安藤政信という俳優を一言で表現するのは難しい。いや、俳優とはそういうものかもしれないが、5月19日に49歳となり、俳優歴が28年に及ぶ安藤は多くの出演作で実にさまざまな人物を表現している。主演でも登場シーンが少ない役でも鮮烈な印象を残してきた。2024年も幅広い役を体現しており、“アラフィフ”とは思えない若々しい見た目、円熟味ある演技で注目されている。今回はそんな安藤がインパクトを放ってきた代表的な役どころをたどる。(※一部出演作のネタバレを含みます)

■北野武映画「キッズ・リターン」でデビュー

安藤は俳優デビューからまさに鮮烈だった。北野武の映画監督6作目「キッズ・リターン」(1996年)だ。高校の同級生だった2人の青年の成功と挫折を描いた同作。1人はボクサー、もう1人はヤクザの世界へと足を踏み入れ、のし上がっていく。安藤は、ボクサーとしての才能が開花するシンジを演じた。

ボクシングが上達するリアルさに、夢への情熱、若さゆえの危うさといった人生の希望と苦みを繊細に表現。端正な顔立ちの魅力と共に多くの観客をとりこにした。デビュー作にして、“安藤といえば!”の作品の一つとして名前が上がり続けている。

■「バトル・ロワイアル」では不気味な殺人マシンに

それから4年後の出演映画「バトル・ロワイアル」では、安藤の俳優デビューを見守った北野がビートたけし名義で俳優として出演し、共演を果たした。

中学生同士が殺し合いをするという同名小説を映画化した同作で、安藤が扮(ふん)したのは殺し合いへの参加を志願した転校生・桐山和雄。志願しただけあって、殺人マシンのように次々と襲い掛かっていく様子は、観客を恐怖に陥れた。

当初、安藤は別役でのオファーだったが台本を確認して桐山を希望したという。さらに、せりふをなくす提案もし、不気味さを際立たせた。デビューからわずかな年数で表現者として確立しているのが分かる。

■ミステリアスな表現のうまさで役の味わいを深める

近年はテレビドラマでの活躍ぶりも目覚ましいが、2000年以降しばらく映画に専念するような形で、若き日本軍人を凛々しく演じたチェン・カイコー監督の「花の生涯 〜梅蘭芳〜」(2008年)や台湾映画の「セデック・バレ」(2011年)などアジア圏にも活躍の場を広げて出演作を重ねていった安藤。

「バトル・ロワイアル」のような強烈なキャラクターであればあるほど、人の記憶に残りやすいもの。そして、そういった当たり役を持っていると参加する作品の役柄で「この人は何か裏があるんじゃないか?」と期待させてくれるのも面白いところ。ミステリアスさは役に深みを与える。

例えば、交換殺人をテーマにして考察ブームを巻き起こしたドラマ「あなたの番です」(2019年、日本テレビ系)では、マンションの自室に大荷物を運ぶ謎多き人物。実は全く殺人には関与していないというオチだったのだが、安藤が演じているからこそ考察を大いに沸かせた。同じく真犯人探しが焦点だった「テセウスの船」(2020年、TBS系)では、事件の重要なカギを握る車いすのミステリアスな男で引き付けた。

また、「ボイスII 110緊急指令室」(2021年、日本テレビ系)では、唐沢寿明演じる主人公に恨みを抱く“白塗り男”の狂気がSNSで絶賛されたが、これも安藤の持ち前&培ってきた表現力の賜物だろう。

■2024年も人気コミックの実写化から軟弱な男まで、映画、ドラマに躍動

“再ブレイク”と呼ぶには活躍が継続しているが、2024年も話題作への出演が相次いでいる。

6月4日に最終回を迎えたドラマ「Destiny」(テレビ朝日系)では、石原さとみ演じる主人公・奏の恋人だったが、別れてしまう医師役。同作はサスペンス×ラブストーリーということで、視聴者から安藤の役が怪しいかもと思われていたのは先述の作品群と同様だが、「結果いい人で驚いた」という感想の他に「(別れてしまって)もったいない」と声が上がったのは、49歳になった安藤の大人の色気が格好良さを際立たせたのだろう。

一方、ディズニープラスで4月から配信中のドラマ「フクロウと呼ばれた男」での演技も実に素晴らしかった。同作は、あらゆるスキャンダルやセンセーショナルな事件を、時にもみ消し、時に明るみにさらして解決してきた黒幕/フィクサーである“フクロウ”こと大神龍太郎を主人公に、国家の裏側・タブーに切り込んだ社会派政治ドラマ。龍太郎を田中泯、父・龍太郎と対極な生き方で“正義”を掲げる次男・大神龍を新田真剣佑が演じ、安藤は龍の兄・一郎に扮(ふん)した。

一郎はトラブルばかりを起こす上に、ハニートラップとは知らず愛人に入れ込んでしまう情けないキャラクター。父の期待に応えることもできず、自分には何の力もないのに愛人への気持ちが止まらない。その一郎を体現する安藤の演技のうまさに、いろんな意味でヒヤヒヤさせられた。あらためて安藤の演技のふり幅には脱帽だ。

また、映画では4月公開「陰陽師0」のほか、Netflixオリジナル「シティーハンター」も話題に。北条司の大人気コミックの実写化で、鈴木亮平が冴羽リョウを見事に演じているのが話題先行しているが、安藤はその相棒・槇村秀幸役。物語の序盤で亡くなってしまうが、アクションもこなして物語を大きく動かすことになる役で、出演時間は短いながらも鮮烈な印象を放っている。

そして6月7日(金)からは杏主演の映画「かくしごと」が公開に。主人公が出会う虐待された少年の父親役だ。

「Destiny」出演の際の当メディアのインタビューで、影響を受けた俳優として緒形拳さんの名前を挙げた安藤。「緒形さんのメソッドや感情がすごく好きなんだ!」と俳優仲間に語ったそうだが、アラフィフになって円熟味も増した先で、どんな表現のキャラクターを見せてくれるのかますます楽しみになる。

◆文=ザテレビジョンドラマ部