<7.7東京都知事選・現場から>

 新型コロナウイルス禍が明け、円安の影響で増え続ける外国人観光客。観光地や住民の生活などに、過度に悪影響を与える「オーバーツーリズム」が近年、各地で表面化してきた。

◆民泊の影響?ごみのポイ捨ては日常

 平日でも観光客でごった返す東京・浅草から少し離れた台東区北部に住む会社顧問の男性(65)の朝は、自宅前に捨てられたたばこの吸い殻や空き缶の掃除から始まる。この2、3年、そんな日々が続く。

 近くにはホテルよりも割安で、外国人観光客が多く利用する「民泊」施設がある。午前3時ごろまで騒ぐ団体客の声が漏れるため、耳栓をして寝ている。路上に落ちているごみは宿泊客が捨てたのでは―。そう推し量っている。

 民泊は、区の保健所などに届け出るだけで営業できる。男性は、そんな制度の改善を訴える。「認可制にしてほしい。行政はごみを捨てる場所や灰皿があるか、きちんと機能しているか確認した上で、できていなかったら指導して」

◆台東区内のインバウンドは前年比10倍

 観光を研究する「じゃらんリサーチセンター」は2023年度、台東区などとの共同調査で「区民の意識はオーバーツーリズムには達していないと推測される」とした。ただ、区観光課の横倉亨課長は「最近はオーバーツーリズムに近い状況になってきている」と指摘する。

 区内を訪れる外国人観光客の数は、2022年の47万人から、2023年には442万人と約10倍に増えた。「大きなキャリーケースで歩道が狭まる」「路上に人が多く、歩いていてぶつかる」。区には住民から苦情も寄せられているという。

 横倉課長は「区民にストレスが出ている。早めの対策が必要だ」と、現状を懸念する。昨年度は多言語で日本のマナーをまとめたリーフレットやポケットティッシュを配って周知に努めたが、効果は定かではない。本年度も予算措置をしたものの「配布時期は未定」という。冒頭の男性は「行政は細かいところまで啓発を行き渡らせてほしい」と望む。

◆深刻化する前に行政で対策を

 古くから観光地だった浅草を有する台東区内では、閑古鳥が鳴いたコロナ禍の経験から、商店や宿泊施設の関係者は「あの時の苦境を思えば」と話す。その一方で、「うるさいけどおおっぴらには言いづらい」と、我慢している住民の姿もうかがえる。

 オーバーツーリズムが深刻化する前に対策に乗り出そうと、台東区は2023年度末、観光客受け入れと住民の生活の質確保を両立しながら持続可能な観光地域づくりを目指す、観光庁のモデル事業に手を挙げた。地元関係者などとの協議会を設置し、秋ごろからの事業開始に向け、準備を進める。

 23区では観光客の増加に伴い、繁華街のある渋谷区や新宿区で路上飲酒を禁じる条例ができるなど、規制の動きが出ている。ただ、知事選の主な候補者に、公約で観光振興を訴える人はいても、オーバーツーリズムへの言及はほとんどない。(鈴木里奈)