全社メールで暴かれた、上司と部下の略奪愛。窮地に追い込まれた女が下した決断とは

全社メールで暴かれた、上司と部下の略奪愛。窮地に追い込まれた女が下した決断とは

人のものを奪ってはいけない。誰かを傷つけてはいけない。

そんなことは、もちろんわかっている。

しかし惹かれ合ってしまったら、愛してしまったら、もう後戻りなんてできない−。

渋谷のWEBメディアで働く三好明日香(24歳)は、彼氏がいながらも上司・大谷亮(おおたに・りょう)と一線を超えてしまう。

大谷が結婚していることを知り、距離を置こうとするも、惹かれ合う二人は、略奪愛を覚悟するのだった。

ストーカー化した明日香の元彼・昭人から逃げるようにして二人は一緒に暮らし始めるが、ある夜、明日香は大谷と妻が電話で話しているのを聞いてしまう。



大谷舞:「私たちはスマートで自立した、理想的な夫婦」


夫・亮との通話を終え、私はスマホをテーブルにゆっくりと置いた。

ふぅと小さく息を吐き、姿勢を正す。今日はまだ仕事が残っている。脇に避けていたジュエリーのデザイン画を手繰り寄せようとして、ふと左手薬指のリングに目が留まった。

亮と結婚した時、自らデザインしたエンゲージリング。中央に大粒のダイヤが鎮座し、流れるようなリボンモチーフにもまた、ぎっしりとダイヤが埋め込まれている。

数秒、うっとりと眺めていた私だったが、次の瞬間心に空虚な風が吹いた。

亮と電話で話したのはいつぶりだろう。

上海に移り住んで早1年、彼がこちらに来たことは一度もない。たまに私が電話をしても出ないし、LINEでのやりとりも事務的なものばかりだ。

しかし別に険悪なわけではない。結婚して5年、私たちに大きな問題は起きていない。ただ、いつの間にかお互いに対する関心が薄れていっただけで。

そもそも私たちは“大恋愛” の末の結婚ではない。

当時、業界最大手の人材サービス企業に勤めていた亮と私は、いわゆるお食事会で出会った。自然な成り行きで恋仲になり、29歳という年齢もあって私から亮に結婚を迫ったのだ。


ついに明らかとなった大谷夫妻の関係性。妻が「私たちが離れることはない」と言い切る理由とは

爽やかで人当たりが良く、端正な顔立ちで身長も高い。誰に写真を見せても「かっこいい!」と絶賛される彼は私の自慢だった。

家柄や出自にうるさい両親も亮だけは一目で気に入り、頑固で気難しい父親と和やかに談笑する彼の姿を見て、幸せな結婚をするなら彼だ、と確信したのだ。

それに彼にとっても、私との結婚はメリットしかなかったはずだ。

亮はもともと独立志向が強くどこかのタイミングで絶対に起業したいと話していた。実家に資産がある私は彼に安定を求めることもない。父が営む宝石事業も私自身が継ぐ予定で、亮に足かせがかかるわけでもない。

亮の人柄を絶賛する両親も彼の野心に理解を示し、無駄な支出をする必要はないと言って、実家所有のマンションを新居にプレゼントしてくれた。

私たちはどこから見ても、何不自由のない、スマートで自立した理想的な夫婦だ。

たとえ多少のすれ違いがあっても、この居心地の良さを手放すなんてありえない。

そう。もし万が一、私たちが離れるようなことがあるとすればそれは…どちらかが何もかも捨ててもいいと思えるほどの情熱的な愛に出会ってしまった時、だろうか。

けれどそんなこと、まず起こり得ない。

私も亮も十分に世の中を知っている。

恋だの愛だのが一時の幻想だということも、よくよく知っているはずだから。


明日香:「一体、誰がこんなことを…?」


大谷と暮らし始めた私は、多少の引っ掛かりを感じながらも、新婚生活さながら甘い毎日を過ごしていた。

愛する人が毎日必ず自分の元へ帰ってくる。毎晩必ず、抱き合って眠れる。

その安心感がもたらす幸福はかつて経験したことがないほどで、私は朝に晩に、この日々が永遠に続くことを願った。

だが穏やかな幸せを感じられたのはほんの一瞬で、私のささやかな願いはあっけなく砕け散ることとなるのだった。

しかも…まるで予想もしていなかった、最悪の形で。


年末の忙しさが街に漂い始めた、師走のある朝のことだ。

わざと時間をずらし、大谷より先に出社する。いつも通りのルーティンでオフィスフロアに足を踏みいれた私は、その瞬間、流れる異様な空気に気がついた。

「おはようございます」

声を出しても、誰一人としてこちらに視線を向けようとしない。ただ一人、前の席に座る徹だけが、私をまっすぐに見つめていた。

「…何?なにかあった?」

PCを立ち上げながら小声で問いかけるが「いや…」と口ごもる徹。

ざわざわと嫌な音を立てる胸を押さえ、メールボックスをクリックしたその時。業務メールに混ざって、圧倒的に異質なタイトルが目に飛び込んできた。


“【証拠写真あり】三好明日香は不倫略奪女”


−何、これ…。

瞬時に背筋が凍り、マウスにおいた指がカタカタと震えた。

差出人はフリーアドレスで、何者かわからない。見ず知らずの誰かから向けられた、明らかな悪意。

私は息をするのも忘れ、震える手で恐る恐るそのメールをクリックした。


“大谷亮と三好明日香は、海外にいる大谷の妻に隠れて同棲している。”


見ようとせずとも目に入ってくる大きなフォント。さらには画面いっぱいに、1枚の写真が映し出されているのだった。

私と大谷が肩を寄せ合い、同じマンションに入って行く瞬間の写真。私たちが暮らす目黒のマンションの道を挟んだ向かいから撮影された、明らかな盗撮画像。

そして、このメールの宛先は…あろうことか全社一斉メールだった。


“略奪女”のレッテルを貼られた明日香は、ある決断をする

彼の代わりは、どこにもいないから…


どのくらいの時間、画面を見つめていただろうか。

真っ白になった頭と、突然聞こえなくなった耳。シャットアウトされていた周囲の雑音が徐々に耳へと流れてきて、私はようやく我に返った。

「やっぱり。私ずっと怪しいと思ってたの」
「社内不倫とか気持ち悪くない?ほんとやめてほしい」

ヒソヒソと交わされる声に居た堪れなくなった私は、気がつけば席を立っていた。

「三好!どこ行くんだよ!?」

徹が追いかける声が聞こえたが、振り返る勇気も余裕もない。

私は誰とも顔を合わせぬよう俯きながらフロアを後にし、ほとんど走りながら渋谷の街へと飛び出した。



「明日香!どうした…?」

明治通りを逃げるように歩く私の足を止めたのは、ちょうど出社してきた大谷だった。

顔面蒼白、明らかに様子のおかしい私を見るや否や、大谷は強引に腕を掴み「こっちへ」と人気のない路地裏へと引っ張った。

顔も名前もわからない相手から突然向けられた悪意。手のひらを返したように白い目を向ける同僚。

自分を取り囲む世界が一瞬にして敵だらけになってしまった恐怖で、私はもう立っているのもやっとの状態だった。

大谷に支えられるような格好で、私はしばらくの間うまく言葉を発することもできない。

「何があった…?」

彼の腕の中で、私は何度も深呼吸を繰り返す。そしてようやく少しばかり落ち着きを取り戻した私は、つい先ほど目の当たりにした信じがたい事実を、大谷にありのまま話したのだった。


「私、会社辞める。大谷さんに迷惑をかけるわけにはいかないから…」

すべてを告げた後で、私は自分でも無意識のうちにそう口走っていた。

「何言ってるんだ。僕の方こそ、君にそんなことさせられない」

大谷はすぐに私の申し出を否定した。

しかし声にしてみると尚更、そうするのが最善策に思えた。頭で考えるより先に出た言葉だったが、時が経つほどに私の覚悟は決まっていく。

どう考えても、大谷は会社にとって、社長にとって、必要不可欠な存在だ。

それに私と大谷の未来にとっても、これ以上の騒ぎにならぬうちに私がさっと身を引いた方が良い。

人の噂も七十五日と言うように、ただのゴシップなら時間が風化させてくれる。大谷は仕事のできる男だから、私さえいなくなれば会社での立場もすぐに回復できるだろう。

「ううん、いいの」

会社を辞める。そう決めたら、私はむしろさっぱりした気持ちにさえなった。

もう迷いはなかった。私が何より守りたいものは、ただ一つだけだから。

「仕事なら、他にいくらだってある。だけど私にとって、大谷さんの代わりはいないの。私には、大谷さんしかいないから…」

そっと彼を見上げ、照れ混じりに微笑む。

覚悟を決めてそう言い切った私に、彼は「ありがとう」と「ごめん」を、繰り返し呟いた。


▶NEXT:1月26日 土曜更新予定
周囲に渦巻く悪意が、二人をさらなる窮地に追い込んでいく。



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