では、確かにこの契約は大きく球団経営に関与している。だが、80年代初頭のシアトルやテキサスについて考える時、時代遅れのスタジアムを持ち、非常に収益が低く、地元の共同体があまり関与していなかった本拠地だったと思い出すでしょう? ところが彼らは現在、巨額なテレビ放映権料やスポンサー収入によって成功している。だからこそ、この契約を成立させることができるのです」
「子供の頃に憧れの球団はメッツ」と公言していたA-RODは、同球団のオファーを蹴ってレンジャーズと契約したことと、在籍時のレンジャーズが優勝争いできなかったこともあり、ずっと後になってこの契約を「後悔している」と明かしている。彼はその後、紆余曲折あって入団したヤンキースではワールドシリーズ優勝も経験したが、レンジャーズと結んだ契約で信じられないほど裕福になったのだから、経済的には後悔などあろうはずがない。
そして、その高額契約もやはり、前出のレイノルズが言った「高卒でプロ入り」したからこそ可能になったものだった。
ドミニカ共和国出身のソトは15年、16歳の時にアマチュアFA選手としてナショナルズと契約金150万ドルで契約した。彼がMLBデビューしたのは、その3年後の18年、19歳の時である。98年生まれの選手で最速デビューした彼は周知のようにその後、チームの主軸に成長してオールスターやMVP投票の常連となった。
その過程で彼の評価≒年俸も右肩上がりで上昇した。
2019(20歳) 57.8万ドル(約8900万円)
2020(21歳) 62.9万ドル(約9686万円)
2021(22歳) 850万ドル(約13億900万円)
2022(23歳) 1710万ドル(約26億3340万円)
2023(24歳) 2300万ドル(約35億4200万円)
2024(25歳) 3100万ドル(約47億7400万円)
(1ドル=154円換算)
このように、20代前半にしてすでに何世代も家族を養えるほどの大金持ちになっていた。そしてこのオフ、26歳にしてFAとなり、15年総額7億6500万ドル=約1178億円、平均年俸78億5400万円を手にしたわけだ。
「やっぱりメジャーはすごいなぁ」と思いつつも、そこは日本人なので、やはりNPBの未来が少し心配になる。まさか日本の高校生が17歳のA-RODや、18歳のソトのような形でMLBと契約するようになるとは思わないが、ここまでMLBとの間に年俸格差が広がると、日本である程度活躍した主力選手たちがこぞってアメリカを目指すのが、今まで以上に自然な流れに見えてしまうからだ。
もはや「メジャー挑戦」などではなく「メジャー移籍」の時代である。
今年は佐々木朗希、来年は村上宗隆と、NPBのスター選手の海外流出は今後も止まりそうにない。それなのに、NPBが「観客動員数はMLBと同等以上」と報じられ、あたかも日本には世界屈指のプロ野球リーグがあるような幻想を抱いてしまいそうなニュースが流れ、それに並行して毎年のように「MLBの二軍化」が危惧されている。 この違和感は何だ?
佐々木のポスティング行使で話題になった「25歳ルール」や、五輪やプレミア12への出場選手の制限(=メジャーリーガーは絶対に送らない)でも分かるように、世界最大のプロ野球団体=MLBの海外の競技団体や選手への「上から目線」はまさに不動。NPBはこのまま、高額の譲渡金が発生しようがしまいが、結局は主力選手を米国に引き抜かれるだけで、日本が逆に引き抜くことなど想像もできない不公平な関係を続けていくのだろうか。
大谷翔平のドジャース移籍の際にも感じたことではあるが、米国在住のくせに、巡り巡って憂国の情に駆られてしまうのが、15年総額7億6500万ドル=約1147億円という夢のような超大型契約なのかもしれない――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
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