長谷川博己主演の日曜劇場「アンチヒーロー」(毎週日曜夜9:00-9:54※初回は夜9:00-10:19、TBS系)が4月14日(日)よりスタートする。同ドラマは、長谷川が7年ぶりに日曜劇場で主演を務める、日本の司法組織を舞台とした“逆転パラドックスエンターテインメント”。「正義の反対は、本当に悪なのだろうか」ということを視聴者に問い掛け、スピーディーな展開で次々と常識を覆していく。
長谷川が「殺人犯をも無罪にしてしまう」“アンチ”な弁護士を演じる他、主人公と同じ法律事務所で働く同僚弁護士役で北村匠海と堀田真由、パラリーガル役で大島優子、東京地方検察庁の検察官役で木村佳乃、検事正役で野村萬斎らが出演。
このたび、WEBザテレビジョンでは、第1話放送に先駆け、同ドラマのプロデューサーを務める飯田和孝氏にインタビューを実施。キャストの起用理由やドラマ制作の裏側などを聞いた。
■「予想よりもよりダークに描いている」
――まずは、完成した第1話を見た感想を教えてください。
やりたかったことはやれたという感じはあるのですが、どういう反応をいただけるか分からないので、少し不安です。主人公のキャラクターが、“アンチな弁護士”“ダークヒーロー”ということで、どこまで踏み込んでいくかというところは皆さんが注目しているポイントだと思うのですが、予想よりもよりダークに描いている気はしています。
違法すれすれのやり方といったこともありますが、それよりも人間の内部といったところを扱おうと思っていたので、人の弱みにつけ込むような部分をどう受け入れていただけるかは、怖くもあり、興味でもあります。
――物語をつくる上で、具体的にどのような打ち合わせをされていますか?
「結局最後はいい人になるんだよね」「結局ヒーローなんだよね」という着地になりがちだという話を脚本家としていて、そうならないように、行き切ったものを作ろうとしています。また、作品を世に出す上では、TBSの審査部や考査部などに意見をもらいながら作っています。
メイキングのインタビューなどで、俳優さんがことごとく「すごく攻めている」とおっしゃっているのですが、自分では“ちょっとひよったかな”と思っていたぐらいです。今の時代に伝えるべきことを伝えるためには、世の中にはびこっている毒をしっかりと描かないことにはちゃんと伝わらないと思っています。
倍にして跳ね返ってきて、我々製作陣やキャストが傷ついてしまうことは絶対に避けたいですし、中途半端さは逆に命取りになると思っているので、しっかりと描く。そして、その内容については社内でもしっかりと意見をもらいながら進めています。
■常日頃抱いていた感情「本当に真実を見られているのだろうか」
――このドラマを打ち出そうと思ったきっかけや、世の中にどのような影響を与えたいと思っているかをお聞かせください。
とにかく次から次へと見たくなるような、引き込まれるエンターテインメントを作るということを念頭にやっています。このドラマを最初に企画したのは2020年の、それこそコロナが始まったぐらいだったと思うのですが、脚本の福田哲平さんと一緒に企画を始めて、最終的には山本奈奈さん、李正美さん、宮本勇人さん含む4人の合作になりました。
企画当初から時間が経つにつれて、世の中ではよりいろいろなことが起きていて、人を傷つけるのも簡単だし、評価や賞賛が一瞬にして崩れ落ちるということがすごくあって、その中で、本当に真実を見られているのだろうかと常々思っていたんです。
特に現代は情報過多になっていて、やはり自分の目で、自分の耳で、自分の肌で、自分の感覚でしっかり物事を感じていかないと、それが引き金になって誰かを不幸にしてしまったり、それがはたまた自分に返ってきたりする、そういった世の中になってきていると思います。
だからこそ、自分の感覚を大事にすることが必要なのではないかと改めて感じています。そういったことを視聴者の皆さんに少しでも感じていただけるとうれしいです。
■企画当初から“主人公は長谷川博己”と決めていた
――長谷川博己さんの起用理由を教えてください。
最初の企画書の時点から、イメージキャスト=長谷川博己と書いていました。この主人公は本当につかみどころのない人間で、何を考えているか分からないけれど、胸の中になにか芯のようなものを持っているのかもしれないと思わせる人物です。
簡単に正体が分からないということを一番重視していたので、それを体現してくれる方として長谷川さんが真っ先に浮かびました。
「小さな巨人」(2017年)というドラマに私もプロデューサーで参加していたのですが、そのときの長谷川さんは、すごく芯が強いけれど、繊細でもろくて、強さの反面いろいろな面を持ち合わせている方という印象でした。
その期間だけでは全部をつかみ切れなかったので、そういった意味でも実際にもつかみどころのない方なのではないかと感じて、もう一度一緒にお仕事をしたいという気持ちがあったのと、主人公のキャラクターに日本の俳優さんの中で一番合っているのではないかと思ったのが起用理由です。
――北村匠海さんの起用理由を教えてください。
北村さんの演じる役はすごく難しいキャラクターだと思っていて、弁護士になってまだそこまで年月は経っていないけれど、ド新人でもない、ある種視聴者の目線的なキャラクターになってきます。そこをどう表現してもらえるかを考えたときに、北村さんの表現力に注目しました。
すごく頭のいい俳優さんなのですが、頭でお芝居をしていないというか、1話から10話まで台本がある中で、「この段階はこうで、こう変遷していく」という計算があっても、演じてみるとそれが計算に見えなくて、すごく自然な佇まいなのが北村さんの特徴だと思っています。
――堀田真由さんの起用理由を教えてください。
役の印象と真逆な、この役をやらなそうな俳優さんがいいなと思ったんですよね。堀田さんは、すごく柔らかくてかわいらしい印象がある俳優さんなので、そんなイメージの堀田さんがこの役をやったら面白いのではないかと。
実は今後このキャラクターについてもいろいろなことが明かされていくのですが、堀田さんがその背景にどう向き合っていくのか、非常に楽しみにしています。
■矛盾する世の中に警鐘を鳴らす“そういう世の中なんです”
――第1話では、「法律というルールの中では許されても、リアルな世界は一度罪を犯した者を許す気なんかない。幸せになんかなれるわけがない」という印象的なセリフもあります。
皆さん口には出さないけれど、謝ったら許してもらえる、法律上釈放されたら許してもらえる、ということではないのが世の中だと思っています。テレビ番組で大衆に向けて発する上では、“過ちを犯したら謝って更生して償う”、それが最善の策で、そしたら“見ている人は見ていてくれる”という感じじゃないですか。
でも、見ている人は見ていてくれても、その人までもが潰される世の中だと思うんですよね。手を差し伸べる人さえも攻撃されてしまう。そのことに注視すべきで、目を背けてはいけないと感じています。すごく矛盾していると思うんです。だから、“そういう世の中なんです”と伝える。
だからこそ、主人公は殺人者というレッテルを貼らせないために動いている。殺人者と認められてしまったら、今の世の中ではそこから絶対に立ち直れないから。そこが一つのメッセージだと思っています。なので、あえてトップシーンは、元も子もないような強いセリフから入っています。全部見てもらえると、言いたいことはこういうことだったんだと分かると思います。
■描かれるヒーロー像には、実体験が大きく影響していて…
――このようなヒーローを生み出そうと思ったきっかけやヒントになった出来事があれば教えてください。
僕は、2018年に父親を亡くしているんです。当時、父は一週間ほど集中治療室に入って亡くなったのですが、その一週間、深夜は病院に宿泊し、何事もなければ朝には車で45分の埼玉・熊谷の実家に帰り、そこから東京に出社する日々を送っていました。
無事夜を越えて実家に帰ったある朝、「容体が悪化しています」と病院から電話がかかってきて、急いで車で向かったんです。そのときに僕、スピード違反で捕まったんです。
確か農道の40km/h道路で、「もしかしたら死に際に立ち会えないかもしれない」「これが最後かもしれない」「会いたい」という思いが先立って、スピード超過は絶対にいけないと分かっていつつも、オーバーしてしまって。
「父が死ぬんです」「手続きしている暇なんてないんです」と、警察を振り払ってでも父の元に行きたいと思ったけれど、“世の中のルール”上、もちろん悪いことで。
そんな経験から感じたんです。もし僕がドラマの視聴者で、僕みたいな状況の主人公を見たら、逆に警察を突破してでも会いにいく主人公だったとしたら、”悪”と思うのだろうかと。そんなとき人はどうするのだろうか、視聴者の皆さんにも同じような経験があるのではないだろうかと。
もう一つ、僕がいつも思っていることがあって。これはドラマの中でも描いているのですが、都内の道って、白バイが死角にいるんですよ。確かそのときは、死角にいて、赤信号のギリギリで左折してしまったかなんかで、捕まった車がいたんです。
でもそれって、取り締まるのだとしたら、もっと見えるところにいて、予め注意喚起した方がいいじゃないですか。事故が起きる可能性だってありますし。交通ルールをしっかり守らせるためなら、一旦罰を与えたほうが良いけど、交通事故を抑止するなら、そもそも見える位置にいて違反を起こさせないほうが良いのではないかと。一体、どちらが善なのだろうかとずっとモヤモヤしていました。
そんな中で、コロナ禍になり、“マスク警察”みたいなものができて、病気になった人が感染したことで責められるような騒ぎが続いて、そういう“行き過ぎた善”みたいなものの度が過ぎるようになってきて、悪を行う主人公だけど、それが何かを変えるきっかけになる悪だったら、それは称賛されるのではないか、それこそが善なのではないかと考えるようになりました。
だとしたら、この世の中で一番悪いこと、それは殺人だと思っているのですが、その一番悪いことをした人を許す、救う主人公を描けたら、何かを伝えられるのではないか、そんなことを思ったのがきっかけでした。
――昨今はSNSでも考察がブームですが、その辺りの狙いはありますか?
そこはあまり意識しなかったのですが、視聴者に対してよりしっかりとしたストーリーを届けたい、ちゃんと見てもらいたいという気持ちがあります。
殺人犯を無罪にするのって、ただ事じゃないじゃないですか。なので、そこには何か理由がほしいなと思っていて。もちろん、エンターテインメント作品としてではあるのですが、そういった人物として成立させるために何か理由がほしい。
そうなると何かを抱えている人間でなければいけない、という中でストーリーを組み立てていくと、それぞれのキャラクターがいろいろな側面を持つようになっていきました。故に、考察を促すような、伏線がたくさんある題材になったかなと思います。
――最後に視聴者へ向けたメッセージをお願いします。
何かを伝えたいとか、感じてほしいというよりは、とにかく楽しんでほしいです。僕らは長谷川さん演じる主人公を、いかに視聴者の方をドキドキワクワクハラハラさせるキャラクターにできるかというのを意識し、全身全霊を懸けて全力で制作しています。
その中で何かを感じることがあればうれしいなというぐらいなので、あまり難しく考えず、とにかく長谷川博己さん演じる主人公を見てください。よろしくお願いします!
<アンチヒーロー>飯田和孝Pが語る長谷川博己の演技の妙「主人公のキャラクターに日本の俳優さんの中で一番合っている」
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