田中圭が、主人公のテストジャンパー・西方仁也を演じる映画「ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜」が6月18日より全国公開。同作は、1998年の長野オリンピックで日本中が感動したスキージャンプ団体による大逆転の「金メダル獲得」劇を陰で支えた25人のテストジャンパーたちにスポットを当てたヒューマンドラマだ。

知られざる感動秘話を織り交ぜながら、4人の代表選手と25人のテストジャンパーたち、そして彼らを支える家族や関係者たちの姿を描く。メガホンを取ったのはドラマ&映画「荒川アンダー ザ ブリッジ」(2011年ほか)シリーズや「笑う招き猫」(2017年)シリーズなどで知られる飯塚健監督。MISIAが主題歌、MAN WITH A MISSIONが挿入歌を担当している。

WEBザテレビジョンでは、聴覚障害のあるテストジャンパーで、周囲を明るくするムードメーカー的存在の高橋竜二を演じている山田裕貴にインタビューを実施。実際にスキー台に立った時の感想や飯塚監督とのエピソード、芝居に対する熱い思いなどを語ってもらった。

――1998年の長野オリンピックを題材にした本作に出演することが決まった時の率直な感想は?

実は、あの大会をテレビで見ていました。小2の頃だったと思うんですけど、家のテレビがついていて母親がキッチンに立っていた光景を今でもはっきりと覚えています。

日本が金メダルを取った時の実況も耳に残っていますけど、あの偉業の裏にテストジャンパーという方たちがいたことは全然知らなかったです。今回、原作を読んでそんなに大変なことがあったのかと。当時は全くメディアで伝えられなかったことなのでびっくりしました。

――聴覚障害のあるテストジャンパー・高橋竜二を演じる上で心掛けた点は?

竜二さんご本人にお会いした時に、他の選手たちは1人のスキージャンパーとして自分と接してくれたという話を聞いたんです。聴覚障害だということを気にする人は誰もいなかったと。竜二さん自身もそれがハンデだとは思っていなかったそうです。

もちろん、日常生活では大変なこともいっぱいあるけどテストジャンパーとしては、ただ飛ぶことだけを考えていた。その竜二さんの思いを大切にしながら演じました。

――役作りに苦労することはなかった?

どういう話し方がいいのか、いろいろ考えました。聴覚に障害がある方とお話しをする機会があったので、どの音がしゃべりづらいのか教えていただきました。

セリフがちゃんと聞こえるギリギリのラインはどこなのか。その部分は飯塚監督と話し合いながらやっていきました。それ以外は細かく言われることはなかったですし、僕からこんなふうに演じたいとリクエストしたこともなかったです。

――飯塚監督の作品は「虹色デイズ」(2018年)以来ですね?

「虹色デイズ」の前に、飯塚さんの作品のオーディションに参加したことがあるんです。でも、その時にセリフをすっ飛ばしてしまって…。泣きながら自転車をこいで家に帰ったことを今でも覚えています。しかも、その日はクリスマス(笑)。あのオーディションのことを忘れたことはなかったです。

今回、物語終盤の竜二のシーンを撮り終わった時に飯塚さんが遠くから歩いてきて「裕貴、めちゃくちゃいい顔してたよ」って言ってくださったんです。その言葉を聞いて今までのことが全部救われたというか、あのオーディション以来ずっと背負っていた十字架のようなものから解放された気分に。この作品に参加できてよかったなって心から思いました。

――テストジャンパーを演じるための“特訓”は、かなり厳しかったとか?

あの長いスキーの板を足に着けてスタート台に行くまでが大変。そんなに簡単には歩けないです。でも、作品の中ではテストジャンパーとしてしっかりと存在していないといけない。どんなに芝居がうまくできても、スキーの選手に見えなかったらダメ。その部分はみんな気にしていたと思います。

だから、スキーの練習をしたというよりは、スキージャンプの選手に見えるようなしぐさや挙動を意識しながら芝居をすることが難しかったです。

――劇中では、実際にスタート台に立つシーンがありましたね?

めちゃくちゃ飛びたいと思いました。飛べたら気持ちがいいだろうなって。もちろん飛べるわけはないですけど(笑)。

でも、実際に少しだけ滑っています。20mぐらい進んだらアクションチームの方たちが後ろから引っ張ってくれるから安全なんですけど、それでも風を感じましたし、これからどんどんスピードが上がっていくんだろうなという感覚はありました。

――日本代表選手の枠から漏れ、テストジャンパーになった西方(田中)がチームメートにライバル心を抱いたり、葛藤したりする部分はどんなふうに受け止めていましたか?

西方の思いは、ものすごく理解できます。僕も若い頃は自分がオーディションで落ちた作品を見ることができませんでした。それぐらい悔しかったし、誰にも負けたくないという思いが強かったです。

――栄光を陰で支えたテストジャンパーを演じたことで、スタッフに対する思いが変わった部分はありますか?

例えば、取材現場で写真や動画を撮ってくれる方、一つの作品に携わる方たち、山田裕貴をこの作品で使ってみようと思ってくれる方がいないと僕は何もできない。必然的に僕1人では成立しないということを日常的に感じています。

だからこそ、その方たちのためにいいお芝居をしたい。そもそも表と裏という考え方も違うのかなと。スタッフの皆さんを裏の方たちと思ったことはないですし、みんなで一つのものを作っているという感覚のほうが強いです。

――これまで、いろいろなタイプのキャラクターを演じていますけど、お芝居をする時に心掛けていることは?

あまりお芝居はしたくないなと思っています。その人(自分が演じる役)が、ちゃんとそこに生きているという意識を強く持つことを大事にしています。今回の作品も実話ではあるんですけど、劇中のセリフは実際に言っていたことと全部同じではない。でも、その“うそ”を本物にする作業をしないといけないんです。

そのためには、見ている方に「あ、このキャラクターはちゃんと生きているんだ」と思ってもらえるぐらい入り込まないといけない。自分を消す作業が必要なんです。それがうまくいった時は知らぬ間に自然と言葉を発しているような感覚になります。

自分で作ろうと思っていなくても、その時のキャラクターの感情が顔に出ていることがあって。竜二さんを演じている時は結構多かったような気がします。

――今回の作品を通して感じたスキージャンプの魅力は?

実際に飛んだわけではないので、ジャンプ競技の全てを伝えることはできませんが、あのスタート台から見た雪景色は素晴らしかったです。風の強さなどを含む気候やスキー板のちょっとした滑り具合で成績が変わってくる。

実力だけではどうにもならないところもあるから本当に難しい競技なのかなと。撮影の時に生で選手たちのジャンプを見せていただきましたけど、風を切る音もすごいしスピードも迫力満点。人間が空を飛んでいる感覚ってどんな感じなのか興味があります。


◆取材・文=月山武桜