大人気マンガ『呪術廻戦』の舞台化第二弾「舞台『呪術廻戦』-京都姉妹校交流会・起首雷同-」が、12月15日(金)より上演される。第一弾に続き五条 悟役を務める三浦涼介に、役作りや作品についてインタビュー。前作を踏まえ、今作では「“心”を伝えるお芝居をしっかりやれたら」と意気込みを語ってくれた。また、芸歴20年を超えた今でも自身を「常に新人みたいな感じ」と評する彼の、夢の見つけ方やモチベーションの保ち方についても聞いた。

■実の兄が『呪術廻戦』ファン

──三浦さんは舞台「呪術廻戦」第一弾から出演されていますが、それ以前に原作マンガやアニメなどはご覧になっていましたか?

僕の兄がすごく好きで、ちょうど出演が決まった年のお正月、家族で集まったときに「『呪術廻戦』面白いよ」と言われたんです。それをきっかけにアニメを観始めました。それまでもタイトルはよく聞くなと思っていたんですが、どういう話かは知らなくて。観たらのめりこんでしまいました。

──原作のどういったところに魅力を感じましたか?

僕は小さい頃からマンガやアニメにあまり触れてこなかったこともあって、ファンタジー過ぎるとわからなくなっちゃうんですけど、『呪術廻戦』は自分が歩いている街が映ったり、出てくるワードがキャッチーだったりして、意外とスッと入れて。呪術に対しても、怖さよりもカッコよさを感じたし、緊迫感にリアリティがありました。あとは戦うときは普段から一変してとても強くなるというキャラクターのギャップも面白いなと思いました。

──そんな『呪術廻戦』の舞台に出演が決まったときの感想を教えてください。

まず「お兄ちゃん孝行ができる!」と思いました。というのも、小さい頃からこの世界にいますが、家族や身内が好きな作品に出演なんて、あまり経験できることじゃないと思うので。兄に喜んでもらえるということがうれしかったです。

──出演が決まったときのお兄さんの反応は?

発表されるまで黙っていたので、発表された後にネットニュースか何かで見たのか連絡がきて。すごく喜んでいましたね。しかも僕の演じる役が五条 悟というところにも興奮していました。

■大人気キャラ・五条 悟を演じるプレッシャーは?

──三浦さんが演じたのは、原作でも非常に人気の高いキャラクターである五条 悟。「五条 悟を演じる」ということについてはどう感じましたか?

すごくうれしかったです。ただただ本当に光栄でした。僕は原作ありきのものでお仕事をさせていただくことへのプレッシャーを、良くも悪くもまだまだ知らなくて。だからプレッシャーに感じるというよりも、どこまでこのキャラクターを知って愛せるのかということや、原作のファンの方が五条さんに対して「こうあってほしい」と思うところを、できる限り逃さないようにちゃんと演じられるだろうかということは考えました。あとは、今まではどちらかというとネガティブな……わかりやすく言うと、明るくないキャラクターを演じることが多かったので、明るい五条さんを演じるということは、役者としてすごくいい経験になるだろうなと思いました。

──役作りはどのように行っていったのでしょう?

スタイル、歩き方や声のイメージといったところは逃したくなかったので、原作を全て読んで、アニメも全話観ました。どのシーンが一番みんなに好まれているのかもチェックしましたね。

──その作業というのは、原作のある作品ならではですか?

ほかの方のやり方はわからないし、僕自身2.5次元作品の経験があまりないので、僕の場合はという話になってしまいますが。僕は“役を自分に近付ける”というよりも、“役に近付いていく”ほうが楽しいし、自分には合っているんだと思うんです。でもだからといって、誰でもいいと思われるのは嫌。せっかくやるからには、「代わりはいない」と思いたいし、信じたいし、思ってもらいたいとは思っていました。

──実際に演じた三浦さんから見て、五条 悟という人物の魅力はどういったところにあると思いますか?

自然なところじゃないでしょうか。誰に対しても分け隔てなく同じ感覚で接していて、どこかにちょっと危うさもありつつ、でも任せたら絶対的で。何かあったら助けてあげたくなるようなところもあって、その身勝手さがチャーミングでもあり……って、本当に魅力の塊だと思います。

──明るい役はご自身にとって挑戦的だったとのことですが、実際に演じてみていかがでしたか?

顕作さん(舞台「呪術廻戦」の演出を手掛ける小林顕作)がハッピー過ぎて、自然と明るくなれました。稽古場に行くのがすごく楽しみで。お稽古って大変なこともたくさんあるし、悩むことも多々あるんですけど、一緒に悩んでくれたり、一緒に上がっていく感覚があって、すごくポジティブな現場でした。悩みがあっても、それに対していろいろ提案してくれるような感じで、常に前向き。それが役作りにも繋がったと思います。僕の性格的に、1作品でキャストやスタッフの皆さんとすごく仲良くなるということが、これまではあまりなかったのですが、舞台「呪術廻戦」では常に、緊張感もありつつみんなで笑って悩んでという感じで、すごく良い雰囲気でした。

■今作では「“心”を伝えるお芝居をしっかりやれたら」

──そんなカンパニーの中で、特に印象的だったやりとりや、どなたかの姿などがあれば教えてください。

やっぱり佐藤さん(虎杖悠仁役の佐藤流司)ですね。お稽古場での居方や、本番に入ってからの彼の背中。一つ一つ、1日1日に懸けていく姿がたくましくて、僕にはすごく刺激でした。この人がいることで舞台「呪術廻戦」のカンパニーは回っているんだなと思いました。

──年齢やキャリア問わず、年下の方からも素直に刺激を受けていらっしゃるんですね。

いや〜、皆さん本当にすごいですもん。自分が20代のときは自分のことに必死で、周りのことなんて全然見れなかったですから。年上の方でも年下の方でも、素敵な役者さんはたくさんいて、そこから学ぶことは多いですね。この世界にいるうちは、固まらずにいたいと思っていて。「こういう見せ方ややり方があるんだ」と知ることで、また一歩前に行ける気がします。

──12月から「舞台『呪術廻戦』-京都姉妹校交流会・起首雷同- 」が始まりますが、今作ではどんな五条 悟が見られそうですか?

今回はもう「生徒に任せます」っていう感じですね(笑)。新たに出演されるキャストの皆さんもいるので、そこにもとてもワクワクしていますし、パンダもね(笑)。寺さん(パンダ役の寺山武志)もワクワクしていることでしょう!

──前作を経て、今作に生かしていきたいことなどはありますか?

前回は“キャラクター”というところへの意識を高めていたんですけど、“心”を伝えるお芝居をしっかりやれたらいいなと思っています。あとはみんなキャラクターが濃いので、負けないように演じたいです。

──前作では、“心”を伝えるお芝居がしきれなかったと思うところもあるのでしょうか?

しきれなかったというか、初めてのこともあったので、芝居心よりも見え方に意識が持っていかれる部分が多くて。観に来てくださる皆さんが原作やアニメのストーリーを知っていることもあって、お客様に成立させていただいたところもあったと思うんです。でも自分たちから発信してみせることの大切さを改めて感じて。そこがないと、2.5次元舞台の意味がない。人がやっている意味がないと思うので、まずは“心”を大切にしたいなと改めて思っています。

■新しいお仕事の現場に行くとゼロに戻っちゃう

──先ほど、年上からも年下からも学ぶことが多いというお話もありました。三浦さんはキャリアも長いですが、俳優としてのご自身の現在地をどう捉えていますか?

常に新人みたいな感じです。何回舞台に立っても、新しいお仕事の現場に行くとゼロに戻っちゃう。「今まで何を学んできたんだ!?」って思うくらい、わからなくなって悩んじゃいます。もっとちゃんとしろって自分でも思うんですけど、なかなか悩みがちで大変です。周りの方にはそれでよくご心配とご迷惑をおかけしてしまうんですが。

──逆に、毎回悩みながらも作品に出続ける理由、俳優業の面白さはどういったところに感じているのでしょうか?

お客さんの前に立って、何かしらのリアクションや温かい拍手を頂くと、全部チャラになっちゃうですよね。いつも「もう無理かもしれない」「こんな思いするの、もうしんどいな」って思うんだけど、また舞台に立っているんです、不思議ですけど。そこに自分の力は全くなくて、助けてくださる周りの方や応援してくださる方の存在があって立てているんだと思います。

──では「今後こういう俳優になっていきたい」「こういう作品に出たい」という今後の目標のようなものはありますか?

夢というか「これは絶対にやりたい」とか「この演出家さん、この役者さんとお仕事してみたい」とか、そういうものをひとつずつ叶えてきて。今は、自分が小さい頃から出てみたかった舞台があって、それを叶えるのにちょっと一生懸命になっています。

──「小さい頃から出てみたかった舞台」というのは何か、は聞かないほうがいいですかね。

そうですね、秘密にさせてください(笑)。夢は常に持っているので、それに向かって小さなことでも一歩一歩、着実に進んでいければいいかなと思っています。

■夢や目標を見つけるきっかけは“嫉妬”

──「夢は常に持っている」とのことですが、次の夢や目標を見つけるきっかけはどういうことが多いですか?

嫉妬でしょうか。嫉妬した瞬間に夢が生まれる感覚があります。「この人が持っているもの、俺も欲しいな」って。この業界に入ったときからずっとそうだったと思います。何の根拠もないのに「この人ができるなら俺もできるだろう」という気持ちになっちゃって。そんなわけないんですけどね、皆さん努力して実現されているので。でも僕も自然とその道を歩んできたんだと思います。他の人が1年でできたことが、僕は5年かかってもいい。どれだけ時間がかかってもいいから、「やっぱりそこに行きたい」「最終的にこの人が持っているもの全部欲しい」という、嫉妬心みたいなものに突き動かされている気がします。

──今も、周りの俳優さんに対して嫉妬心を抱くことはありますか?

少なからずあると思います。嫉妬心は「憧れ」とも言い換えられると思うんですけど。だから人と違うことを探して、僕にしかできないことをしようとしているんだと思います。

──ちなみに、「夢は一通り叶えてしまった」とおっしゃっていましたが、夢を叶えていくと、同時にどんどんモチベーションも下がっていってしまうと思うのですが、そこはどうやって保っているのでしょう?

保たないようにしています。「モチベーションを保とう」というのはあまり考えないようにして、なるようにしかならないんだろう」と思いつつ進めている部分も。「夢叶えちゃって、次はどうしよう」って思うときは「どうしようかな」と思っていたらいいし、「今日は全然気分が乗らないな」っていう日はそれでいいのかなって。自分でハードルを上げ過ぎると辛くなるので、流れに身を任すように生きていると、ちょっと楽になれると思います。

■取材・文/小林千絵
撮影/梁瀬玉実