人気者の女と、“付き人”ポジションの女。30歳手前で立場逆転をされた、幼なじみの本音とは

人気者の女と、“付き人”ポジションの女。30歳手前で立場逆転をされた、幼なじみの本音とは

上京してからというもの、私の人生はパッとしない。

地元では「かわいいリカちゃん」と呼ばれ、散々もてはやされてきたけれど。

私程度の女なら、この街にくさるほど居るー。

地元を飛び出し、憧れの人気女性誌への入社を果たした秋吉りか子(29)は、自分の"無個性"にウンザリする日々を過ごしていた。

そんなある日、中途で採用された一人の女が、りか子の前に現れる。ムッチリとしたスタイルに、やたら身振り手振りの大きな帰国子女。

りか子が虎視眈々と狙っていたポジションを華麗にかっさらっていき、思わず嫌悪感を抱くがー。

まるで正反対の二人の女が育む、奇妙なオトナの友情物語。


人気女性誌「SPERARE(スペラーレ)」で編集長の秘書として働く秋吉りか子。りか子は編集部のポジションを狙っていたが、“小阪アンナ”と名乗るぽっちゃり女子に奪われてしまう。

更に追い打ちをかけたのは、恋人・修一の朝帰りだ。ついに恋人との亀裂が決定的になり、家を飛び出したりか子を助けたのは、なんとアンナだった。



「もしもし、美香?本当にごめんね、急に引っ越しすることになって、バタバタしてて…。」

新居が見つからず、恵比寿駅の西口で途方にくれている時に受信した美香からのメッセージ。それを見てすっかり青ざめた私は、慌てて彼女に電話をかけた。

「いいよ、気にしないで。それより、引っ越しって本当?まさか例の彼と、ついに結婚するの?」

美香は電話越しに声を弾ませているが、想像とは真逆の事態が巻き起こっていることを彼女はまだ知らない。

「ううん、違うの。ちょっと、いろいろあって。」

「ねえ、近いんだからたまには帰ってきてよ。鎌倉でご飯でも食べよう?話、聞かせてよ。来週末あたりどうかな?」

その提案を断るなんて、できなかった。出しそびれた結婚式の返信ハガキを見つめながら、私はこうして美香とランチの約束をしたのだった。



ファッション雑誌の編集部で働くこと。それが私の夢だった。

今でもその夢を諦めたわけではない。

しかし美香から「夢、叶えられたの?」と聞かれた大晦日の夜、「もちろん」とは即答できなかったことを思い出すと、途端に苦々しい気持ちになる。

次第に30歳という年齢が見え始め、いまだに叶いもしない夢を追いかけ続ける自分に疑問を持たないわけではない。

この街の雑踏に紛れ“その他大勢”として生きていく方が、ずっと簡単で、もしかしたら幸せになれるのかもしれない。

—でも、今諦めたら、きっと死ぬまで後悔する。

そんなことを考えながら、私はようやくベンチから立ち上がり、中目黒へと歩き出した。


りか子が気づかなかった、幼馴染・美香の本心。彼女が抱いていた、どす黒い感情とは…。

美香「私が嫌いなのは、都会で幸せを掴んだあの子。」


幼馴染のりか子は、昔からいつも私の隣りにいた。活発なタイプの私と、控えめなりか子。

そんな私達は”ミカリカ”なんて呼ばれて、近所でも評判の仲良し二人組だった。けれど、私達には決定的な差があったのだ。

クラスでは、社交的な私のほうがみんなに慕われていた。クラスの人気者の付き人、それがりか子のポジションだ。

何か彼女に取り柄があるとしたら”あの子よりはマシ”と私に思わせてくれるところなのかもしれない。

彼女が卒業アルバムに書いていた夢を諦めて、地元で就職したと聞いた時は心底ホッとした事を覚えている。

死ぬまでこの地を離れることのない私にとって、りか子の存在は必要不可欠だ。

”あの子よりは、マシな人生を生きてる”と、思っていたかった。

りか子が突然「東京に行く」と言い出した時も、どうせすぐに帰ってくるだろうと思っていた。

しかし、時折彼女から届くLINEを読むたび、私の心は黒く染まっていった。そこには、決して私が手にすることのできない人生を生きる彼女の姿があったから。

ハイスペックな彼氏ができただの、表参道のマンションに引っ越しただの…。

いつしか、私とりか子の立場は逆転した。

だからあの大晦日の夜、婚約をして幸せの絶頂にいる私の姿をりか子に見せつけたかった。

いつまで経っても”編集者になれない秘書のりか子”を見下したかったのだ。

そして、自分にそっと言い聞かせる。”りか子よりは、マシな人生”なのだ、と。



しかし、約束のランチの日『Biils 七里ガ浜』にやって来たりか子は、いつもと雰囲気が違っていた。

LINEで事前に「彼氏と別れて同棲を解消した」と聞き、さぞ落ち込んでいるのだろうと思っていたが、店に現れたりか子は私の知っている彼女の姿とはかけ離れている。

マルチカラーのニットワンピにレザージャケットを合わせ、いつもは下ろしている重たい髪もアップにまとめているし、メイクもコーラルピンクのチークがよく似合っていて、顔色がパッと明るく見える。

「美香、本当にごめんなさい。」

そう言ってりか子が頭を下げると、耳元のピアスが上品に揺れた。

—私の知っているりか子なら、こういう時はこの世の終わりみたいな顔をするはずなのに…。

「いいのよ、気にしないで。返信ハガキなんて、形式的なものなんだから。」

心なしか自信に満ち溢れた雰囲気のりか子を前に、私は戸惑いを隠せなかった。


少しずつ変わってゆくりか子の決心とは

りか子「もう二度と、人を妬み恨むような私には戻りたくない。」


「りか子、変わったね。」

リコッタパンケーキを口に運ぼうとすると、美香は不思議なものを見るような目で私を眺めていた。

「そうかな…。ううん、そうなの。今のままじゃ駄目だって、気づいたのよ。」

美香の言う通り、私自身が少しずつ変わっていることに気づいていた。

最初は洋服、メイク、靴…。アンナからアドバイスを貰いながら、少しずつ自分の好きなものを身につけるように心がけた。

すると面白いことに、確かに内面まで変わっていく気がした。顔を上げて前を向くだけで、次に何をすべきかということがクリアになってゆく。

「色々問題はあるけど、でも悩んだってしょうがないって思えるようになってきて。」

もう二度と、人を妬み恨むような私には戻りたくなかった。いつだって、人生は自分で切り開かなくてはならないのだ。

「どうしたの、急に…。りか子らしくないじゃない。」

「去年の大晦日、美香の質問にちゃんと答えてなかったよね。あの時私ね、彼氏とも上手くいってないし、仕事もボロボロだった。今も状況は良くなったかって聞かれたら、そんなことはないんだけど…。」

目の前のパンケーキのことも忘れ、訝しげにこちらを見つめる美香に、私はある決心を告げる。

「あの日の質問の答えは“NO”よ。でも、いつかかならず叶えるわ、絶対に。だって、ずっと夢見てきたんだもの。」

大きな窓の向こう側に広がる七里ヶ浜の海に目を向け、私はつい3日前にアンナから聞いた”ある話”を思い出す。





アンナと暮らすようになってから、私は彼女の部屋で仕事を手伝う機会が増えていた。

上達しているとは言え、アンナの仕事は完璧ではない。相変わらず誤字脱字は多いし誤訳誤変換も数知れず。一本の記事を仕上げるのに、人の倍時間がかかっている。

かといって編集部で孤立しつつある彼女に、社内で誰かから救いの手が差し伸べられることはほとんどない。

そこで私は、家に泊めてもらう代わりに彼女の仕事を手伝うことにしたのだ。

最初は事務的にアンナの作った下書きに修正を入れるだけだったが、次第に、アンナと一緒になってああでもないこうでもないと考えを巡らすようになっていた。

夜な夜な2人でワインを片手に、原稿を書く日々は楽しくてたまらなかった。

そんな時、突然アンナがこんな社内情報を教えてくれたのだ。

「知ってる?来年度からSPERAREのWEB版が始まるのよ?りか子、挑戦してみたら?たしかWEB版の編集部の募集がもうすぐ出るはずだから。」

その瞬間、目の前に道が見えたような気がした。


▶Next:2月29日 金曜更新予定
ついに編集者への道が見えてきたりか子。しかし、思いもよらぬ障壁が立ちはだかる…。



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