愛知県岡崎市の「稲垣腸詰店(いながきちょうづめてん)」は、地元はもちろん全国から注文が入る人気の店です。トゥールーズと呼ばれる粗挽きソーセージはシンプルな味わいで、プリっとした肉感に溢れ、噛み応え満点の逸品です。
■極上のトゥールーズに客「お肉感がすごかった」全国から注文が入る愛知の「稲垣腸詰店」

温かいポトフの中で、存在感を放つソーセージ。

フランスで日常的に食べられる、「トゥールーズ」です。

フランス南部の都市、トゥールーズ発祥の粗挽きソーセージで、弾ける皮の中には、ジューシーで濃厚な旨みが詰まっています。

男性客: 「焚き火をして直火でそのまま焼いて食べたんですけど、ジューシーで美味しいと思います。食べ応えがあります」 女性客: 「お肉感がすごかったです。美味しかったです。こだわって作っている店は、私が知る限りこの近くにはないかなと思うので、貴重ですね」 作るのは、ソーセージ職人・稲垣雄三(いながき・ゆうぞう 50)さん。

稲垣さん: 「変な後味が残るようなソーセージではなくて、シンプルに美味しいと思えるものを作りたい」 稲垣さんが営む「稲垣腸詰店」は、愛知県岡崎市の田園が広がる中にあります。

2009年に夫婦で始めた、小さな工房です。

店頭には、手作りのハムやベーコン、ソーセージなどが並んでいます。

数は、約30種類です。

地元はもちろん、全国から注文が入ります。
■食感の決め手は練り加減…加減を見極める職人の「手」

「トゥールーズ」は寒い季節に特に人気です。 稲垣さん: 「味自体がシンプルで、香辛料もすごくシンプルですので、ポトフとか、グラタンでも美味しいと思いますし、ミートソースの中に入れても美味しいと思います。お肉の美味しさをそのまま伝える」

稲垣さんの「トゥールーズ」作りで使うのは、愛知県の田原市産の豚肉です。

稲垣さん: 「お肉の保水性。(肉が)水をしっかりつかんでいるような。もちっとした触り心地というか。あと美味しさ、クセもなくて、そこがポイントでした」 柔らかく上品な味わいのモモ肉を流れるような包丁さばきでカットし、細かなスジまで丁寧に取り除いていきます。

稲垣さん: 「モモ肉は粗挽きで使うことが多いので、丁寧に。より丁寧に筋を取っておかないと、口の中に残る」 塩は味に丸みがあり、旨味を引き出すフランスの海水塩を使います。

稲垣さん: 「塩を振ることによって(肉の)結着力が出る。水分を持つ力を強くするので、食べた時パリっと」 冷蔵庫で一晩、塩漬けにします。

稲垣さん: 「次は香辛料ですけど…、白コショウとナツメグだけです。トゥールーズの場合はあえて香辛料が少ない。色んな料理に使うタイプのソーセージなので、なるべくシンプルに、味が他のものに移っていかないような感じですかね」 香辛料は辛みがまろやかな白コショウと、甘い香りで肉の臭み消しになるナツメグだけ。試行錯誤の末にたどり着いた、肉の邪魔をせず、うま味を最大限に引き立たせる配合です。

次に肉をミンチします。ミンチ用の機械の穴のサイズは1センチもありました。

稲垣さん: 「粗挽きのソーセージに何ミリという規定があるわけではないんですけど、僕はけっこう粗挽きです。噛んだ時の肉感が欲しい。グッという食感が欲しかったので、粗挽きにしました」 塩漬けした肉を挽きながら豚の背脂も加え、コク深さとジューシーさを生み出します。

ここに氷水を加えて手で練ります。10度以下を保ちながら丁寧に練ることで肉に粘りが出て、プリッとしたソーセージに仕上がるといいます。そして先ほど作った香辛料を加えて、さらに練ります。 練りが足りないとボソボソとした食感になり、練り過ぎると粗挽きした肉が潰れます。加減を見極めるのは、稲垣さんの「手」の感覚です。 稲垣さん: 「触りながら肉の状態をみていくというか、耳たぶのような柔らかさとネチャッとくっついてくる感じ、それでだいたい見極めがつく」 冷やした肉を練ること7分。粘り気があり、かつ滑らかなソーセージの“ベース”ができました。

冷たい氷水を加えながら練る作業で、稲垣さんの手は真っ赤になっていました。

腸詰めは空気が入らないよう、生地を投げつけて筒に入れます。

セットしたのは「天然の豚の腸」。この中に生地を流し込みます。

人工のものを使う業者も多いといいますが、弾けるような食感を生み出すには天然の豚の腸が欠かせません。

素早くひねり、ソーセージの形にしていきます。

同時に針を使い、空気を抜きます。

稲垣さん: 「茹でる作業があるので、空気が入っていると膨張して破裂しちゃう」 腸詰めを終えたら、40分ほどかけて加熱と乾燥を行います。

日本では燻したソーセージが一般的ですが、肉そのものの味わいを楽しむ「トゥールーズ」は燻しません。
■岐阜の名店「キュルノンチュエ」で学んだあとフランスへ

趣味で手作りするほどソーセージが好きだった稲垣さんは28歳の時、岐阜県高山市にある「キュルノンチュエ」の創業者・山岡準治さんに弟子入りし、3年間ソーセージ作りを学びました。

その後、フランスのリヨンに渡り、さらに腕を磨きます。

フランスでは、ソーセージがごく日常的な食材として親しまれていたことに感銘を受けました。

稲垣さん: 「(お客の)日常の中に溶け込みたいっていうか、普段の食事に取り入れていってもらいたい」
■溢れ出る肉汁に満点の噛み応え…自慢の極上「トゥールーズ」が完成

加熱・乾燥を始めてから40分後。真っ白に、そしてプリッと膨らんだソーセージが出来上がりました。

稲垣さん: 「美味しい。いい塩加減。シンプルな料理に映えるかな。おでんも意外とおいしいんですよ」

稲垣さんの手仕事が生んだソーセージ「トゥールーズ」(100グラム430円)。

ポトフにするとプリっと弾けて、溢れ出る肉汁と肉感満点の噛み応えで、それでいて優しい味わいが楽しむことができます。 稲垣さん: 「自分が美味しいと思っているものを作りたい。それを食べて美味しいと言ってもらえたら、共感していただいたような感じがして嬉しいですね」 2023年1月9日放送