過去最多の56人による大乱戦となっている東京都知事選(7月7日投開票)は、17日間の選挙戦の後半戦に突入した。全国でこれまで500以上の選挙を見てきた選挙マニアで、YouTubeでスポーツ解説のように選挙戦の見どころを紹介している吉本興業所属のお笑い芸人、山本期日前さん(31)に、独自の視点による「観戦」のポイントを聞いた。(聞き手・宮尾幹成)

◆「犬のポスター」に全部持っていかれた

―序盤戦は、政治団体「NHKから国民を守る党(NHK党)」が仕掛けたポスター掲示場ジャックに話題をさらわれた。

「今回の都知事選は、小池百合子さんと蓮舫さんの昔からの因縁…小池知事が(2017年の)都議選で圧勝して、蓮舫さんが結果の責任を取らされて(民進党代表を)辞任して、(小池氏が設立した)希望の党から排除された立憲民主党に蓮舫さんが加わって、というドラマの最終回みたいになるかなと思ってたんですよ。でも始まってみたら、そういうドラマはあまり報道されていない」

「本当は初日は、蓮舫さんや石丸伸二さんの演説に聴衆がものすごく集まっている熱気のある絵がテレビで使われるはずなんですけど、それが(NHK党が「販売」した掲示場に貼られた)犬のポスターとかに全部持って行かれたのは、新人陣営にとってはちょっとかわいそうだった。ポスター騒動は、(現職の)小池知事にはアシストになっているんじゃないか」

◆昔ながらの「インディーズ候補」は魅力的

―もともと都知事選は(主要政党や有力業界団体の支援を受けずに独自に戦う)「インディーズ候補」が特に多く立候補する選挙ではあるが、飽和状態になった感はある。

「今は選挙で自分の知名度を上げて、その後のビジネスに利用するというような使い方になってますよね。昔は、供託金を没収されてでも自分の信念を訴えたいというお金持ちが出ていた印象です。そこは変わってきたのかなと」

―今回、8回目の立候補となったドクター・中松氏や、かつての常連だったマック赤坂氏、羽柴誠三秀吉氏らは「古典的」なインディーズ候補と言えるかもしれない。

「ドクター・中松さんはやっぱり面白くて、どっしりしてますね。後藤輝樹さんも、お金が有り余っているわけではないと思いますが、ネットでバズろうという感じではなく、昔ながらのインディーズ候補。票読みとは関係なく、自分の思いだけがあふれちゃって、それをとにかく世の中に訴えたいという候補者には、ものすごく人間的な魅力を感じます」

―インディーズ候補が増えすぎて、普通の候補者が少数派になっている。

「逆転現象が起こっているというか、まじめに訴えているだけで評価されちゃうというか。今回は政見放送でふざけても、あまり話題になっていない。むしろ『スベってる』みたいな感じで思われている可能性がある。これまで都知事選で名上げをしていた人からすると、だんだんおいしくなくなってきているのかなと。今回をピークに(インディーズ候補の乱立は)揺り戻しがくるんじゃないかと思ってます」

◆ガタイのいい「パリピ」ばかりの街頭演説

―いわゆる「主要候補」では誰に着目している。

「石丸伸二さんが年代別の出口調査で10代、20代の票をどれくらい取っているかは、すごく気にしたい。ぼくは今31歳なんですけど、周りで初めて選挙に行くっていう人で、石丸さんに入れるっていう声を結構聞くんですよ」

「石丸さんの街頭演説に行って気づいたのは、他の候補者の街頭演説と比べて、聴衆の身長がすごく高いということ。20代でガタイのいい、スポーツをやってるんだろうなみたいな男性が多くて、後ろの方だと(演説が)見えづらいことがよくある。他の陣営は割と年配の方が多かったり、若くても主婦層が多かったりで、聴衆の身長が気になったことはなかった」

―それは、従来は街頭演説で見かけなかった層ということ?

「なんですかね、選挙がなくても楽しく生きてるよ、みたいな…」

―「リア充」とか「パリピ」のような人たちか。

「そうです、パリピの方が多いですね。これまでも選挙に参加している若者はいましたけど、どちらかというとNPOをやっているとか、地域コミュニティの活性化に取り組んでいるとか、『意識高い系』の方が多かった。今回の石丸さんは全く違う人を取り込んでいる」

◆「右派オールスター」は分裂

―4月の衆院東京15区補欠選挙では、自民党が独自候補を擁立できず、自民支持層の票が乙武洋匡氏(ファーストの会)、金沢結衣氏(日本維新の会)、飯山陽氏(日本保守党)、須藤元気氏(無所属)などに分散したとみられる。今回、自民は小池氏を推薦せず「自主支援」にとどめたが、自民票はどう動くとみている。

「小田全宏さん(深谷隆司・自民党都連最高顧問の娘婿)とか、普段は自民党周りで活動している人がちょくちょく石丸さんをやっているという話を聞くので、それがどれだけ伸びるか。あと、(都知事選と同日投開票の)都議補選は自民党と都民ファーストの会が戦っているところもあって、それがどう絡んでくるかも気になります」

―田母神俊雄氏には流れるか。

「田母神俊雄さん陣営は、街頭演説を見ていても熱気を感じないですね。自民党支持層は取れてないんじゃないかと思う。(田母神氏が前回立候補した)2014年は、石原慎太郎さんとか百田尚樹さんとかも入って、『右派オールスター』みたいな良くまとまった陣営だったんですけど、今、右派は分裂してしまっていて」

―東京15区補選で4位だった飯山氏に入った票はどこへ。

「『蓮舫都知事阻止』で小池さんなのか…。ネット界隈では(若年女性支援団体の)Colaboをたたいている繋がりで、ひまそらあかねさんに入ってくる可能性もあるかなと。投票先がなくて『寝る』(投票に行かない)かもしれませんね」

◆「怖くない」アピールが「逆に怖い」

―蓮舫氏の戦いはどう見ている。

「演説はすごく上手い。毎回、前日の小池さんの失点を演説に組み込んで、さすがだなと思うんですけど、笑顔で『実はいい人なんです、怖くないんです』みたいな話を毎回入れているのが逆に怖く感じるというか。一度キャラがついたものを覆すのは無理なので、むしろ鋭いキャラを武器にした方がいいと思う」

―他に注目しているポイントがあれば。

「『島』ですね。小池百合子知事が告示日の街頭演説を八丈島でやって、ネットでバズった。その後、清水国明さんも行き、蓮舫さんはいつ行くんだと言われている中で、この前、大島に行った。実際には島嶼部の人口は少なくて、戦略上、行かないのは全然分かるんですけど、行かないと叩かれるというのは今までの都知事選ではなかったと思うので、すごく面白いなと。大島は、小池知事は行ってなくて、蓮舫さんは行ったので、ここでどんな票が出るかは気になります」

山本期日前(やまもと・きじつまえ) 1993年1月、千葉県流山市生まれ。吉本興業所属のお笑いコンビ「ゆかいな議事録」のボケ担当。2019年にYouTubeのチャンネル「ゆかいな議事録【選挙・政治ch】」を開設し、日本各地の選挙を解説する動画を配信している。趣味は選挙ポスター集め。