外銀女子 最終回:生まれも育ちも美貌まで...全てに恵まれた女への嫉妬心が、ついに消えた理由

外銀女子 最終回:生まれも育ちも美貌まで...全てに恵まれた女への嫉妬心が、ついに消えた理由

“生まれつき勝ち組”だなんて胡座をかいていられるのは、今だけよー。

佐藤直子(27歳)は地方の下流家庭出身だが、猛勉強の末に東大合格、卒業後は外資系証券会社に入社。独力でアッパー層に仲間入りした「外銀女子」。

そんな直子の前に“生まれながらの勝ち組”・あゆみが現れる。

容易く多くを手に入れるあゆみに、直子の苛立ちは募るばかり。

そんな時、中学・高校時代の同級生・知也と偶然再会した直子。つかの間の春が訪れたかと思った矢先、直子のNY転勤が決まる。

NY出発前夜に知也は直子に告白するが―?



今年のニューヨークの秋は、暖かかった。

例年ならそろそろウールのコートを出しても良い頃だが、直子は今日もトレンチコート一枚でセントラルパークを歩いている。

良く晴れた土曜とあって、パーク内は思い思いに休日を楽しむ人々で溢れていた。

直子がニューヨークに渡って、1年。

直子のアパートメントからパークまでは徒歩5分程で、パーク内の湖に面したカフェで楽しむブランチが週末のお気に入りだ。

平日は、東京にいたときと変わらず嵐のように過ぎ去るが、さすがアメリカとでも言うのだろうか、“早く帰る人の方が仕事が出来る”という価値観が徹底したニューヨーク本社では、残業時間も少ない上に、週末出勤はほぼ皆無だ。

移ってきてから最初の数か月は時間も体力も何もかもが足りず、一体どうなってしまうことかと心配したが、ようやく公私共に自分のペースも出来上がってきた。

何より、ニューヨーク本社での仕事は期待していた以上に刺激的だった。

東京オフィスよりも更に効率化が進んでおり、直子は自分のレポート執筆と調査に思う存分集中することができた。

観光客を乗せた馬車が闊歩するパーク内の道路を渡り、目的のカフェが視界に入ってきた、その時。直子の携帯が、メッセージの受信を知らせ震えた。

“もうお店入れたよ!メニュー見てるけど直子のおすすめはどれ?”

“エッグベネディクト!”

短く打ち返し、直子は待ち合わせの店へと歩みを早める。

そう、今日のブランチには、ゲストがいるのだ。


直子がブランチを約束していた、意外な相手とは...。

『Loeb Boathouse』のテラス席はいつも通り賑わっている。

「お待たせ!もう頼んだ?」

「ううん、ミモザだけお願いしたけど、食事はまだ」

メニューから顔を上げたあゆみは、直子にのんびりと微笑みかけた。

「久しぶりだね。東京でも噂は聞いてたけど、元気そうで何より」

「あゆみこそ。...それにしても驚いたわ、まさかここで再会するとはね」



“生まれながらの勝ち組”あゆみの現在は...?


直子は目を細め、正面に座るあゆみを眺める。

相変わらずあゆみは、“素材の良い”美人だが、オフィスでは見慣れないジーンズに革ジャン姿が新鮮だ。

「覚えてる?新入社員研修で1か月ニューヨークに居たときも、よくここでブランチしたよね」

「もちろん覚えてるよ!1回さ、ナタリーがイケメンウェイターに見惚れすぎて、派手にコーラこぼしてたじゃない?…彼、まだ居たよ」

そう言って直子はあゆみの後ろのウェイターに小さく顎をしゃくる。

えーっウソー!とはしゃぐあゆみをヨソに、直子は手元のドリンクメニューに目を落とした。

5年前、右も左も分からぬ新入社員1年目だった自分。まさか5年後、このような形であゆみと同じ場に座っているとは、夢にも思わなかった。

ただがむしゃらにやってきただけだが、こうして振り返ると人生は不思議なものだ。

東京オフィスを去ってから、どういうわけか直子とあゆみの関係は急速に改善した。

というより、直子があゆみに対する敵対心を捨ててから、あゆみが頻繁に連絡してくるようになったのである。

NY転勤が決まったころからだろうか。不思議と直子はあゆみのことを意識することが減っていった。

その頃はまだ付き合っていなかったが、知也の存在も大きかったのだろう。

それまで仕事一辺倒でプライベートという感覚がほとんどなかった直子にとって、互いに信頼し合える相手がいることが、これほどまでに自己肯定感を高めるものか、と目を開かされる思いだった。

今では、あゆみとはプライベートでも仕事でも頻繁に連絡を取り合う仲だ。

「あれ、いつこっち着いたんだっけ?住むところってもう決めたの?」

「昨日着いたばっかり。父のアパートが1軒空いてるから、しばらくはそこかな」

男でも連れ込んだらドアマンから父さんにすぐ報告されちゃう、とあゆみが笑う。

「仕事はいつから?」

「来週月曜から、すぐ。まったく、バイサイド(※)も人使いの荒さはあんまり変わらないのね」

そう、父の資産運用会社を引き継ぐと言っていたあゆみだったが、どういうわけか気が変わったらしく、ニューヨークにベースを置くファンドに転職していたのである。

「...直子見てたら、バリバリ働き続けるのも悪くないなって思えてきちゃったのよね。のんびりするのは後からいつだって出来るじゃない?」

ちょうどその時運ばれてきたエッグベネディクトに、あゆみは歓声を上げる。

しかしふと思い出したように、あゆみは直子を意味深な笑顔で見上げた。

「ねぇそんなことより、聞いたよ?...相原君のこと」


※バイサイド:証券会社などの「セルサイド」から株式や債券などの金融商品を購入し、運用する機関投資家のこと。生損保や信託銀行、投資顧問などが該当する。


1年前、直子はNYに発つ直前に知也から告白された。ふたりの関係は、今どうなっているのか?

少しだけ紅葉した街路樹が、アッパーイーストの街並みを彩っていた。

あゆみとのブランチを終え、アパートへ帰る道すがら、直子は花屋で白い紫陽花を数本買う。

ハイブランドのショップが立ち並ぶ通りを過ぎ、こぢんまりとしたクリーニング店で今晩のディナーに着ていくワンピースを受け取る。

―そろそろ着く頃だろうか。

ウキウキと心が浮き立ち、足取りは自然と軽くなる。

なんせ、今日は1か月ぶりに知也に会えるのだ。



ニューヨークへ発つ前夜、知也にまさかの告白をされたあの晩。

想定外の事態に呆然とする直子に、知也はその場で“月に一度はニューヨークに行くから”と約束し、そして実際この1年間、知也は忙しい合間を縫って毎月直子の元を訪れてくれた。

アパートのあるブロックに差し掛かり、通りに停まるイエローキャブが目に入る。

ドアが開き、降り立った人物の懐かしいシルエットに、思わず直子は走り出した。

「知也!」

シルエットがゆっくり振り返り、駆け寄る直子を紫陽花ごと抱きしめる。

「直子」

「おかえりー!!」

直子が満面の笑みで知也を見上げると、知也の顔にはなぜか得意げな表情が浮かんでいた。

―…ん?

すると、知也はポケットから一枚の名刺を取り出す。

1年前、東京のマンションのロビーで奇跡的な再会を果たしたあの晩に差し出されたものと同じ、すべすべとした質感。

そして、そこには―

“グレンカス米国法人代表 相原知也”

所在地は、“355 W 16th St, New York, NY”と記されていた。

Fin.



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