2016年に俳優デビューし、ミュージカル『刀剣乱舞』やミュージカル「DREAM!ing」などに出演してきた佐藤信長。11月には橘直人役を務めるミュージカル「東京リベンジャーズ」への出演を控える彼に、芸能界を目指したきっかけや俳優としてのターニングポイントなど、これまでの自身についての話題や今後の展望について聞いた。

■中学生時代は目立ちたがり「“芸能人”になりたかった」

──芸能界入りのきっかけは「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」を受けたことだそうですが、そもそも芸能界を目指したのはどうしてだったのでしょうか?

中学生のときに将来の夢を発表する授業があって、そのときに「芸能人」と言っていた記憶があります。当時は俳優がやりたかったとかではなく、ざっくり“芸能人”になりたかった。とにかく目立ちたかったんだと思います。

──クラスでは盛り上げ役や中心人物だった?

はっちゃけていましたね。うるさくて、よく先生も怒られていました。

──当時、よく見ていたテレビ番組や憧れていた俳優さんはいましたか?

ドラマだと「ROOKIES」とかですね。佐藤健さんや桐谷健太さんが印象的でした。でも、別に「将来の勉強のために」とかそういう気持ちで見ていたわけじゃなくて。本当に、ただはやっていたから。次の日、学校で「昨日の『ROOKIES』さ〜」って話をするくらいの感じで見ていました。

──ぼんやりとした将来の夢だったところから、本格的に芸能界を目指そうと思ったのはどういうタイミングだったのでしょうか?

大学に入って、就活が始まったくらいですね。その頃にはなんとなく「芸能の仕事がしたいな」と思っていたんです。でも、なかなか踏み出せずにいて。

そんなときに、地元の友達が「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」を受けて、結構いいところまで進んでいたのを知ったんです。それを見て「自分が動いていない間に、自分の進みたい道に友達が進んだら絶対に悔しい!」と思って、次の年の「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」を受けました。ベスト30まで進んだところで落ちたんですが、そこで火がついて。養成所に1年通った後、事務所に入りました。

──それまでは「なんとなく芸能の道に」という感じだったと思いますが、養成所では具体的に芸能界で必要なものや現実を知ることになったのでは?

そうですね。養成所時代にも何人も辞めていきましたし、養成所の同期で今も芸能の仕事を続けている人は数人。すごく厳しい世界だとは思います。養成所時代は辞めていく同期を見て揺れることもあったんですが、スーツを着て普通に働いている自分の姿が全然想像できなかったんですよね。

あとは、そのとき大学を休学していたのですが、親に「大学は卒業してほしい」と言われていて。それを振り切って養成所に通っていたので、今さら引けないという気持ちもありました。バイトはしていたので、周りの友達が就職して安定したお金を得られるようになってきた頃には「早くバイトを辞められるように頑張ろう」と思うようになって…気付けば今、8年目です。

そうだ、20歳くらいのときにお金もないのに高いバイクを買いまして。その支払いのために頑張らないといけないというのもモチベーションでした(笑)。

■舞台の面白さとテレビ以外の世界を知ったデビュー作

──そして、2016年に俳優デビューを果たします。芸能界を目指した当初は「テレビに出たい」「目立ちたい」というものだったかと思いますが、お芝居というものに対しては最初から楽しめましたか?

最初は何も分からなかったです。しかも、初舞台作品はトリプルキャストだったんです。そのうちの2チームに参加して、しかも二つのチームでそれぞれ違う役をやるという、今考えても大変な出演の仕方だったので、本当に訳が分からなかった。でも、そんな経験はなかなかできないし、「舞台って面白い!」って思ったのも、その作品がきっかけです。

──面白いと思えたんですね。

はい。そもそも宮崎にいるときは、「劇団四季」という劇団があるとなんとなく聞いたことあるくらいの知識で、芸能の仕事といったら「テレビにいっぱい出る」だと思っていました。でも、舞台に出演してみて「こういう世界もあるんだ! 舞台って面白いな!」と思って。そこから舞台のお仕事をやらせていただくようになりました。

──その後、さまざまな舞台作品に出演されていますが、「舞台って面白い!」という気持ちは今でも変わらず?

はい。稽古中は毎回しんどいですけど、板の上に立って本番を迎えると楽しいですね。

──お芝居や舞台のどういうところに面白さや楽しさを感じていますか?

素の僕じゃ絶対に出てこない「俺を見ろ」みたいな気持ちが湧いてくるんですよ。役が乗り移っているのかもしれないですけど。最近で言うと、舞台「ブルーロック」の蜂楽廻(ばちら・めぐる)はキャラクター的にもすごく元気で、出てくるだけでパッと目に付くタイプ。だから、演じている僕自身もみんなに見られていて、その感覚が気持ちよかったです。

──中学生の頃「とにかく目立ちたい」という理由で芸能人になりたいと言っていた、そのときの夢がかなったというか。

そうですね。根本は目立ちたがり屋なんだと思います。

■メンタルの強さで乗り越えた、ベテランに囲まれた作品

──これまでを振り返って、特に自身のターニングポイントになったと感じる作品や役を挙げるなら何ですか?

7月に出演した悪童会議 旗揚げ公演「いとしの儚」です。ミュージカル「刀剣乱舞」の演出を手掛ける茅野イサムさんが、演出家としてだけでなく、20年ぶりに役者としても舞台に立った作品で、共演者はベテランの方ばかり。もちろん同世代からもらえる刺激もたくさんありますけど、この作品ではベテランの方々から本当にいろいろな刺激をいただきました。

それを特に感じたのは稽古です。稽古では同じシーンを何度も繰り返すのですが、皆さん毎回違うお芝居を見せてくださるんですよ。僕らの同世代だと、どうしても「早くお芝居を固めたい」という気持ちが大きくて、自分の中でお芝居を作っていってしまうのですが、「いとしの儚」では、皆さん毎回違うお芝居をされる。

その中で僕は何をやっても「違う」と言われて。でも、できてないのは自分でも分かる。その「できないのは分かっているけど、どうしたらできるのかが分からない」という感覚を久しぶりに味わいましたね。

──それはどうやって乗り越えたのでしょうか?

先輩方が何度も助けてくださったのはもちろんですし、あと僕はどうやらメンタルが強いらしくて。「違う」って言われても、落ち込まずに「どんなもんじゃい!」くらいの気持ちで、別の芝居をしてみるというのを繰り返していました。落ち込んで、引きつった顔でやっていても意味ないじゃないですか。もちろん家に帰ってからは反省したり改善したりはしますけど、稽古場で不必要に落ち込まなかったのが良かったのかなと思います。

──改めて今のご自身のお芝居に向き合ったり、現実を知らしめられたりしたのが「いとしの儚」だったと。

そうですね。2.5次元の作品だと、作品や演じるキャラクターの人気でお客さんがついてくださるところがありますよね。だから「いとしの儚」の間に、どれだけ佐藤信長として成長できるかというのも考えていて。

そういう意味では主演の佐藤流司くんは神がかっていて、それもすごく刺激になりましたね。茅野さんと流司くんが二人で、件鈴次郎という役を作り上げていく様子を見られたことは、特に勉強になりました。本番だと完成された鈴次郎しか見られないけど、それまでにいろいろな過程を経ていて。

僕は、稽古場で不正解を出すのが怖いので、当たり障りのないものを出してしまいがちなんですけど、流司くんは絶対に最初からど真ん中のものは出してこない。それを見ているだけでも面白いし、そうやって役を作っていく流司くんと茅野さんの時間を間近で見られたことが、僕の中ではかなり刺激になりました。

7年やってきて自分の中で破れていなかった殻のようなものの破り方が、一つ分かったような気がしました。その分、しんどかったですけどね。

■「やっぱりみんなライバル」目指すのは替えの効かない俳優

──11月から上演のミュージカル「東京リベンジャーズ」の出演も決まり、この先も人気作への出演が続く佐藤さんですが、俳優としての理想像や今後の展望はどのように考えていらっしゃいますか?

堺雅人さんがすごく好きなんです。日曜劇場「VIVANT」を見ていたら「半沢直樹」も見たくなっちゃって、今、並行して見ているんですけど(笑)。堺雅人さんのような、替えの効かない俳優になりたいと思っています。

一度やった役が、続編のときに何かの都合で別の方になっちゃったりしたら「信長くんの方が良かった」って言われたい…いや、でも僕はたぶんその作品のことが好きだから、そう言われるのも嫌だな(笑)。

そもそもそんなことはないと思うんですけど、でもやっぱりみんなライバルなので、特に1回自分が演じた役については「あの役は佐藤信長以外できない」と言ってもらえるような俳優になりたいです。

──ドラマもお好きとのことですが、ドラマや映画など、映像作品に出演したい気持ちは?

やりたい気持ちはあるんですけど、映像はほぼ未知の世界で…。でも、舞台とは違う面白さもあると思うので、機会があったら出てみたいです。

■プライベートの顔は「猫バカだと思われるかも」

──最後に少しプライベートのお話も聞かせてください。出演作の続く佐藤さんですが、SNSではたびたび愛猫を愛でている様子が伺えます。

実家で飼っている猫ですね! 僕が中1のときに飼い始めた保護猫なんですが、今もピンピンしています。あまり実家に帰れなかったときに忘れられていたこともあったのですが、よく僕のキャリーバッグに2匹がきれいにうずくまっていたりして。癒されますね。

最近飼い始めた新入りには、キャリーケースにおしっこかけられましたけど(笑)。そんなところもかわいいです。あと、これは猫バカだと思われるかもしれないですが……いつもごはんをあげるときに「ごはんだよ」って声をかけていたから、最近はごはんをあげると「ニャン」じゃなくて「ごはん」って言うんですよ! 最近は仕事で宮崎に帰る機会も増えたので、そのたびに猫に会えてうれしいです。

今年7月には「みやざき大使」にも就任させてもらい、宮崎のラジオやテレビにも出させてもらっているのですが、実家に帰ると親がそんな僕の番組を見て喜んでくれていて。その姿を見られるのも今の僕のモチベーションです。

◆撮影=小山志麻/取材・文=小林千絵/ヘアメイク=田中宏昌/スタイリスト=齋藤良介