「テセウスの船」のせいや(霜降り明星)、「半沢直樹」(ともにTBS系)の角田晃広(東京03)や児嶋一哉(アンジャッシュ)など、2020年も多くのお笑い芸人がドラマで存在感を発揮している。そんな“芸人俳優”に今年名乗りを上げたのがお笑い第7世代の人気トリオ・ハナコの岡部大だ。「私の家政夫ナギサさん」(TBS系)、連続テレビ小説「エール」(NHK総合ほか)と立て続けに出演し、しっかりと爪痕を残している。

■ 「キングオブコント2018」優勝も

ハナコのお笑いトリオとしての実績はかなりのものだ。

コントを主体とした芸風で、所属するワタナベエンターテインメントの「ワタナベお笑いNo.1決定戦」は2018年・2019年連続優勝。2018年「第9回お笑いハーベスト大賞」優勝。そして「キングオブコント2018」優勝…。今最も面白いコントを紡ぎ“お笑い第7世代”人気をけん引する存在として、業界の期待を一身に集めている。

そのリーダーで、主にボケを担当する岡部。いかつい顔とデカい声のインパクトを活かし、ヘタレなキャラクターとのギャップでボケるコントが人気だ。

コントで見せる演技力は確かなもので、2019年からは「THE突破ファイル」(日本テレビ系)にもたびたび出演している。再現VTRに登場し、市民の命を守ろうと必死になる“突破交番”の警察官役を好演。相方からもたびたびドラマ進出を勧められていたという。

そんな岡部が今年、いよいよドラマ進出を果たした。「私の家政夫ナギサさん」では主人公・相原メイ(多部未華子)の同僚でチームメンバー・堀江耕介役。そして“朝ドラ”こと連続テレビ小説「エール」では、主人公・古山裕一(窪田正孝)に弟子入りを志願する田ノ上五郎を演じた。

■ 「エール」で純朴な青年・五郎を好演中

「―ナギサさん」の堀江は、ひょうきんで後輩からもいじられるチームのムードメーカー。バリバリ実績を上げる後輩・メイに内心焦りを感じつつも、輪を乱すことはせずメイのリーダーシップのもと仕事に没頭。ここぞという時は「俺もたまには一番取ってみたいです」とキラキラした表情で語り、チームの士気アップに貢献したりする。

「エール」で演じる五郎は、「作曲家になりたい」という大きな夢を持ち茨城の奉公先から飛び出してきた。まっすぐすぎるほど真面目な一方、気を遣うことが苦手で思ったことはそのまま口に出してしまう。よく言えば実直、悪く言えばデリカシーに欠ける人物だ。

偶然古山家で同居することになった音(二階堂ふみ)の妹・梅(森七菜)は当初、五郎のそんな実直さにイライラ。だが、良いことは良いと認めて口に出す五郎を知るにつけ、次第に梅にとって気になる存在になっていった。

梅に茨城なまりで「僕は、ダメな人間です。居場所なんて…どこにもない。でも梅さんは違う。素晴らしい小説を書く才能と、人をいつくしむ心がある。もっと、自分を好きになってください」と語りかける様子は、田舎育ちで人のいい青年そのもの。酔った勢いに任せ、梅を励ましたい一心で素直な本音を口にしてしまう。そんな五郎の照れくささがにじみ出たこのシーンに、見ているこちらも胸が温かくなる。

再放送を挟んだ影響もあり放送日が前後したが、「エール」での演技が岡部にとって初のドラマ出演だったという。

岡部自身の五分刈りが似合う高校球児のような風貌も、五郎の純朴さにピタリとはまった。理屈抜きで「この人、いいな」「ステキだな」と思わせる、そんな高度なことを岡部はドラマ1作目にしてやってのけた。五郎と梅の恋が描かれた第14週、視聴者からも五郎への共感の声、応援の声があふれた。

■ 存在感を見せる“芸人俳優”たち

コントやコント漫才を得意とする芸人がドラマや映画で俳優として活躍するケースは多い。

近いところでも、前述した「テセウスの船」のせいや(霜降り明星)が巧みな芝居で視聴者を驚かせたし、放送中の「半沢直樹」では角田晃広が“仕事のできない銀行員”を、児嶋一哉が得体の知れない存在感を見せる議員秘書を好演する。

単なる話題集めとしてではなく俳優としての役割を求められ、それぞれのキャラクターや持ち味を生かしてしっかりと役目を果たす“芸人俳優”たち。

岡部もまた、俳優として無二の存在感を放ち始めた注目の“芸人俳優”だ。岡部の魅力はその純朴さ。素朴な風貌、真っすぐな眼差し、明快でよく通る声。秋田県出身の岡部の身についた素朴な人柄も、演じるキャラクターにリアリティーを与える重要な要素だ。

「エール」の五郎は今後、梅とともに豊橋で暮らしながら、馬具職人としての道を歩き出す。馬具制作の所作は、師匠・岩城役の吉原光夫から習っているという。インタビューで「吉原さんの所作がとてもかっこいいんですよ。本物の師匠と弟子のように教えていただいています」と笑顔で語る姿は、もう岡部なのか五郎なのか分からなくなるほどだ。

「エール」は今後、太平洋戦争の時代へと突入していく。暗く、重く、つらいエピソードも描かれるであろう物語。岡部演じる五郎の温かな純朴さは、先の見えない時代のひと筋の光になってくれるのではないだろうか。初ドラマ出演にしてそんな期待を抱かせるほどに存在感を発揮する“俳優・岡部大”にこれからも注目していきたい。(ザテレビジョン)