長野県伊那市のパティスリーが名古屋市に初出店し、人気を呼んでいる。200万人が食べたフランス仕込みの焼き菓子や、リアルすぎると話題の犬のケーキなど、信州産の素材にこだわったスイーツが揃っている。オーナーは、ケーキを通じて家族団らんの時間を作りたいと、子供たちの夢をケーキにする「夢ケーキ」に取り組んでいる。

■伊那市では知らない人はいないパティスリーが名古屋に進出

 中央アルプスと南アルプスに囲まれた、長野県伊那市。自然豊かなこの町に、まるでテーマパークにあるような建物が立っている。

伊那市では知らない人がいないという人気のパティスリー「菓匠Shimizu 本店」だ。

昭和22年(1947年)創業の老舗で、現在のオーナーは和菓子店の3代目として生まれ育った、清水慎一(しみずしんいち・47)さん。東京をはじめ、フランスの名店を渡り歩いて修業を重ねたオーナーパティシエだ。

オーナーの清水慎一さん: 「長野県伊那市で生まれて育てられて、であれば、その土地の良いものを使わせてもらってお菓子を作ることが、僕にしかできない事なんじゃないかと」 フルーツやタマゴ、牛乳など、使う素材は、厳選した地元・信州産を使っている。 清水さんが17年前から作っている、フランスの焼き菓子「ティグレ」(1個350円)は、しっとりしたフィナンシェに、生チョコガナッシュを流し込んだ焼き菓子で、これまでに200万人以上が食べた超ロングセラーだ。

これからの時期に人気の「モンブラン」(580円)。和菓子店の時代に作っていた、栗きんとんの餡を使っている。

SNSでバズったのは、フレンチブルドッグのケーキ「フレブル」(780円)。なめらかなチョコレートムースと木苺のコンフィチュールで作った、なんともリアルなワンちゃんだ。

 そんな伊那市の人気パティスリーが2022年6月、中区の名古屋市科学近くに、「菓匠Shimizu 名古屋栄店」をオープンした。

女性客: 「インスタ映えするので買ってみました。カフェも併設されているし、おしゃれだなと思います」 別の女性客: 「とってもおいしいです。私も主人もみんなが大好きで、みんなでファンになっちゃいました」 名古屋で扱う商品は、伊那のお店で人気のものから厳選。もちろん、使う素材も信州産にこだわっている。

■見た目も真っ赤で印象的 信州の魅力が詰まった「苺のクリームパイ」

 本店の人気ナンバーワンメニュー、「苺のクリームパイ」を作る工程を見せてもらった。生地とクリームに使う牛乳は、伊那市の隣、駒ヶ根市からの直送。 清水さん: 「すごく濃厚な牛乳なんです。低温殺菌なので風味が飛んでないんですよね。濃いんだけれども、後味がすっきりしている」 タマゴは伊那市から毎朝届く、産みたてのものを使う。エサに魚粉や昆布、米ヌカなど18種類を配合し、旨みをギュッと凝縮させている。

伊那の新鮮素材で作ったスポンジ生地も濃厚で、それをパイ生地に乗せ、同じ牛乳とタマゴで作ったカスタードクリームをタップリとかける。

さらにスポンジ生地と生クリームを三層に重ねる。生クリームは、もちろん駒ヶ根の濃厚牛乳から作った。

清水さん: 「あとはイチゴですね、メインのイチゴも契約農家から毎朝いただいている伊那のイチゴです」 スライスした伊那のイチゴをクリームパイに隙間なく張り付け、仕上げにこれまた伊那のイチゴから作ったジュレでコーティングすれば完成だ。

シンプルながら信州の魅力がギュッと詰まった逸品「苺のクリームパイ」(2200円)。

発売して30年以上、伊那の人たちに愛され続けてきた店の代表作だ。

■名古屋限定商品も開発 人気のティグレは八丁味噌入り

 名古屋の店限定のオリジナル商品も開発した。伊那の本店でロングセラーを誇る定番の「ティグレ」を、名古屋限定バージョンにアレンジした「八丁味噌ティグレ」(400円)だ。八丁味噌をガナッシュに使い、生地にはゴマを加えて、和風テイストに仕上げた。

こちらも名古屋限定、名古屋市科学館のプラネタリウムをイメージした商品「夏のプラネタリウム」。球体には、星をイメージした金粉とチョコのリング。ホワイトチョコのムースにつつまれているのは、グロゼイユの実とレモンのジュレだ。さっぱりとした夏にふさわしい味わいだ(750円 ※秋は素材を変更)。

このプラネタリウムを作っているパティシエ・竹内征輝さんは、名古屋の店の開業に合わせて、「菓匠シミズ」に採用された。

竹内征輝さん: 「もともと(製菓の)専門学生だった時に、学校の特別講師で来てくださった事があって、それで清水さんの事は10年前から存じ上げていまして、たまたま前の店舗の次に入られるという話があったので、声をかけて頂いて。タイミングよくというか…」 「菓匠Shimizu 名古屋栄店」は、廃業する知り合いのケーキ店を譲り受けてオープンしていた。そのお店でパティシエとして働いていた竹内さんもそのまま雇用されていた。

清水さん: 「うちが来る前にも知り合いのケーキ屋さんで、前の経営者の方が『どうせ売るんだったら清水さんに買って欲しい』と言われたっていうのもあったんですけど。廃業という形になってしまうと、仕事がなくなってしまうじゃないですか」 竹内さんが作っていた3つのケーキも受け継いだ。

清水さん: 「誰がどんな思いで作るのか。ただケーキを作るだけじゃなくて、ケーキの先にある風景を想像しながら、そこに思いをはせて作れる人っていうのは、作るものが変わってくるんですよね」 ケーキ作りに大切なのは、技術や素材だけでなく、作り手の「思い」だという清水さん。

名古屋栄店の店長: 「まぁ一言で言うと熱い。情が深いというか、困っている人がいたら助ける」 竹内さん: 「清水さんは…熱いというか。ケーキを通じて人を笑顔にしたいという、芯からそういうことを考えていらっしゃる方だなと」

■家族だんらんのためにできること 子供の夢を表現する「夢ケーキ」

 和菓子店の3代目として生まれ育った清水さん。お菓子作りは「食べておいしい」だけでなく、家族だんらんの時間を提供することだと教えられてきたという。

清水さん: 「我々は、常日頃からお菓子を通じて家族だんらんとか大切な人との時間をつなぐ、そういった役割を果たしたいと思っていたんですけど、その役割が果たせていない。何かお菓子屋さんとして、パティシエとしてできることはないんだろうかと」 家族だんらんのためにパティシエができること…そんな思いで、13年前から続けているのが「夢ケーキ」というイベントだ。

子供の夢を、親子で話し合いながらケーキで表現しようという企画で、名古屋での初開催には10組以上が参加した。

子供たちが描いた「未来の自分の姿」をケーキにする。

Q将来の夢は? 男の子: 「ユーチューバー」 別の男の子: 「科学者になることです。エジソンを超えたい」 女の子: 「パティシエ」 母親: 「保育園の頃からパティシエになりたいと言っていたんですけど、じっくり話したことはないですね」 砂糖と卵白、粉末のアーモンドをペースト状にした「マジパン」を使ってデコレーションする「夢ケーキ」。ただのワークショップではなく、親子で共同作業してもらうのがポイントだ。

デコレーションができたら、パティシエが作った土台に乗せて完成。ケーキは持ち帰って、家族みんなで子供の夢を聞きながら食べるのがルールだ。

パティシエになるのが夢だという女の子が作ったケーキは、大人になった自分を、いろんなケーキが囲んでいる。

科学者になることを夢見ている男の子が作ったケーキも個性的だ。

夢はエジソンを越える科学者。ケーキに乗っているのは顕微鏡や磁石にフラスコだ。

男の子: 「うまくできた。食べるのもったいない」 本店では、これまでに約3万人も参加したという「夢ケーキ」。清水さんは名古屋でも根付かせたいと思っている。

そんな清水さんに、自分の将来の「夢」を聞いた。 清水さん: 「僕の夢は、お菓子の学校を作りたいと思っています。というのも、いろんな海外に行かせてもらって、発展途上国、新興国はお菓子のレベルがすごく低いんですよね。お菓子のレベルとその地域の平和のレベルって、僕は比例していると考えていて、内紛が起きたり、まだまだ生活が豊かではない地域に、お菓子を作れる人を創出できるような学校を作りたい」