若者を中心にSNSのアカウントを複数持つ人が増えているが今、「裏アカ」と呼ばれる匿名のアカウントを調査するサービスがあり、その依頼が急増している。その背景を取材した。

■履歴書の情報をもとに特定し投稿内容や繋がる人を調査

 東京にある調査会社「企業調査センター」。社員らが向かう2つのモニターに映し出されているのは、履歴書とSNSだ。

この会社で調査しているのは、SNSの内容。特に、偽名など匿名のアカウント、いわゆる「裏アカ」を中心に、投稿内容や交友関係などに問題がないかをチェックしている。

企業調査センター事業部長の角田博さん: 「常時いるのは7〜8名というかたちですね」

調査を依頼するのは主に採用活動をする「企業」で、対象はその候補者などだ。

名前や生年月日、住所のほか、出身校など履歴書の情報をもとに、SNSのアカウントを特定していく。

角田さん: 「SNSの中で候補者の名前を出しているということになると、この関係性を調べていったりするんですね。(投稿数が)259件なんですけど、基本全部見ます」

角田さん: 「この人はなにか、SNSを自分の愚痴みたいなものに利用している傾向があるので、言っている内容に問題がないかっていう部分を中心に…。投稿内容だけじゃなくて、繋がっている人たちとかも確認しているので、そういった意味では懸念とする項目は結構ある」

■WEB面接が主流になり…採用活動でSNSの「裏アカ」調査依頼が急増

 2年ほど前に「裏アカ」調査のサービスを開始すると、依頼が殺到。多い月は600件以上にも上るという。依頼が急増した理由は、新型コロナだった。

角田さん: 「対面での面接が難しくなって、WEB面接が主流になってからですね、ここからもう格段に増えていると思いますね。今まで対面でやってわかってきたものが、なかなかWEBだとわかりにくくなってきたというところで、こういった別にその方のことを知る手段やツールはないかということで、SNSに皆さん注目されたんだと思いますね」 費用は対象者1人につき1万6500円(税込)からで、現在契約している企業は200社を超え、その4分の1ほどは大手の企業だという。

調査の結果は、「懸念なし」「懸念される内容あり」「重大な懸念あり」など4から5段階で判定し、報告する。

角田さん: 「(“懸念あり”のSNSを見て)こういう他者への誹謗中傷とかそういった内容が含まれているものは、そもそもSNSの使い方が間違っている」

これは過去の調査で見つかり、「やや懸念あり」と判定された、就職活動中のある学生のSNS。アルバイト中にわざと落としたとみられる商品の写真がアップされていた。

角田さん: 「写真の投稿がちょっとふざけた投稿が多いとしたら、いわゆるバイトテロとかあるじゃないですか、悪ふざけが行きすぎちゃったような内容を投稿している可能性も出てくるので」

■SNSは「ストレスの解放場所」…街で聞くと若い人の9割近くが複数アカウントを所有

 実際、どれほどの人が、「裏アカ」など複数のアカウントを持っているのか。名古屋で聞いてみた。 女子高校生: 「(アカウントは)めっちゃ持ってます!サブ用みたいな」 若い男性: 「多いときだと片手にはおさまらない程度。8(個)とか」 若い女性: 「インスタ5個あります」 この日話を聞いた10代から30代までの36人のうち、9割に迫る31人が複数のアカウントを使用。いまや「当たり前」ともいえる状況だった。

複数のアカウントの必要性を聞くと、コミュニケーションの形の変化が垣間見えた。 若い男性: 「今ってコロナの時期とかで、コミュニティが減っていると思うんですよ。『いいね』してくれたりリツイートしてくれたりっていうので、承認欲求を得られる」 若い女性: 「(SNSは)自分の好きな事をさらけ出して、楽しめる場所っていうのがあるんで、ストレスの解放場所でもあるのかなって思います。別に個人のあれなんで、会社に危害加えないならいいんじゃね?って感じです」 別の若い女性: 「(裏アカ調査は)そこまでする必要があるのかなとは…」 いまの時代、「裏アカ」を使ったSNSは、“プライベートな場所“という意見もあった。

角田さん: 「居酒屋とかで同僚同士で愚痴を言い合ったような、そういう感覚であれば全く問題ないと思いますし、そういう使い方を存分にしてほしいと思いますけど…」

角田さん: 「ただ、度が過ぎた内容、集中的に誰かを中傷するような内容を繰り返し投稿するようなことであれば、やっぱりその方の人間性に何か問題があるという判断をせざるを得ないと思うんですよね」

■“早期離職”や“社内でトラブル”に繋がらぬように…採用候補者の周辺住民に聞き込み調査も

 10月15日。角田さんが訪れたのは、名古屋市内の住宅街。ある企業からの依頼で、中途採用で内定の一歩手前まで進んでいる人物について、本人に気付かれないよう周辺に聞き込んだ。 角田さん: 「この辺りって治安とかどうなのかなと思って?」 周辺住民: 「特に問題ないですね」

角田さん: 「変な人がいるとかそんな噂みたいなものは?」 周辺住民: 「特にないですね」 角田さん: 「(住人に)特別、問題ありそうな人とかっていらっしゃいます?」 別の周辺住民: 「暮らしている分にはあんまり聞かないです」 近所だからこそわかる、SNSにアップされない情報。この日は、約1時間聞き込みをしたが、悪い評判はなかった。

角田さん: 「結果的には問題はないかな、という判断をしたいと思います。人柄とか、性格的な問題とか、収入に見合っていない生活とか、そういうのをしている方が入社してしまうと、早期離職であったりとか、実際に社内で問題を起こしたりっていうことがやっぱりあるので、そういった部分も見たいという意味を込めて企業さんはこういう調査を入れているんだと思います」

■“裏アカ調査”自体に問題は?厚労省担当者は『言い切れない』

 採用候補者の、「裏アカ」や現地での調査は、企業側の需要が高まっているが、調査自体に問題はないのだろうか。この会社では、SNSの確認と個人情報を調査機関に提供することについて、事前に対象者から同意を得ているという。 角田さん: 「確認をさせてもらうという同意を、企業さんの方から候補者の方に頂いているので」 就職活動を所管する厚生労働省は…。 厚生労働省職業安定局就労支援室の室長補佐: 「個別に見てみないとわからないところもあるので、なかなか『問題ないです』と言い切れない部分もありますし、逆に直ちに『法違反です』と言い切ることもできないというのが正直なところでございます」 職業安定法では、思想信条や人種など社会的差別の原因となる可能性のある情報の収集は、本人の了承が無い場合は原則認めていない。

そのため、個別の判断が必要なうえ、企業側にも採用の自由が認められているため、現時点では “規制”まではできないという。 就労支援室の室長補佐: 「あくまで応募者に対しては、その方の適正と能力を見た上で公正に採用選考していただきたいと思っていますので、そのような形でご対応いただければ大変ありがたいと思っております」 SNSと生きる時代。向き合い方が問われている。 2022年10月21日放送