1963年にイギリスのBBCテレビで放送スタートし、世界最長のSFドラマシリーズとして愛され続ける「ドクター・フー」の新シリーズが、5月11日に初回3話まで一挙配信された。2023年に放送60周年記念で配信された3本のオリジナルスペシャルエピソードでは、2005年から2010年まで10代目のドクターを演じたデヴィッド・テナントが14代目としてカムバック。そして2023年のクリスマスに配信されたスペシャルエピソードで、新シリーズの第1話にあたるエピソード『ルビー・ロードの教会』から15代目ドクターを演じるのはドラマ「セックス・エデュケーション」シリーズでも人気を博したンクーティ・ガトワだ。ガトワ演じるドクターと相棒となるルビー・サンデー(ミリー・ギブソン)が、初回から息ピッタリのやりとりを繰り広げる姿が実に心地いい。(以下、ネタバレを含みます)

■新ドクターを演じるのはシリーズ史上初の黒人俳優

「ドクター・フー」は、“ドクター”と名乗る異星人がポリスボックス(警察に通報などの連絡ができる公衆電話のブース)型の次元超越時空移動装置・ターディスに乗り、コンパニオンと呼ばれる人間の仲間とタイムトラベルしながら悪と戦い、事件を解決していくというのがベースの物語。新ドクター役に抜てきされたルワンダ生まれ、スコットランド出身のガトワは、シリーズ史上初の黒人ドクターとして登場している。

第1話「ルビー・ロードの教会」では、クリスマスイブの夜、雪の中に置き去りにされた赤ん坊のルビーが成長し、ドクターと出会う様子が描かれた。ルビーは不運なことが“偶然”にも頻繁に起きる日々を過ごしていたが、それには時空を操るゴブリンの存在が関わっていた。ドクターの説明に戸惑うルビーだったが、次第に2人は協力し合い、ゴブリンたちに奪われてしまった赤ん坊のルルベルを助け出すことに。

大勢のゴブリンたちが船の中に集まる演出はファンタジー作品特有のグロテスク感もあり、それを調和させるようなミュージカルチックな歌唱シーンもまるで1本の映画を見ているかのようなハイクオリティーな演出だ。ゴブリンのせいで過去が変わってしまう中で奮闘するドクターが映し出される一方で、ドクターの存在に引かれたルビーが彼を追うためターディスに乗り込むところまでが第1話で描かれた。突然現れた謎の男・ドクターに驚きつつもゴブリンに捕らえられた時や絶体絶命のピンチで瞬時に意思疎通し、息ピッタリに合わせる姿が実に心地いい。

■独創的な世界観から映し出されるメッセージにも注目

新シリーズの実質1話目となる第2話「スペース・ベビー」では、ルビーがドクターの正体を少しずつ分かり始め、ターディスの機能を使って未来や過去を行き来する様子が描かれた。そんな2人がたどり着いた遠い未来の宇宙ステーションは、人工増加を目的として生み出された人間の赤ちゃんを育てる未知なる施設だった。

ベビーカーを華麗に操り、言葉も発達したスペースベビーたちが、このステーションを管理しているという近未来な設定に驚きを隠しきれないドクターとルビーだったが、ここにいたはずのクルーたちがスペースベビーたちを置いて帰還してしまった事実を知る。そんな中、2人は1人で残されたスペースベビーの世話をし続けていた女性・ジョセリン(ゴルダ・ロシューベル)と出会い、なんとか助けられないか解決法を探る姿が描かれた。グロテスクで謎の生物“ブギーマン”に珍しくうろたえるドクターとルビーが息ピッタリに逃げ惑う姿もハラハラさせられるもののどこかコミカルで、ほっこりした。

新シーズンは独創的な世界観だけではなく、現代社会とも通ずる問題に問いかけるようなメッセージも感じることができ、今後ドクターとルビーがどう事件と向き合っていくのか1話ずつしっかりとかみ締めながら見守りたい。

「ドクター・フー」は、毎週土曜に1話ずつ最新エピソード配信予定(全9話)。

◆文=suzuki