人間は、自分でも行き着く先が分からぬ方向にまで進んで、戻れなくなってしまうことがある。ギャンブルやアルコール依存症などと似て恋愛もまた、沼におちていくような激しさがあれば、たとえ大恋愛であっても苦しみが付いて回るだろう。現在放送中の永瀬廉(King & Prince)主演ドラマ「東京タワー」(毎週土曜夜11:00-11:30、テレビ朝日系)でも“道ならぬ恋”に突き進む年齢の離れた男女の姿が描かれている。甘美で大胆な性描写が話題の今作だが、物語は中盤を過ぎ、禁断の恋は危険度を増してきた。主人公たちの表情が“幸せそうか、否か”に注目しながら、放送前半を振り返っていく。(以下、ネタバレが含まれます)

■“大人の女性”の魅力におちた医大生“透”

恋はするものじゃなく、おちるもの。

これは今作のキャッチコピーとして、宣伝ポスターや公式HPで見る言葉だ。恋というものを本能的に捉えており「一度おちてしまったら逆らえない」ある種の悲壮感がそこにある。恋愛の真っただ中にいる男女の眼には、相手のことしか映らない。まさに盲目状態になり、周囲の声など聞こえなくなった2人の気持ちをよく表している。

直木賞作家・江國香織の伝説の恋愛小説「東京タワー」を連続ドラマ化。2005年には黒木瞳×岡田准一で映画化、2014年には韓国でテレビドラマ化されてきた。同ドラマでは、令和という新しい時代ならではの設定を織り交ぜ、登場人物たちの心の機微を現代の東京で描き出していく。

医大生・小島透(永瀬)が20歳以上年上の “大人の女性”浅野詩史(板谷由夏)と偶然出会い、激しくも切ない“許されざる恋”へと落ちていく。詩史は夫がいる身でありながら、透からの瑞々しいアプローチに心揺れ、引かれていってしまう。戸惑いながらも無我夢中で求め合う男女が主人公だ。さらに透の友人であり、年上女性との恋愛に強いあこがれを抱く大原耕二(松田元太)と、その耕二と禁断の愛に溺れる人妻・川野喜美子(MEGUMI)の、もう1組の“年の差カップル”も同時進行で深みにはまっていく姿が描かれる。

■“普通”の恋からはみ出た男女の表情に注目

5月18日の第5話が放送終了している時点で、透と詩史も、耕二と喜美子も、もう元には戻れないほどに親密な関係になってしまっている。

本当の愛を知らずにいた透が初めて本気で好きになったのが詩史である。2人の出会いは詩史の車の下に猫が入り込んでしまった日。そこへ通りかかった透が車の下に潜って猫を救い、汚れた透を見て詩史が事務所に呼んで同じ時を過ごしたことがきっかけである。

……あんなかっこいい青年が猫を拾い上げたら、そりゃ事務所に上げてシャワーまで貸してしまうだろうなと……いやいやいや、上げないでしょう普通。一方、透視点で見たとして、気になる美女だったから、そりゃ通りがかりの事務所にお邪魔してしまうだろうなと……いやいや、上がらないでしょう普通。出会いの瞬間から“普通の恋”には見向きもしない2人だったのだなと感じさせる。

透と詩史がお互いを必要としてのめり込んでいるのは真実なのだろう。肉体を求め合って激しく抱き合う耕二と喜美子ペアと違って、しっかり手をつないだり見詰め合って語り合い、静かに愛を育んでいるようではある。しかし、透と詩史は常に不安げで泣き出しそうな表情だ。正直言って、あまり幸せそうには見えない。透が耕二の彼女・由利(なえなの)に年上女性と恋愛中であることを言えなかったとき「これで僕も共犯者だ」というセリフを漏らしたが、不倫はイケないことである自覚は十分にあり、その罪悪感で顔が曇ってしまうのであろう。

■「どうしてあんなおばさん…」透には他人の言葉が耳に入らない

幸せそうに見えない、というのは視聴者視点であり、透と詩史本人たちからすれば完全に外野の感想なので、痛くもかゆくもないだろう。その証拠に透の母・陽子(YOU)や詩史の夫・英雄(甲本雅裕)、喜美子の娘・比奈(池田朱那)など、不倫の関係性が明らかになれば右も左も敵だらけといった状況であるにも関わらず、本人たちは、まるで2人だけの世界に生きているかのように周囲を遮断している状態だ。

同級生の楓(永瀬莉子)から「どうしてあんなおばさん…絶対不幸になるよ」と言われても引き返すことはなく、詩史から「幸せなの?」と聞かれても「分からない。でも僕には詩史さんが必要なんだ」と答えている。現時点での透の答えなのだろう。自分が幸せなのかはもはや重要ではないらしい。

他人がどう思うかよりも、自分が愛する気持ちだけを信じる若者・透に、他人と共生せざるを得ない“現実社会”の刃が向けられる日は近そうだ。愛を貫く男女が選び進んでいく道はハッピーエンドとなるか、それとも…。ドラマ「東京タワー」はTVerで1~3話と最新話を無料配信中。

◆文=ザテレビジョンドラマ部