三重県菰野町に、ボランティアで子供のおもちゃの修理をする「おもちゃドクター」がいる。「子供たちの笑顔が見たい」と、22年でおもちゃ4000個を“治した”という男性の思いを取材した。

■修理成功率9割の“名医” 22年間で約4000個のおもちゃを直してきた男性

 三重県菰野町の「保険福祉センターけやき」。

その一室に、おもちゃを修理しているおじさん達の姿があった。おもちゃのお医者さん、いわゆる「おもちゃドクター」だ。おもちゃドクターは全員がボランティア。費用は部品代しかかからない。

「おもちゃ診療所」の代表を務める、加藤健一郎(かとうけんいちろう・73)さん。

加藤健一郎さん: 「これは“おもちゃ病院(診療所)”。子供さんたちが使っていて故障したおもちゃをここへ持ってきていただければ、無料で修理するボランティア活動の1つです」 加藤さんがこれまで修理してきたおもちゃは、22年間で約4000個。持ち込まれたおもちゃのうち、修理成功率は約9割を誇る「名医」だ。

加藤さん: 「子供さんって、気に入ったおもちゃは“その”おもちゃがいいんですね。だから壊れても、親御さんが『同じおもちゃ買ってあげるから捨てようよ』って言っても、“これ”がいいんですよね」  この日も、大事なおもちゃが壊れてしまった子供たちがやってきた。壊れたのは、電動バイクだ。

充電中に遊ぼうとして故障したという。 加藤さん: 「じゃあちょっと見させてもらいます」 すると、開始からたった5分で原因を特定。

加藤さん: 「充電している時に子供が動かしてしまって、その時に電極が抜けたんですね。お家で(電極を)付け替えたんだけど、(コードが)逆に入っていたようなので、うまく充電できなかったということで、それを元のような配線に戻しました」 加藤さん: 「はい、直りましたよ」 子供: 「ありがと」

加藤さん: 「はい、楽しんでください」

■「同じ所が壊れたらドクター失格」…修理にかける“技術屋”としてのこだわり 自宅には専用の修理部屋も

 学生時代、ラジオを分解して遊ぶのが好きだった加藤さん。

25年前、電気の絶縁材を加工する会社に勤めていた頃、通勤中の車のラジオでおもちゃ診療所の存在を知った。

加藤さん: 「こういうおもちゃを目の前にして、さあどうやって直そうかなって考えるのが好き。うまく思惑通りにでき上がると『やった』って感じで、そういうことが面白い」 機械イジリは加藤さんの得意分野、22年間で様々なおもちゃを直してきた。

「診療所」で直せなかったおもちゃは自宅に持ち帰り、この作業部屋で修理する加藤さん。

壊れたおもちゃにはほとんど取扱説明書などはなく、“技術屋”の知識を生かして直している。

様々な「症状」に対応できるように、あらゆる部品を豊富に揃えている。 加藤さん: 「こういうネジ類ですね。これはどうやって入手したかというと、分解したおもちゃから抜いたものなんです。あらゆる規格の物が入っていますけれども、このスプリングがダメになってるケースも結構あるんです。色んな種類の長さのものを持ってないと修理できないので、色んな種類を揃えています」

中には、壊れたおもちゃから部品だけ抜き取って使うこともあるという。おもちゃの修理にはこだわりをもって取り組んでいる。 加藤さん: 「私は修理した時に、そこが2度と壊れないように。同じところが壊れたら、それはおもちゃドクターとして失格だよっていう風に思っているんです」

■クレーンゲームに原因不明の故障 4日かけてやっと判明

 この日は、ちょっと珍しい依頼者がやってきた。川越町のおもちゃドクターだ。ある男性から子供用のクレーンゲームを直してほしいと依頼を受けたがうまく直せず、加藤さんに助けを求めにきた。

修理を試みるが、クレーンのアームが途中で止まってしまう。

川越町のおもちゃドクター: 「入院かな」 加藤さん: 「ちょっとお預かりしないと難しいかな」 故障の原因がわからないため、クレーンゲームは「緊急入院」、加藤さんは自宅の作業部屋へ持ち帰った。

なぜアームが動かないのか、加藤さんは原因を推測した。 加藤さん: 「原因の1つはね、たぶん緑と青の線が断線しかかってるんだと思うんですよ」 断線が故障原因と考え、修理したが…。 加藤さん: 「おかしいな、これが動かん。なんだろ…」 2時間半に及ぶ作業もむなしく、結局この日は直らなかった。 修理開始から4日目、ようやく故障の原因がわかった。 加藤さん: 「ここ(のギア)に割れが入って空回りしている状態だったんで」

「0.3ミリのステンレス線で縛っちゃうんです」

「ギアと軸がスリップしないように…。これで大丈夫だと思います」

原因を特定し、元通り動くようになった。

■子供たちの笑顔が何よりもの喜び 伝えたいのは「直せば何でも直る」の心

 修理したクレーンゲームを持ち主の元へ。修理完了の知らせを聞いて、届くのを心待ちにしていた。

修理を依頼した男性: 「あのおもちゃは(孫たちが)最高に気に入っていまして、ぜひとも直してあげたいなっていう気持ちはあったんですけど、私の手に負えなかった」 おじいさんからプレゼントされた、大切なおもちゃだったようだ。 加藤さん: 「直りました」 依頼者の孫: 「やったー!」

加藤さん: 「ちょっと遊んでみてくれるかな、確認してくれる?」

加藤さん: 「思い切り遊んで、壊れたら壊れたでいいの。またおもちゃ病院に持ってきて」 加藤さん: 「子供さんが喜んでくれるのが、何よりのことなんでね。私たちも喜びをわけていただけるということで、嬉しい気持ちでした。私たちは物を大切にする心を、子供のうちから養っていきたい。壊れたら捨てるんじゃなくて、『直せばなんでも直るんだよ』ということを子供さんにみていただきたい」

 菰野町の「おもちゃ診療所」は月1回(第2土曜日)に開催。費用は部品代のみで、8人の「ドクター」が修理にあたっている。その場で直せないものは、修理して後日返却する。