俳優の笠松将が、5月31日深夜に自身のSNSなどで所属事務所ホリプロからの独立と、個人事務所の立ち上げを発表した。昨今はSNSも普及し、プライベートなことから仕事のことまで本人自ら発信しやすいツールも増えており、ある程度実績を重ねた俳優、タレントが独立するケースは少なくない。独立したとなると演技など芸能活動の他にもバックオフィス業務含め細かい作業はいろいろと増えると思うし、背負う責任も大きいが、自分のやりたいことをとことんやれるという意味ではメリットも大きいだろうし、すべて覚悟の上で羽ばたく彼の今後の活躍にエールを送りたい。そこで、今回は個人的に近年の出演作で特に印象深かった笠松の作品について紹介する。(以下、一部出演作のネタバレを含みます)

■“きみセカ”でハマり役との出会い

1992年11月4日生まれの笠松が本格的に俳優活動をスタートさせたのは、2013年公開の映画「生贄のジレンマ」から。現在30歳で俳優歴自体はまだ10年ほどだが、出演作はそれこそ映画、ドラマを中心に配信オリジナル、ミュージックビデオ、CMと多岐にわたり、枚挙に暇がない…どころか列挙するだけで原稿用紙何枚分になろうか…というほどたくさん出ている。

そんな彼の最大の魅力は「コワモテで不器用なチョイ悪、一見嫌な奴に見えるけど、深く関わると情に厚くて男気がある…たまにツンデレ」的なキャラクターを演じるのがめちゃめちゃうまいことである、と個人的には思っている。もちろん、異論は認める。

最近では2021年に放送開始した「君と世界が終わる日に」(日本テレビ系、Hulu)シリーズで演じた警察官・等々力比呂はまさにハマり役だった。笠松はシーズン1から主要キャストの1人として出演し、主人公・間宮響(竹内涼真)とは対極にいる冷徹で近寄りがたい一匹狼というか、孤高の存在の等々力を好演した。


■壮絶なラストに涙するファンも

等々力は、もともと同級生で同じ釜の飯を食った仲であった響や来美(中条あやみ)、のちに大切な存在となる佳奈恵(飯豊まりえ)らと付かず離れず終末世界を生き抜いていく中で芽生えた友情、愛情、時々ツンデレ…。作品になくてはならないスパイスを与えるキャラクターとして人気を博し、シーズン3では、絶体絶命のピンチだった響をかばって凶刃に倒れるというまさかの最期を迎え、視聴者の涙を誘った。そんな等々力という男を違和感なく、説得力を持って演じ切った。

SNSなどでの劇中では見られない竹内らとの仲睦まじいオフショットやほっこりするやりとり、無邪気な笑顔のギャップも彼の魅力を増幅させた感はある。

コワモテな武闘派キャラを演じるのがうまいというだけでなく、佇まいからして妙な色気をまとわせられるのも笠松の魅力。中谷美紀主演×蜷川実花監督のNetflixオリジナルシリーズ「FOLLOWERS」(2020年)で、夏木マリ演じる実業家・エリコの年下彼氏・季生(すえお)を演じた時は、エリコに焼きもちを焼いたりして甘える時の“子犬系”の表情、ジム通いで鍛えられた肉体美から放たれる隠しきれない色気、圧倒的なゲームの実力で反抗期なエリコの息子の心までも奪ってしまう無邪気さ。

コワモテな顔立ちとのギャップが萌え、その気はなくても“年下好き”のマダムたちのハートをゴリゴリにくすぐったのではないだろうか。Netflixオリジナルという限定されたコンテンツではあるものの、笠松の演技はドラマファンを中心に注目された。

■「ガンニバル」では“後藤家”のリーダーを好演

そして同じく配信オリジナル作品では、2022年12月からディズニープラスにて配信されたドラマ「ガンニバル」の後藤恵介役も、“笠松将ここにあり!”を示すには十分すぎる役だった。

同作は、2018年に連載がスタートした二宮正明の同名サスペンスコミックを実写ドラマ化したヴィレッジ・サイコスリラー。都会から遠く離れた山間にある供花村(くげむら)が物語の舞台で、事件を起こして村の駐在として左遷されてきた警察官・大悟(柳楽優弥)が主人公。一見、犯罪とは無縁ののどかで平和な村のように感じられるが、“この村では人を喰ってる”というウワサがあり、一人の老婦人の奇妙な死によって、大悟も少しずつこの村の異常性に気付いていく。笠松は供花村を支配する一族“後藤家”の次期当主・後藤恵介を演じた。

恵介はコワモテで冷静沈着、粗暴な男が多い後藤家にあってミステリアスな存在感を放つ立ち居振る舞い、時折見せる柔らかな表情…と、笠松自身の魅力を詰め込んだようなキャラクター。物語の序盤、供花村にやってきた主人公・大悟にいきなり因縁をつけたかと思えば豪快に笑ってごまかし、酒を酌み交わして“理解者”っぽく振る舞ったり、喧嘩っ早い後藤家の連中をまとめあげて大悟と適度な距離感を保ったり、先代を亡くして若き当主となった恵介を持ち前の演技力、そして迫力で体現した。

恵介役について、当メディアのインタビューでは「共感できる部分も多かったですし、自分にすごく近いキャラクターだったので演じていて楽しくもあり、難しくもあり、という感じでした」と自分に近いことを認め、共感を示している。

原作漫画における“ドラマの続き”箇所を読む限り、供花村VS大悟(警察)のキーパーソンとなる役どころなので、もしシーズン2があるとしたら…どこまで原作どおりに描かれるかはさておき、よりいっそう恵介=笠松の存在感が作品を彩るはずだ。

ちなみに、「ガンニバル」関連で伝えておきたいエピソードを一つ。これまで彼が演じた役、それに恵介役のおかげで、勝手ながら「笠松=怖い人」というイメージを持ってしまっていたが、2022年12月末、そろそろ大掃除でもしようかという時期に行われた先述のインタビュー取材の際、彼は「こんな年の瀬まで働かせてしまってホントすみません」と、自分だって休みなく働いてそろそろ休みたいだろうに、取材陣に対して気遣いの言葉をかけてくれた。そんなことを面と向かって言われたら、誰だってイチコロだ。

■ハリウッドの大手タレントエージェンシーと契約

2022年に放送されたWOWOW×HBO max共同制作のオリジナルドラマ「TOKYO VICE」(WOWOWプライム)では、外国人俳優を相手に流ちょうな英語で話し、バイオレンス&セクシーな魅力たっぷりのヤクザを演じた。彼自身「この作品に携わって自分の人生、いろんな価値観が大きく変わった」と記者会見で話していたが、同年ハリウッドの大手タレントエージェンシー・CAAとの契約を発表。日本のみならず世界を舞台に活躍の場を広げていくんだろうなと予感させた。

笠松はこの春始まった放送中の連続テレビ小説「らんまん」(NHK総合ほか)で蔵人・幸吉役でもいい味を出していたが、7月期にはテレビ朝日系で放送される「シッコウ!!〜犬と私と執行官〜」にレギュラー出演することも決まっている。

同ドラマで、普段は運送会社で働き怖そうな見た目ではあるものの、荷物の運び出しや管理などを手際よく補助し、主人公・ひかり(伊藤沙莉)のことを気にかける良き理解者・長窪桂十郎を演じるという。キャラ説明を聞いただけでもうピッタリな気がしてならないし、脚本はコメディーからシリアスまで魅力たっぷりなキャラクター作りに定評のある大森美香氏。大森氏とは大河ドラマ「青天を衝け」(2021年、NHK総合ほか)以来のタッグだけに、彼の魅力を十二分に引き出してくれるのは間違いなさそう。

誤解を恐れずに言えば、決して彼は“カメレオン俳優”ではない。あくまでも“クリエーターが見たい笠松将”のベストを更新し続ける、職人型俳優なのではないだろうか。それはワントーンな演技ということではなく、職人がたゆまぬ努力によって熟練の技術で毎度傑作を送り出すように、笠松が演技というフィールドで最高のものを見せ続けてくれている。日本の職人が世界でも一目置かれるように、近い将来、笠松が国内だけでなく海外を舞台にして活躍する姿も見られるはずだ。

◆文=月島勝利