メジャーリーグ・ドジャース大谷翔平選手の元通訳、水原一平被告の事件で「ギャンブル依存症」に注目が集まっている。  35歳の男性はパチンコから深みにはまって会社の金にも手を出し、人生を転げ落ちていったという。抜け出すのが困難なギャンブル依存症だが、今は治療ができる病院もある。

■支援者「死に至る病」…ギャンブル依存症は日常生活に支障をきたす“心の病”

 2024年5月5日、三重県で、「ギャンブル依存」の相談会が開かれ、会場には複数の男性が集まっていた。

支援者: 「差し迫った問題はありますか」 相談者: 「今月のクレジットの支払いが払える目途が立ってないなというのがありますね」 支援者: 「(金額は)どれぐらいですか」 相談者: 「30万円くらい」 主催者が「止まらないとか金があるとやってしまうという人は?」と聞くと、参加者全員が手を挙げた。 別の相談者: 「ここ2年くらいでギャンブルにどっぷりはまってしまって、最初は家族にも秘密にしとったんですね。支払いとかどうにもならなくなって」

また別の相談者: 「僕はパチンコ。1人になるととんでもない金額使って。僕はその時結婚する予定で貯めていたお金を全部使いました」 支援者: 「はっきり言っておきます。死に至る病です。極端な話、人を殺してでもギャンブルをやろうとか」

「ギャンブル依存」は、その名の通り、ギャンブルにのめり込んで自身を制御できなくなり、日常生活に支障をきたす“心の病”だ。

■「疑い」は国内で196万人…ギャンブル依存をチェックする20の項目

 厚生労働省が2021年に公表した調査では、「ギャンブル依存が疑われる」成人男女は2.2%。日本の人口に換算すると、およそ196万人に上ると推計される。

相談会では20のチェック項目があげられ、相談者たちがいくつ該当するかを確認した。

・仕事や学業がおろそかになった ・家庭が不幸になることがあった ・評判が悪くなることがあった ・自責の念を感じることがあった ・金に困ってギャンブルをした ・ギャンブルで意欲や能率が落ちた ・負けを取り戻さなければと思った ・もっと勝ちたいと強い欲求を感じた ・一文無しになるまでギャンブル ・ギャンブル資金を作るために借金 ・自分や家庭のものを売ることがあった ・正常な支払いに「元手」を使いたくない ・家族の幸せを顧みないことがあった ・予定より長くギャンブルをしてしまった ・悩みなどから逃げようとしてギャンブル ・資金工面のため法に触れることを… ・ギャンブルのために不眠になった ・失望や欲求不満でギャンブル衝動に ・「良いことはギャンブルで祝おう」 ・ギャンブルが原因で自殺を考えた 4人の相談者はそれぞれ、17、16、12、17と該当数を答えたが、相談会では「7つ以上当てはまる人は強迫的ギャンブラーの可能性が極めて高い」としている。その中には、「信頼を失ってでも」ギャンブルを続ける、というものもある。 「負けを取り戻す」「家族の幸せを顧みない」「法律に触れる」。大谷翔平選手の元通訳・水原一平被告の違法賭博問題では、2021年12月から2024年1月の間に「勝ち」が218億円に対し「負け」は280億円。 62億円ものマイナスを補おうとしてか、大谷選手の口座からおよそ26億円を不正送金したとして訴追された。誰もが感じた信頼関係をも反故にするその行動は、衝撃を与えた。

■会社の金を横領し妻子とも別居…35歳男性「やめられるものならやめたかった」

 愛知県に住むタケルさん(仮名・35)は、学生時代に友人から誘われたパチンコがギャンブルへとのめり込んだ入口だった。

「銀行や消費者金融でお金を借りたりというのが始まりだった」というタケルさんは、その後もオンライン競馬にはまり、借金はどんどん膨らんでいった。 タケルさん(仮名・35): 「きょうはいけるだろう、きょうはいけるだろうみたいな感覚でどんどん増えていったっていうイメージですね。1日10万円くらい借りて競馬で使う。終わる頃にはそれ以上稼いで返せるというイメージでいるんですよね」 「きょうはいける」「取り返せる」。ギャンブルに勝った経験とその興奮は、どんどんタケルさんの心を焚きつけた。 Qどこかのタイミングでやめようとは思わなかったのか タケルさん(仮名・35): 「やめたかったですね、やめられるものなら。だけどその頃にはもう借金もすごいあったし、返済に追われてギャンブルで返すしかないというような感覚。ギャンブルで当てれば借金もなくなるし、それをずっとやめる直前まで思い描いていました」 やめられるはずが、やめられずにずるずると…。背負った損失を取り返すために、勤務先の金融機関で800万円を横領し、懲戒解雇された。そして、妻と幼い子供2人とは別居することになった。

タケルさん(仮名・35): 「家族の生活を脅かしてはいけない。表面上はお金を持っているような形を見せないといけないということを自分で脅迫的に思ってしまって。あたかもお金に困っていないというのを見せていた。“ギャンブル依存症”は知っていたんですけど、自分はそんなことないとずっと思っていましたし、借金さえなくなれば別にギャンブルなんてしないし、というのはずっと思っていました」 タケルさんは現在はギャンブルから手を引いているが、目を背け続けた依存症で「家族との生活」を失った。大金が動き、すぐに取り戻せるという「チャンスの可能性」が、心を惑わせているのかもしれない。 タケルさん(仮名・35): 「気付くのはやっぱり難しい病気だと思います。本人は気付いていたとしても、周りが気付くというのは難しいですね。よっぽどお金でいろんなトラブルが出てこない限り、難しいと思います。そういう病気なんですよね」

■書き出して心の中と向き合う…依存症の治療を行う病院

 ただ、治療ができる病院もある。岐阜県各務原(かかみがはら)市の「各務原病院」は8年前、県内で初めてギャンブル依存症の対応に乗り出した唯一の病院だ。

ギャンブルがしたくなる場面や要因をテキストに書き出し、依存から抜け出した生活を想像しながら気分転換の方法などを考えていく。

月に2回、総勢20人ほどの依存症患者が集まり、回復を目的とする治療プログラムを行っている。 ギャンブル依存症は、アルコールや薬物とは違って「行為」に対して依存するため、より精神面での治療が必要だ。有効な治療薬はないが、自分の「心の中」と向き合う対話を用いて、具体的な対処方法などを探っているという。 各務原病院の天野雄平理事: 「ギャンブルを起こしやすいきっかけですね、多くはストレスがあってむしゃくしゃしたときとか、急なお金が手に入ったときとか、そういう引き金になりやすい状況についてお互いに話し合って。例えば給料日であれば、必ず早く家に直帰するような予定を立てるとか、ストレスがあった時は、こういうことをしてストレスを軽減させるとか、そういったものを準備したりしていく方法です」 ギャンブル依存症は、原因はわかっていても難しい心の病だが、この病いは助けを求めることができる。 天野雄平理事: 「1人でどんどん借金を膨らませるとか、あとはその借金を家族が肩代わりして家族の中だけでなんとか解決しようとすると、取り返しのつかないことになってしまう。ギャンブルで負けを返そうとし始めたりするので、そうなってしまうと、完全に依存症で止められなくなってきてしまうし、負けが増えるほど正常な判断もできなくなってくるので。適切な対応をすることで回復の可能な病気でもありますので、そういうことが広く伝わるといいのかなと思います」 2024年5月10日放送