女から異常な執着をされ、壊れてしまった男。妻は決して知らぬ、“被害者”だったはずの夫が語る真実

女から異常な執着をされ、壊れてしまった男。妻は決して知らぬ、“被害者”だったはずの夫が語る真実

突如僕の人生に現れた黒髪の美女・ひとみ。僕はその美貌と清楚な雰囲気に夢中になったけれど、実態は異常な女だった。

ひとみによって巻き起こされるトラブルを解決してくれた、昔からの女友達・雅子と結婚したのにも関わらず、ずっとずっと僕の人生に付きまとってくる。

でも。

新居にも押しかけ、狂った小包を送りつけてきたひとみのことを…

僕は何故だか見捨てることが出来ず、それが、さらに恐ろしい事態を引き起こしていた。

警察やひとみの母の介入で無事平和な日々が戻ったかのように見えた堂島家だったがー。



母の懺悔


全て、私のせいです。

ひとみがあんな事件を起こしたのも、みんな私のせいなのです。

私が愛情だと信じていたものは、単なる価値観の押しつけ。

いろいろな先生にお目にかかって、やっとここまでは理解できました。だから、ええ。今度は娘を本気で助けたい。そのためには何だってします。

今後のあの子のためにも、主人とも近日中にきちんと法的なけじめをつけるつもりです。

ひとみが起こしてしまった事件に関しては、相手方のご夫婦が奇特な方で…あちらとしても、ことを大きくしたくはないと仰ってくださいました。普通だったら刑事事件になってもおかしくないことをしたというのに。

あの子の症状は一体何なのか。

今私自身が毎週通ってお世話になっている方が、有名なカウンセリングの専門家でいらっしゃるんですが、その方に今度信頼できる病院の先生を紹介していただき、きちんと診断していただこうと思っています。

あの子もあの子なりに今は、ことの重大さに気がついているようで…。えぇ、もうそう無茶なことはしないと…。

信じています。信じたいです。

自分が子育てに失敗したことを…こんな風に、軽々しく失敗と言えるようなことでもありませんが、それを認めるのはとても辛いことでした。

でも、認めた後は、どうにか、どうにか償うだけです。


治療を開始したひとみと母の関係は?

少しずつ、本来の親子らしさを取り戻す


「ひとみちゃん、夕飯のお買い物行く?」

母にそう言われ、私は幼い頃と同じように「うん」と答えた。

近所のスーパーまでは、歩いて5分。私は髪を切ってからというもの愛用しているジーンズとパーカーという出で立ちだが、念のためジャケットも羽織る。

「今日は何を作ろうかしらね。2人だと、簡単なものばっかりになっちゃうわよね」

そんな風に、あれこれメニューの相談をしながら歩く。

夕方の肌寒さが心地よい。オレンジ色に染まった空を眺めていると、子どもの頃、こうして何度も何度も母と買い物に来たことを思い出す。



買い物かごを押す母の後をついて歩いていると、まるであの頃に戻ったような気がした。

いつだろうか。母との時間が窮屈だ、と感じるようになるもっと前。

母のことが大好きで大好きで、手をつないで歩いているだけで安心したあの日々に戻ったかのような気分になる。

今はあの頃みたいに、ちっとも母との時間が窮屈じゃない。

大問題を起こした私を見捨てずにいてくれた母。

母が見つけてくれた先生のところに通うようになってから、少しずつだけれど変化を感じていた。

急に色々なことが曖昧になってしまう感じとか、怒りや悲しみでどうしようもなくなって自分でもコントロールできない感情の波に飲み込まれることが少なくなった気がしている。

先生に聞かれるまま話をする50分間は、辛い記憶がよみがえることもあるけれど、でも通い続けている。

何よりも、あの日警察の人たちに頭をさげる母の目に溜まった涙を見て、私自身が変わりたい、と思ったから。

先生の言う通り、毎日のルーティンを決めて、出来るだけそれを続けるようにした。

起床時間、身支度、朝のウォーキング、朝食は必ずとって、出来るだけ毎日一つは新しいことをするのだ。

先生は、私の喋ることを一切否定しない。

ああすればよかった、こうすればうまくいったのに、とかそういうことも言わない。その時々でそうせざるをえなかった自分を、全部まるっと受け入れなさいって言ってくれた。

「ダメだった自分も、自分で受け入れるんだよ。お母さんや、"ユウキくんとやら"にぶつけるんじゃなくてね」

それから先生は、私と母の関係についての話も時間をかけて聞いてくれた。

「色々辛いこともあったかもしれない。普通からしたら、おかしなことも。でも、このお母さんの子供に生まれてきて、良かったと思える?」

私の答えは、迷わず、”はい”だった。

母の立場、父との関係、プレッシャー。そういうものが理解できるようになって、初めて母のことを一人の人として、客観的に見ることが出来たのだ。

ーお母さん。私、お母さんの子供に生まれて良かったよ。

先生からの宿題で、母にそう伝えた時からかな。

そのうちに私は、ほんの少しずつだけれど、ユウキくんのことを思い出さなくなっていった。


ユウキのことを思い出さなくなっていったひとみ。その頃、ユウキは?

父の訪問


「あぁ、雅子さん。ユウキはいるか?」

「ええ、書斎の方に…あの、お義父さま、お義母さま、お茶のご用意もありますから…」

「後で構わんよ。お邪魔させてもらうね」

廊下に、大きな足跡が響く。

バタンッ。

ノックもせずに、ドアが開いた。



「ユウキ。おい。お前どうするんだ。もうすぐ子供も生まれるっていうのに、いつまでもこのままでいいと思ってるのか」

父だ。父が、何だか怒っているようだ。

「お前まであいつのようになるっていうのか!いったいどうなってるんだ!」

興奮して怒りを表現する父は、幼い頃の記憶と何ら変わっていない。

顔は真っ赤というよりどす黒くなり、近くにあるものに当たる。壁や机、そして、運が悪ければ近くにいる人間。

「まぁまぁあなた、こういうことは時間をかけましょう。雅子さんのお腹の赤ちゃんにも響きますから…」

母だ。

この人が家に来てくれたおかげで、堂島家は何とか体裁を保てたようなものだ。

テキパキしていて、何かあっても翌朝にはケロリとしている。細かいことを気にせず、心も自立していて、ぼくも安心して学生生活を送ることができた。

「お茶が入りましたよ。お義父さまのお好きな、芋羊羹も用意してるので、良かったら」

雅子の声がリビングから響いている。やっと父が去ってくれた。

「ねぇあなた、やっぱりね。この機会に、ユウキくん、お医者様のところに通ったほうがいいと思うんです。もちろん、大毅くんも一緒にね。雅子さんも不安でしょう?」

「いや、ダメだ。堂島の息子が病院通いなんてことが知れたら、周りの人間に何を言われるか」

父と母の話し声がだんだんと遠くなっていき、ぼくは安心していつもの日課に取り掛かることができた。


ユウキのいつもの日課とは?

ぼくの大切な人はどこだ?


皮肉なことに。

あの事件が起こって、家の前でうずくまるひとみを見たとき。

あぁ、この子を守れるのは、ぼくをおいて他にはいない、と気がついてしまったのだ。

ひとみはぼくのためにボロボロの姿になって、長い間ずっとぼくだけを見てくれていたというのに。

なぜ初めから、こんな単純なことに気がつかなかったんだろう?

どうして、雅子をぼくの人生に巻き込んでしまったのだろう?

ひとみ。ひとみ、ひとみ。

目を閉じれば、彼女と過ごした毎日が思い出される。

料理が上手で、清楚で、照れ屋で、嫉妬深くて。

ちょっと異常なくらい、純粋な女の子だというのに。

ぼくが彼女の魅力を初めからきちんとわかっていれば、こんなことにはならなかったのに。

ぼくには妻がいて、子供も生まれる。でも、子供…生まれるのかなぁ、本当に。

なんだか現実味がない。

現実味があるのは、ひとみに愛されていた日々のことだけだ。

なんてったってぼくらは、2人きりとはいえ結婚したんだから。


ひとみが今、どうしているか。ひとみを守れるのはぼくしかいないから、なんとか業者に頼んで家を探しだして、彼女の動向を把握している。

業者からはほぼ毎日レポートが届く。それをチェックしては、彼女に何か危険なことやおかしな様子がないか確認するのがぼくの日課だ。コストはかさんでしまうが、仕方がない。

最近のひとみは髪の毛を切って、随分とイメージが変わっているけれど、相変わらず可愛いんだ…。

こうして、遠くからだけど、ぼくはずっと君を見守っているよ。そして何かあれば駆けつけて、守ってあげる。


でもー。

あんなにもぼくを愛し、求めてくれた彼女が、今や何事もなかったかのように楽しく生活しているのを見て、ぼくは不快な気持ちになる。

こんなにもお金と時間をかけて、ひとみを守ってあげてるというのに。

今のひとみは、まるでぼくなんかいなくても平気みたいな顔をしているんだ。

ぼくの方ときたら、彼女の一途な本物の愛情のせいで、ひとみなしの人生など考えられなくなってしまったというのにー。


Fin.



関連記事

東京カレンダーの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

トレンド アクセスランキング

ランキングの続きを見る

トレンド 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索