既読にならないLINEに、女が1人涙した本当の理由。大好きな彼と同棲しても不安がなくならないのはなぜ?

既読にならないLINEに、女が1人涙した本当の理由。大好きな彼と同棲しても不安がなくならないのはなぜ?

―社内恋愛―

会社員なら誰しもが一度は経験するであろう、秘密の恋。

毎日会えて、仕事のことも分かりあえる。もしかしたら普通の恋より、濃密な関係が築けるのかもしれない。

しかし…。

時にその濃密過ぎる関係が、残酷にも2人を切り裂くきっかけにもなりうる。

これは、ある会社で起こったリアルな“社内恋愛の悲哀”であるー。

同じIT企業で勤務する、総務部吉田結衣(28)営業部エースで効率重視の斎藤健(32)。

結衣は健に告白され、交際がスタート。付き合って1ヶ月してすぐ、効率的に会うためにと同棲を始める。

一方会社では、株主総会で会長が社長の座を奪うための修正動議を起こすと告げられる。会長にはパワハラの噂があり心配する結衣だったが、健はそれも仕方ないと言い、モヤモヤとした気持ちを抱えていた。



「また会社でね。いってきます。」

運命の株主総会当日。

結衣は健にそう言って、いつもより2センチほどヒールが高い黒のパンプスに足を滑り込ませた。時刻は朝の7時。1時間早い出勤だ。

今回の騒動について健との距離を感じてから、会社の話はしないことに決めた。会長派の健と、社長派の結衣。2人がこの話をしても、相容れないことがあると分かるだけだ。

そうであれば結果がどうなるか分からないのに、不毛な争いはしたくない。2人の間にある空気を悪くせず、なるべく穏やかに過ごすことに努めただけである。

―そう。…決して健と心を通い合わせることを、諦めたわけではない。

結衣はそう自分に言い聞かせながら、今日株主総会が終わったら健と話をしようと心に決め、会社に向かった。



結衣が朝7時半に出社した時には、いつもは遅い役員たちが既に出社し、各自の机の片付けをしていた。

やっぱり今日は特別な日だ、という事が嫌でもヒシヒシと伝わる。

「今日の株主総会で会長に負けたら、株主総会が終わった瞬間に部外者だから。その後に会社に入ると、不法侵入になるからね。」

社長の松島が寂しそうに笑う。結衣は、何も言えなかった。


運命の株主総会の結果は果たしてどうなる?そして結衣はある決断を迫られる…!

間接部門の社員は、10時の開会に備え慌ただしく準備に取り掛かり、どうにか30分前の開場に間に合った。

「おはようございます」と来場した株主に笑顔で挨拶し、少しでも和やかな雰囲気を作ろうと務める。

結衣もテキパキと丁寧に受付応対するが、会長に投票しませんように、と心の中で一人一人に訴えかけた。

受付で株主名簿のチェックを行うが、明らかに例年よりも参加者が多い。警備の数も増やしたからか、空気が張り詰めているようだ。

会場の重々しい扉を、結衣はただただ見つめ、祈った。

―野村会長が社長になりませんように…。





株主総会終了後、結衣は会場を呆然と見渡した。

社名入りの紙袋に会社案内、株主総会の案内の立て看板。そしてこの日のための、透明な投票箱。

使い終わったそれらの物は散乱していたが、結衣は片付ける気にならなかった。疲れているのか、体が鉛のように重い。

役員席をみると、彼らの姿はなかった。


―そりゃそうだよね…。


株主総会の結果、現役員は退き、野村会長が社長に就任することが決まったのだ。新社長である野村は、今は挨拶回りで外出しており、出社は明日になるという。今頃どこかで祝杯をあげているのだろうか。


社内は、異様なほど静まり返っていた。管理職たちは緊急会議をしており、いつも賑やかな営業部は全員外に出ているのか、誰もいなかった。

残された社員たちは一応パソコンに向かっているが、手は動いていない。いつも以上にシンとしたオフィスは、まるで時間が止まっているかのようだった。

結衣がパソコンを立ち上げると、上司と奈央からメールが届いていた。今回退任が決まった役員の送別を兼ねて、間接部門で今夜飲みに行かないか、という内容だった。結衣は二つ返事で参加意思を伝え、健にLINEを送る。

―今夜飲み会が入ったから、ご飯作れなさそう。健は?

だがLINEは、一向に既読にならなかった。



「本当に本当に本当に、お疲れさまでした。」

会社近くで急遽開催された飲み会は、しんみりとした空気で始まった。入社以来、こんな悲しく重々しい雰囲気の飲み会を、結衣は知らない。

皆の顔に、不安と悲壮の色が漂っている中、旧社長の松島がおもむろに立ち上がった。

「この度は、私の力不足でこのような事態を招き、皆を巻き込み、本当に申し訳ないと思っている。何より後任は、あの野村さんだ…。」

社長の松島…いや、既に元社長となった松島は、力なく言ってうなだれた。そしてこの後に続く言葉に、場は騒然となった。

先ほど、間接部門に所属する管理職全員の退職願を受け取った、と告げたのだ。

野村の下で働くくらいなら会社を辞める、そして野村が社長になったら退職願を出しにくくなるのでこのタイミングで提出されたと。

それを聞いた皆は、驚きを隠せない。もちろん、そこには結衣や奈央の上司も含まれており、結衣と奈央は思わず顔を見合わせた。

さっきまで聞こえなかった他のお客さんの声が遠くで聞こえるほど、場が静まり返った。

「ここで、この場にいる皆さんに、わたしから最後の提案があります。」


元社長松島の最後の願いとは?その願いが結衣と健の亀裂を決定的なものにする…!?

「退職願のフォーマットを持ってきました。役員の決裁印も、今ここにあります。必要な方は退職願を書いて、持ってきてください。既に私は社長ではない。だが、昨日受理したことにします。

今日であれば、間に合います。今であれば…。」

明日、野村と管理職が今後の組織について話し合うという。その際、退職願をこれだけ預かっていると人事部長より報告するので、今日なら間に合うというのだ。

株主総会で退任が決まってしまった際に、どうやったら社員を守れるのか、自分にできることは何か、と悩んだ末に考えついたのがこれだったという。

飲み会の席で、退職願を一斉に書き出す、奇妙な光景が広がった。家庭がある人は、1人、また1人と店から出て電話し、家族に確認を取り始める。

「今後どうなっちゃうんだろう…。」

「本当に…。奈央は仕事続ける…?」

「正直どうしようかと思うけど、上司も辞めるみたいだし、この退職者の処理をしないとみんなが困ると思うから…。とりあえず残ろうかな…。結衣は?」

結衣はどうしようかと頭を抱えながらも、心の中では既に決まっていた。

しかし残ることも辞めることも、今ここで決断しないといけないことに不安でいっぱいだった。そんな中、社内で何でも話せる唯一無二の存在である奈央が、残ると決めたのは、本当に心強い。

ふぅーっと大きく息を吐く。

結衣の上司も辞めるし、業務が滞ることは目に見えている。会社はこんなことになってしまったけれど、間接部門が機能しないことで、残された社員が困ることは、避けたいと思った。

しかしその決断を下す前に、結衣は健とどうしても話したかった。2人はいま、会社では対立した立場に置かれているが、大切なこの決断についてきちんと話しておきたかったのだ。

結衣は店の外に出て、周囲を見渡し、誰もいないことを確認して電話をかけた。

だが、いつまでたっても健はでない。

―健はいま、何をしているんだろう…?



飲み会前に送ったLINEも既読になっていなかった。この間の話も、心の中でしこりとして残っている。

会社がこんな状況に置かれている中、それに引っ張られるように二人の仲にも距離ができているような気がして、苦しかった。

―誰かと人生を共にするということは、自分だけの人生じゃない。だからこの決断をする前に、せめて声だけでも聞ければ…。

一緒に暮らしていく中で、喜びは2倍に、悲しみは半分になると思っていた。

だけどいま、健と不安を半分にするどころか、会社への不安に加え、健と何も分かち合えないということへの不満が溜まっていた。

胸が痛み、上手く息が吸えない。

星一つ見えない空を見上げる結衣の頬に、一筋の涙が伝った。

結衣はその晩、退職願は出さなかった。会社に残ることを決意したのである。



煌々と照らす照明が眩しく、目が覚める。健が帰ってきたようだ。

今日は健が帰るまでは起きておこう、そう思ったのにまたソファで寝てしまっていた。目を細めながらスマホを見ると、朝の4時だった。

「あ、起こしちゃった?ごめんね。」
「ううん、大丈夫。おかえりなさい。飲み会だったの?」
「うん、今日も疲れたわ。おやすみ。」

そう言い残し、やはりお風呂には入らないまま寝室へと消える健に、結衣の胸はきゅうっと締め付けられた。

スマホを確認するも、電話の折り返しもなければ、LINEは既読にもなっていない。

―もう…。一体何なのよ……。

煌々と照らされたまの照明を見つめながら、まだ眠気でぼんやりとした頭でそんなことを考える。

結衣はその日、どうしてもベッドに移動する気にもなれず、2人は同棲して初めて別々に朝を迎えたのだった。


▶NEXT:8月21日火曜更新予定
会長が社長に就任。変化に揺れる社内に、同棲中の2人はどうなる?



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