猛暑の到来を予感させる昼下がり、松戸駅東口にある高台に上った。松戸市役所の移転を巡る執行部と議会の攻防を前に建設予定地の写真を押さえるためだ。50万都市の主要駅前に、樹木がうっそうと茂る台地が、ほぼ手付かずの状態で残されていることにあらためて驚く。この一帯の歴史は昨年5月22日付の東京新聞千葉版「ぷらっと千葉 凸凹探訪」に詳しい。

 頂上の相模台公園を前に構図を決めていると突然、声を掛けられた。誰もいないと思っていたのに、片隅の忠魂碑の脇にあるベンチに、おばあさんが1人座っている。「焼酎飲んで酔っ払ってるから」とわびながら、「どうして狭い高台にわざわざ10階以上の市役所を建てるの?」と訴える。「今の場所で建て替えればいいでしょ。窓口に直接、行く必要もなくなるし、もっと小さくできる」。的を射た批判だ。「この忠魂碑だって壊しちゃうのよ」。明治維新以降の戦没者を慰霊する碑は建設地にかからないものの、庁舎周辺の土地を掘り下げるため一時的に動かす必要がある。

 「猫にご飯あげなきゃ」と言って彼女は腰を上げたが、帰りしな「写真撮るなら市民の声も伝えてね」と言い残していった。新聞記者と名乗ってもいないのに。庁舎移転を市民に納得してもらえるよう市は説明を尽くしたか。議会対策だけが要諦ではない。市長、ある市民の声、届けます。(林容史)