はやしりかが主演を務めるテレビアニメ「オーイ!とんぼ」(毎週朝7:00-7:30、BS松竹東急ほか)が現在放送中。同作は『週刊ゴルフダイジェスト』(ゴルフダイジェスト社)で連載中の人気漫画のアニメ化作品。トカラ列島で育った中学1年生の天才ゴルフ少女・大井とんぼと、島に移住してきた元プロゴルファー・五十嵐一賀(CV.東地宏樹)の交流を中心に、ゴルフと人が紡ぐハートフルな物語が反響を呼んでいる。高校時代、ゴルフに打ち込んでいたという東地に本作の魅力を聞くとともに、キャリア30年以上のベテランから後進への言葉をもらった。

■ゴルフ経験者だからこそ分かる面白さ。3番アイアンはプロでも難しいクラブ

――本作はゴルフ漫画のアニメ化です。原作の印象はどうでしたか?

僕は高校のときにゴルフをやっていたこともあって、「ゴルフダイジェスト」で連載されているのは知っていたんです。今回改めて最初から読み直して、今、49巻中40巻までは読み終えています。意外と解説が多く、なかなか読み応えのある漫画ですね。

とんぼの元気な感じ、島の温かい雰囲気はとても好きで、ドラマでいうとライバルの存在がすごくいいですね。とんぼが成長して競い合う相手がみんな魅力的で、彼らの背景も丁寧に描かれている。僕、「あしたのジョー」が大好きなんですが、それと似た感じを受けました。とんぼだけのドラマではない。ライバルがいて、とんぼがいるんです。アニメではまず安谷屋円(CV.喜多村英梨)との出会いがありましたが、先々には何人ものライバルが登場します。気になった方はぜひ原作も読んでほしいですね。

――東地さんがゴルフ経験者だというのは、スタッフの皆さんはご存じだったのでしょうか?

いえ。キャスティングが決まってから初めて知ったようです。ゴルフ用語も多く出てくる作品なのでラッキーでした。

――ゴルフ経験者の視点では、どんなところが面白い作品でしたか?

先ほど解説が多いと言いましたが、これ、かなり高度なことを言っているんですよ。僕はそれが理解できるから面白いし、逆にゴルフ知識のない人には「なるほど」と感心するポイントになるかもしれないですね。

――アニメは分かりやすくて面白いと評判です。では、とんぼのゴルフについてはどうでしたか?

もう特殊すぎますよ(笑)。なんの知識も持たず、感覚だけであれほどの球が打てるって、ゴルフ経験者から見たら信じられない。しかも3番アイアン1本ですからね。五十嵐が驚くのも無理はないです。

――3番アイアンというのは特殊なクラブなのでしょうか?

別名ロングアイアンと言って、飛ばすにはパワーが必要なクラブなんです。ロフト(クラブのフェース部分の傾斜角度)が立っているから、スイングスピードを上げて振り切らないと球が上がらない。女子は絶対に使わないクラブですね。とんぼは小さい体でこの3番アイアンで球を曲げるし、バンカーショットもするし、とんでもない天才少女です。普通、これ1本でプレイしろと言われたら諦めるレベルですよ。

――なるほど。だから、とんぼのお父さんも3番アイアンを置いていったんですね。

そうです。プロのお父さんでさえも難しいクラブなんですよ。そういう背景を知るとドラマもさらにぐっと来るところですね。

■人を年齢で見ない五十嵐。自分もそういう大人でありたい

――東地さんが演じる五十嵐について、どのような解釈を持って役作りに臨みましたか?

ゴルフって、ものすごく厳格な精神性を求められる競技です。公正な自己申告で成り立っている部分が大きくて、それだけにズルをしたときのペナルティーは大きいです。ボールを動かすとか、そういう行為はもちろん、アテスト(プレイヤーと同伴競技者で行うホールアウト後のスコア記録)に不備があった場合、自分のミスでなくても失格になるほどです。

そういった競技の中で、五十嵐は後輩のために不正をしてしまったんですよね。それは五十嵐の後輩への思いやりだったかもしれないけど、その不正がバレてゴルフ界を追放されてしまいました。過去においても息子に向き合えなかったという後悔があって、不器用な人間なんですよね。そんな人間が親子ほど歳の離れたとんぼに出会って、不器用ながら影響を受けて変わっていく。息子に対してできなかったゴルフを教えていく。

そういう内面を表現できればと思いましたし、表現することでドラマに深みを与えられると思いました。五十嵐だけでなく、とんぼも相当かわいそうな過去を持った子ですからね。島の人たちの温かさというのが本当に胸に沁みます。

――五十嵐と自分で、共通点やギャップを感じるところはありましたか?

ギャップは特にないですね。五十嵐はドラマの背景はあっても人物的には良識ある普通の人。そういう人とのギャップって生まれにくいですよね。

共通点は年下相手にも横柄にならず、分け隔てなく向き合うところでしょうか。これは僕も心掛けていることで、後輩だって同じ仕事をしていれば同じ土俵の人間です。後輩でもすごい才能を持っていて、尊敬できる相手はたくさんいます。五十嵐は相手の年齢で態度を変えるタイプではないように思えて、僕もそういう大人でありたいと思っています。


■「元気でハツラツした感じ」とんぼ役を務めるはやしりかの印象

――とんぼ役のはやしりかさんは本作が初主演になります。東地さんから見て、彼女の芝居はどういうところに魅力があると思いますか?

まずとんぼのイメージに声がぴったりですよね。高く澄んでいて、元気でハツラツした感じの芝居が印象的でした。彼女はコロナ禍でのデビューだから一斉収録が初めてだったらしく、掛け合いの相手がいることに喜んでいましたね。やっぱり相手がいる、いないで芝居の形はずいぶん変わってきますから。

――相談を受けたり、東地さんからなにかアドバイスをされたりというのは?

それはありません。今回に限らず、芝居を作るのは自分。その芝居を指導するのはディレクターの領分なので、役者同士でというのはないですね。その点でいうと、はやしさんは良いものを作るために積極的にディレクターと意見交換をしながら取り組んでいますね。1人の人物を表現するって生易しいことではないから苦しんでいるとは思うんですよ。その分、出来上がりは素晴らしいので、これからどんどん伸びていく才能だと思います。

■俳優に大切なのは技術論より豊かな感情。喜怒哀楽のある人生を送ること

――五十嵐はこれまでゴルフに打ち込んできた人生です。同じように東地さんが打ち込んでいることがあれば教えていただけますか。

僕はもともと舞台俳優から出発しています。芝居が好きで、20歳くらいから入った世界。でも、だんだん声の仕事が忙しくなってきて、一時期舞台方面が完全に止まってしまいました。それをなんとかしたいと思い、2014年に仲間たちと小さな劇団を旗揚げしたんです。それからは1年半に一度のペースで公演を打って、楽しく継続しています。これは一生の仕事としてこれからも続けていきたいものですね。

――俳優デビューから数えて34年。東地さんは、洋画ではブラット・ピット、ウィル・スミスら有名俳優の吹き替えも担当しています。長く多くの仕事を続けるために心掛けていることがあれば教えてください。

最低限の健康ですね(笑)。僕は喉のケアをほとんどせず、むしろお酒をよく飲むほうです。酒焼けという言葉がありますけど、僕は飲んでおいた方が次の日調子いいんですよ。若い役をやる人にはお勧めしないけど、僕みたいにある程度中年の役を多くやっていると、ちょっと荒れている感じの方が合うんですよね。ささきいさおさんも「ロッキー」(シルヴェスター・スタローンの吹き替えを担当)がある前の日は飲んでいましたからね。僕ら特有の方法かもしれないけど、これで長く続けられているのかなと思っています(笑)。

――今、声優は若い世代が目指す憧れの職業になっています。これから声優を志す人や若手の声優に送るアドバイスの言葉をお願いします。

確実に言えるのは、自分にしかできないことを追求すべきです。誰かに憧れるのは悪いことではないですが、今、声優は女性も男性も群雄割拠の時代です。どんどん新世代が業界に入ってきていて、プロになる前にもものすごい競争が待っています。その中で生き残るには、自分はなにができるのかを客観視することが重要だし、あとは普段の生活ですね。

声優も含め、俳優というのはプライベートの生きざまが反映される職業です。コミュニケーション豊かな生活を送り、友達や恋人と一緒に笑うもよし、喧嘩するもよし。恋愛映画や舞台を見るのもいいし、絵心を知るのだっていいと思います。喜怒哀楽のある人生を送って、いろいろな感情を体の中に入れること。僕は技術論より、俳優にとってはそれが一番大事なことだと考えています。自分自身の表現を豊かにすることを考えて頑張ってもらいたいと思います。