民放公式テレビ配信サービス・TVer初の完全オリジナル番組「最強の時間割〜若者に本気で伝えたい授業〜」が無料配信中だ。5月5日日(金)に配信開始となったLesson21では、「2022ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされたインティマシー・コーディネーターの浅田智穂が講師として登場。先月HKT48を卒業した矢吹奈子らに日本のラブシーンのこれまでとこれからについて語った。

■インティマシー・コーディネーターは日本に2人?

「最強の時間割 〜若者に本気で伝えたい授業〜」は、さまざまなジャンルのトップランナーが特別授業を実施し、ラランドのサーヤとニシダ、そして学生ゲストらが参加。トップランナーたちの授業がアーカイブされることで、TVerに「最強の時間割」が完成するというコンセプトの番組だ。

Lesson21では、インティマシー・コーディネーターの浅田智穂が登場した。Netflxシリーズ「金魚妻」やドラマ「エルピス -希望、あるいは災い-」(カンテレ・フジテレビ系)、「大奥」(NHK総合)などに導入されたことがきっかけで、「2022ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるほどの注目を集めるインティマシー・コーディネーター。

インティマシーとは“親密な関係”を意味する単語で、インティマシー・コーディネーターはいわゆる性的描写を伴うシーンにおいて、監督と俳優の間に立ち、俳優の精神的・身体的な安心安全を守りつつ、最大のパフォーマンスが出せるようにコーディネートする職業だ。

昔から映画や舞台などが好きだったという浅田は、アメリカ映画に出てくるハイスクールに憧れを抱き、16歳の頃に渡米。留学中に舞台照明家を志し、ノースカロライナ州の芸術大学に入学した。卒業後は様々なエンタメ作品に通訳として関わったのち、2020年にアメリカのインティマシー・コーディネーター養成プログラムを終了。TVや映画など、映像の仕事におけるアメリカの労働組合「SAG-AFTRA」が認定する資格を取得した。

ワークショップは英語でのみ受講が可能で、本来ならば現地に赴かなければならないが、浅田の場合はコロナ禍だったため、全てオンラインで受講したという。その後、水原希子とさとうほなみが演じる女性二人の逃避行を描いたNetflix映画「彼女」の撮影に日本初のインティマシー・コーディネータとして参加したことが話題に。アメリカでのMeToo運動の影響も相まって、以降は様々な現場からオファーを受けるようになった浅田。しかし、世界に150〜200人いるインティマシー・コーディネーターのうち、日本で活躍しているのはたった2人。そのため浅田も多忙を極めており、現在は日本でもトレーニングが受けられるような準備が進められているそうだ。

■インティマシーシーンの定義とは

インティマシー・コーディネータの仕事はまず台本を読むことから始まる。そこから、インティマシーシーンに該当すると思われる部分を抜粋。例えば、「肌が露わになる」「激しく愛を求め合う2人」など、人によって想像に違いが出てくるような場面が台本に書いてあった場合、どれだけ肌が露出されているのか、具体的にどのような行為を切り取りたいのかといった演出方針を監督に確認するという。

また、日本にはまだインティマシーシーンに関する明確な定義やルールが存在しないが、アメリカでは「1.擬似性行為シーン」「2.ヌードシーン」の2つに分かれる。うち、ヌードシーンに関しては水着で隠れている部分を露出する場合を指す。つまり女性の場合はビキニを着た時に一部紐で隠れている背中を露出する場合もヌード。男性の場合は、ハーフパンツやブリーフで覆われている腰の部分を露出する場合もヌードとなる。ちなみにアメリカでは大人同士のキスシーンはインティマシーシーンには該当せず、未成年のキスシーンのみがそれに該当するそうだ。

実際に浅田は普段、どのように仕事をしているのか。趣里が主演を務めたドラマ「サワコ 〜それは、果てなき復讐」(TBS系)にインティマシー・コーディネーターとして参加し、監督の滝本憲吾と打ち合わせをしている映像をもとに見ていく。台本を読み、浅田がまず気になったのは「つい、胸元を見てしまう」という一文。そこには「胸元に目線が行く何かがあるはず」と考えた浅田は監督に衣装の詳細や露出度などを確認する。さらに、「サワコの喘ぎ声が漏れ始める」と書かれているシーンに関しては動作の詳細や、「布団の上なのか、それとも布団をかけた」状態なのかなどの状況も確認。もし、その上で胸元を触る演出が必要なのであれば、俳優から同意を得るのも浅田の仕事だ。

監督との打ち合わせで、浅田が大事にしているのは具体的に質問すること。「胸元を見るってどんな感じですか?」とざっくり聞くのではなく、「どんな衣装か」「どの程度、胸元ははだけてるのか」という風に1つずつ詰めていくことで、監督のプランを事前に聞き出し、俳優が安心して撮影に挑める環境を整えていくのである。
■「同意のないことは絶対にさせない」

もちろん、インティマシー・シーンに不安を感じるのは女性だけじゃない。男性俳優にも上半身を露出したくない人、「いつもこういうことをしていると思われたくない」と抵抗感を覚える人もいる。一方で、中には「前貼り(性器を覆い隠すためのカバー)は必要ない」と主張する人も。しかし、その場合、浅田はNOを突きつけ、それでも抵抗する人に関しては撮影所に立ち入り禁止を命じる。

なぜならば、インティマシー・コーディネーターは3つのガイドラインを掲げており、その1つが「性器が露出しないように前貼りを必ずつけること」だからだ。残りの2つは「事前に説明し、必ず同意を得ること」と、「インティマシーシーンの撮影は必要最少人数のスタッフ体制で行うこと」。同意のないことは絶対にさせないという強い心で浅田は仕事をしている。

裏を返せば、同意を取っていなかった過去もあったということ。実際に0歳から子役として活躍してきた元HKT48の矢吹奈子は、グラビアをやっている友人から撮影時、着るのに抵抗がある衣装を断りきれずに着たという話を聞いたことがあるという。それを受け、「日本人はNOというのが苦手で曖昧なまま進めることがやりやすいと思っている」と語る野田。つい人に気を遣って、自分の気持ちに蓋をしてしまいがちな日本の文化圏にこそ、インティマシー・コーディネーターは必要な職業なのだ。

また、野田は「NOと言える環境を作ることも大事」とした上で、かっこいい大人とは「相手の立場になって考えられる人」だと答える。最後に「俳優の立場、監督の立場もそうだけど、母親の立場だったり子供の立場だったり相手の気持ちを理解して対話したい」と語った。