韓国ドラマ人気を追い風に、注目を集める動画配信サービス。近年は壮絶な復讐(ふくしゅう)劇や衝撃的なアクションスリラーが話題をさらうことが多かったが、ここにきてその潮流に変化が見え始め、元気や癒やしをくれるハートフルなコメディー要素を持つ作品に関心が高まっている。今回は、“韓国の高視聴率コンビ”チャン・ヒョク、チャン・ナラ出演の「シークレット・ファミリー」を紹介する。(以下、作品のネタバレを含みます)

■時代はハード系からほのぼのコメディーへ

本作は、貿易商社の課長を装った超優秀スパイ・ドフン(チャン・ヒョク)と、平和で平穏な日々を夢見ながらもドフンの上をいく秘密を隠した妻・ユラ(チャン・ナラ)夫妻が繰り広げるドタバタコメディー。ディズニープラスのスターで独占配信中だ。

ディズニープラスでも、韓国ドラマは目玉ジャンルの一つ。チソン主演の推理サスペンス「アダマス 失われたダイヤ」(2022年)や、ソ・ジソブ主演のメディカル&法廷スリラー「ドクター弁護士」(2022年)、「ペントハウス」の脚本家が手掛けたドロドロ復讐劇「パンドラ 偽りの楽園」(2023年)など、韓国ドラマならではの重厚感ある作品が日韓同時配信され、話題を集めてきた。

その一方で、より気軽に楽しめるラインアップも増えている。2023年5月に配信スタートした「シークレット・ファミリー」は、超優秀スパイのドフンと、妻のユラをメインとしたコメディー作品で、2002年の共演作「明朗少女成功記」が最高視聴率42.6%という驚異的数字をたたき出したチャン・ヒョク&チャン・ナラの“黄金コンビ”最新作としても、スタート前から関心を集めていた。

■チャン・ヒョクの恐妻家ぶりも楽しいホームコメディー

韓国を代表するアクションスター、チャン・ヒョクに加え、妻役のチャン・ナラや職場の上司“オ部長”役のチェ・ジョンアンもキレッキレのアクションを披露するスパイアクションでありながら、上質なホームコメディーとしても楽しめるのが「シークレット・ファミリー」の魅力。特に序盤は、ユラの尻に敷かれるドフンの恐妻家ぶりや、義両親を実の家族のように大切にするユラの優しさ…など、心温まる癒やし要素がぎゅっと詰め込まれている。

■吹き替えなしのカーアクションも…

極秘任務でしょっちゅう呼び出されるドフンだが、スパイだということは家族にもナイショ。結果、家族イベントをすっぽかしてばかりの“ダメ夫”“ダメパパ”“ダメ息子”の烙印を押されている。家族にも正体を隠すドフンの、そんな一人ドタバタぶりがまず楽しい。

第1話では、カッコいいアクションで国際指名手配犯を捕まえた直後、妻・ユラとの結婚10周年旅行をすっぽかしてしまったことを思い出し大慌て。大きな花束を抱えてユラを空港に迎えに行くものの、到着したユラに冷たくあしらわれてしょんぼり…そんな“お約束”のダメ夫ぶりがテンポよく、コミカルに描かれる。走行中の車にしがみつく吹き替えなしのカーアクションも、スパイシーンではなくお怒りのユラに対して使われるのが「シークレット・ファミリー」ならではだ。

■チャン・ナラが義理の家族を大切にする良き妻を好演

一方のユラは、そんなダメ夫を我慢強くフォローする良き妻・良き母。舅にあたるドフンの父・ウンス(イ・スンジェ)を本当の父のように愛し敬い、まだまだ幼さが抜けない義弟ジフン(キム・ガンミン)や、その妻でちゃっかり者のミリム(ユン・サンジョン)のためにあれこれ親身に気を配る。その温かい人柄は癒やされオーラ満点。ユラにとっては、ドフンたちクォン一家こそが本当の“家族”なのだ。

そんなユラにとって、何のつもりかクォン一家を懐柔しようとプレゼント攻撃を仕掛けてくる謎の美人上司・オ部長はまさに“天敵”。大切な家族をモノで釣られてはたまらない、とユラはオ部長との対決に挑む。だが、オ部長もまた、彼女なりに守りたいものや孤独を抱えている――。

誰もが必死に生きている。それがたとえ平凡な日常でも、死と隣り合わせのスパイの最前線でも…。ドフンとユラをはじめ、個性的な登場人物たちがしたたかに生きようと奮闘する姿は、面白おかしくもいじらしい。

重厚感を備えたアクションサスペンスでありながら、それ以上に、時にほろりとさせられるホームコメディーでもある「シークレット・ファミリー」を見た後は、不思議と元気が湧いてくる。ハードなサスペンスもいいけれど心が潤うストーリーも楽しみたい…疲れた現代人の心を癒やすのは、そんな作品なのかもしれない。

◆文=ザテレビジョンドラマ部