「子どもできないんですか?」SNSに渦巻く女の嫉妬。悪質な嫌がらせを知った夫の、意外な反応

「子どもできないんですか?」SNSに渦巻く女の嫉妬。悪質な嫌がらせを知った夫の、意外な反応

イベント会社を経営する平野貴裕(ひらのたかひろ)・35歳。

ほんの出来心から妻と修羅場に発展した貴裕は、慰謝料300万円を支払い、さらには高級時計までプレゼントさせられるも、妻の怒りはおさまらない。

貴裕は奈美子との関係を一方的に解消しようとし、逆上した奈美子が暴挙に出る。

結局、華が不倫相手を一蹴し、一件落着となるのだった。

しかし今度は華に離婚準備疑惑が。

妻を思う貴裕の心は、華に届くのか?



妻の異変


−何かがおかしい。

休日の朝。ゆっくりとコーヒーをすする妻の異変に、貴裕はすぐに気がついた。

最近は、こうしてコーヒーをいれる習慣までもが貴裕の担当になっているのだが(豆から挽くのは休日限定)、微妙な味の違いにも敏感な華は、種類を変えるとすぐに気がつく。

しかし今日は、表参道にある『丸山珈琲 Single Origin Store』で、スタッフに勧められるがまま購入した豆を初めて使ってみたというのに、妻からは何のコメントも出てこない。

それどころか、どこか思い悩んだような表情で、小さくため息までついているのだ。

「華、どうかした?」

さりげなく声をかけてみるが、妻は慌ててその顔に作り笑いを浮かべる。

「別に、何もないわ」

けれどもそう言ったそばから、華の表情はみるみる曇っていく。

普段はドSなまでに強気な妻が見せる弱気に、貴裕までもが不安な気持ちになる。

だがこれ以上しつこく聞いても嫌がられるだけなので、貴裕は問いただすことを諦めた。

−仕事で何かあったのか…?まさか、男じゃないよな?

悟られぬよう華の横顔をこっそり盗み見るが、妻の秘密など、貴裕には当然、見破れないのだった。


様子がおかしい妻。その理由は男?…それとも、女?

貴裕が華の悩みに気がついたのは、それから2週間近くが経ってからだった。

相変わらず妻は仕事で忙しく、帰りが遅い。そこで貴裕のほうも、嫌がられない程度に葵や乾を誘っては頻繁に食事をともにしている。華が多忙だからといって、舌の根も乾かぬうちに女遊びをする気分には(今のところ)さすがにならないのだ。

最近ではふたりから恋愛相談なんかもされるようになり、以前よりぐっと距離が近づいた。近頃は飲みニケーションなど流行らないらしいが、酒の席を共にすることで深まる絆もやはりある。

有意義な時間の使い方だと、貴裕はこの習慣を大いに気に入っていた。

この日は、葵と乾と貴裕の3人で(すでに“いつものメンバー”である)まいせん通りにあるイタリアン『ガルエデン』を訪れていた。

ここは手頃な値段で美味しいワインが楽しめるので、貴裕のお気に入りのひとつである。



「実はうちの華が最近、珍しく落ち込んでるんだよなぁ」

泡、白と続き、赤ワインを開けたところで、貴裕はずっと気になっていた華の異変を思わずこぼした。

「華さんが?…まったく想像できませんね」

大げさに目を丸くしたのは、乾である。彼などは、貴裕以上に華の強気しか見ていないから余計に信じられないようである。

しかし葵の反応は違っていた。

「もしかしたら…」

何やら、思い当たる節があるようなのだ。もしや華から、何か聞いているのだろうか。

探るように見つめる貴裕に向き直ると、「まったく見当違いかもしれないですけどね」と前置きした上で、葵は言いにくそうに口を開いた。

「華さんって最近、雑誌とかテレビなんかにも出たりしてるじゃないですか。私には理解できませんけど、世間には、そういうのを僻む女がいるんですよ。

…それで、ネット上で嫌がらせしたりする暇人がいるんです」

「嫌がらせ…?」

葵の言葉に、貴裕は首をかしげる。

もちろんSNSやネット上の掲示板でそういう類のことが日々起きているのは知っている。しかし芸能人でもなんでもないただの一般人である華にまで、そんなことがあるのだろうか。

まったく理解できないという表情の貴裕を見て、葵は「仕方ない」と割り切った様子で言葉を続けた。

「まあ、そんなことをするのは大方、ワイドショーとか見てる暇な主婦ですよ。要は華さんが羨ましいんです。華やかな仕事をして、ファッションもライフスタイルもキラキラ輝いている。もちろんそれは、華さん自身の努力の賜物です。

だけど世の中、パートくらいしか行くところもない、素敵なお洋服を買うお金もないって女がほとんどですからね。

そんな自分を正当化するために、どうにかして華さんを否定せずにいられないんでしょう。…今の自分は、ぜんぶ過去の自分の選択の結果でしかないのに。ホント、残念な人たち」

「なんだそれ。面倒クセェ…」

貴裕が答える前に、乾が心を代弁してくれた。女という生き物が面倒であることは知っていたつもりだが、正直、理解の範疇を超えている。

だがその程度の…と言っては語弊があるかもしれないが、例えばいくつか中傷コメントがついたくらいのことで、華があんなに落ち込むだろうか?

貴裕が知る妻は、「そんなもの」と笑い飛ばす度量のある女である。

しかし、そう思ったのは貴裕の早とちりであった。

葵がその後に告げた事実は、「そんなもの」で済まされるレベルを超えていたのだ。

「平野さん。これ…見てください」


葵の口から聞かされた、想像を超えた陰湿な“嫌がらせ”の存在

葵はWEBで「平野華」とエゴサーチし、少しためらう素ぶりを見せつつ検索結果を貴裕に覗かせた。

すると、関連検索の表示に、「え?」と目を疑うようなモノが並んでいたのだ。

“平野華 夫” “平野華 夫 浮気” “平野華 離婚” “平野華 不妊”…。ひたすらに続く、ネガティブワードの数々。

「なんで、こんなこと…」

これまで自分の嫁を検索する機会などなかったから、こんなことになっているとはまるで知らなかった。

「完全に嫌がらせですよ。平野さんが浮気してるなんて、根も葉もない噂まで立ててヒドイですよね。

他にも少し前、華さんのインスタグラムに、“早く子づくりすれば?”とか“子どもできないんですか?”とかって失礼なコメントがついてるのを見たこともあります。華さん、すぐ消してましたけど…」

真実を言えば、すべてが根も葉もないわけではない。しかし葵の話を聞きながら貴裕は、身体中から湧き上がる怒りを抑えるのに必死だった。

離婚などしていないし、するつもりもない。また、華は自ら子どもを望んでいないだけで不妊ではない。

−自らの名も明かせないような輩が、好き勝手言いやがって。

これがまだ自分のことだったら、どうにかして怒りを鎮めただろうと思う。

しかし自分の妻が、他ならぬ華が傷つけられていると思うと、居ても立ってもいられない気持ちになる。

「誰だよこいつ。必ず見つけて、訴えてやる!」

憤った貴裕は、周囲の注目を浴びるのも構わずそんなことを叫ぶのだった。



「華!」

深夜、家に戻ると、華はちょうどお風呂に入っているところだった。

貴裕はバスルームまで追いかけていき、半身浴中の妻に声をかける。

「ちょ、ちょっと…なんなの、いきなり。びっくりするでしょ」

華はそんな夫の行動に、困惑を通り越し若干の怒りをにじませていたが、興奮する貴裕はおかまいなしに続ける。

「聞いたよ、華。ネットで華のことを悪く言ってるやつがいるんだろ」

「…え?なにそれ、誰に聞いたの?」

突然のことに、目をぱちぱちと瞬かせている妻。しかし貴裕は、華の問いには答えず勢いのままに宣言するのだった。

「俺が、なんとかしてやる。そんな理不尽なことが許されていいはずはないんだ。華は何も心配しなくていいから。俺が潰してやる」


▶NEXT:8月26日 日曜更新予定
最終回:「俺が潰す」と息を巻く貴裕。しかしこの一件が、夫婦関係を思いがけぬ方向に…?



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