妻を裏切り続けてきた夫に、天罰を。虎視眈々と計画を練る開業医妻の、最後の秘策

妻を裏切り続けてきた夫に、天罰を。虎視眈々と計画を練る開業医妻の、最後の秘策

―私は私。他の誰とも比べたりしない。

結婚して、出産する前まではこんな風に考えていたのに。

子供を持ち母となって、劣等感と嫉妬心に苦しめられる女たち。

未だかつてない格差社会に突入した東京で、彼女たちをジワジワと追い込むのは「教育格差」だった。


結婚により生活レベルが下がってしまった佐々木エミは、夫と娘を愛しているのに、森田実沙子との再会によって、教育格差を実感。焦燥感や共働きのストレスにより、家庭は壊れかけていく。

一方で、金銭的な不安を持たず日々を過ごす実沙子は、夫の浮気疑惑が発覚し、妻・母としての重圧から精神的に追い詰められていた。

エミの家庭は子供を中心にまとまりつつあるものの、実沙子は夫の不倫の証拠を集め、ついに離婚を突きつけることを決意した。



森田実沙子:ついに、夫と対決する


何事も、初めて行うときは緊張するもの。

けれど、勇気を出して一歩踏み出してしまえば、「なんだ、大したことなかった」と思うようなことがほとんどなのです。

「不満」を抱えて生きるよりも、「不安」だけれど一歩踏み出すことで、人生は開ける。

初めて弁護士事務所を訪れた私は、そんな風に思っていました。

離婚を決意し、実家の母をはじめ、家族や友人に少しずつ本音を打ち明け始めた私の周囲には、たくさんの味方が集まってくれており、弁護士の先生も姉の夫が紹介してくれたのです。

霞ヶ関という、今まではあまり縁のなかった駅に降り立ち、みなみが幼稚園に通っている間に何度も先生と相談しました。

こちらに有利な条件で離婚するために必要な準備、相手の財産状況の把握、そして何よりも大事な親権について…。

インターネットなどでもかなり熱心に情報収集していたものの、夫・昌幸さんと直接お話をする前にこうして専門家の先生とお話ができたことは、本当に幸運としか言いようがありません。

表立った暴力などもなく、経済的には家族を支えてくれている昌幸さんとの離婚に必要なのは、やはり、しっかりとした「不貞の証拠」です。

昌幸さんは外向きはとてもとても良い夫、父親として振る舞うことに長けているため、協議でこじれた場合の離婚調停で、調停委員が騙される可能性もある。

なので、メール画面の写真やレシート、家に帰宅しない記録だけでなく、何か決定的な証拠を得る必要がありました。しかし私は、最後のところでその証拠を得るのを恐れていたのです。

それを手に入れたら…。どんなに不幸だったとはいえ、慣れ親しんでいた人生が大きく変わってしまうことが怖かったから。


万全の準備で離婚に挑む実沙子。一方、昌幸は…?

揺らぐ決意。どうしても思い出してしまう、良い時間


離婚に向けて虎視眈々と昌幸さんの不貞の証拠を集め続けていた私には、とある一つの心の変化が起こっていました。

それは、精神的に昌幸さんを頼る必要がなくなったことで、毎日を比較的平穏に過ごせるようになったという変化です。

こちらは既に離婚の決意が固まっているので、昌幸さんに過剰な期待をしませんし、無理に話しかけたりすがったりもしません。

そうすると不思議なもので、昌幸さんの態度も随分と軟化していったのです。

ある時など、至極機嫌良く帰宅した昌幸さんが、久しぶりに私に『スイーツ&ギフト』のスイーツを買ってきてくれました。



「はい、実沙子。これ、お土産だよ。明日みなみと食べて」

昌幸さんは、外見はガラリと変わってしまいましたが、昔、私が大好きだった笑顔でこちらを見ています。

「…ありがとう」

まだみなみが生まれる前。

出会いこそ古風なお見合いでしたが、私たちは食事の趣味も合い、2人で他愛もない話をしながら色々なレストランを食べ歩きました。

あの頃は、どんどん体重が増える昌幸さんを心配はしたものの、かわいいな、愛しいなと思っていたのです。

こうして昔のようにお土産を買ってきてくれる彼を見ると、あれだけ固い意志で離婚を決めたのにも関わらず、私の心はぐらりと揺れてしまう。

そうして、胸がいっぱいになって、涙が止まらなくなるのです。

私の目からは、思わず涙が流れ落ちました。

もしかしたら、もう一度やり直せるのかもしれない。

もう一度、心から私の気持ちを話したら、昌幸さんは分かってくれるかもしれない。

私は涙を拭きながら、昌幸さんに話し合いを持ちかけました。

ですがー。

「やめてよ」

先ほどまでの笑顔は消え、私を見る目はまた、見慣れた冷たい、空虚な色をしています。

「最近、文句言ってこないからと思ってお土産買ってきただけで、話し合いとかそういうのいいから」

そうして、私に対して犬を追い払うような仕草で、二度、シッシッと手を払ったのです。

昌幸さんが寝室に行ってしまうと、私はその場で最後の涙を流しました。

正確には、昌幸さんのために流す、最後の涙です。

そしてそれ以降、私が彼のために心から涙を流すことはありませんでした。

この日をきっかけに、離婚に対してほんの少しのためらいを残していた私を止めるものは、本当になくなりました。


いよいよ、離婚に踏み切る。幸せになるために、女が行動を起こす時

「今まで、ありがとうございました」


昌幸さんに気がつかれないように進めていた離婚準備も、いよいよ大詰めを迎えました。

すべてを気づかれないようにすることが最優先のため、世田谷の実家に少しずつ荷物を運び、本当に大事なもの以外は置いて行くことにしたのです。

幼稚園受験のための紺のスーツ、お義母様の指示で購入した洋服やアクセサリー類などは、もう必要ありません。

私とみなみが最低限必要な荷物は、結局段ボール5箱にもなりませんでした。

みなみには世田谷の方で、新しく幼稚園を探しました。ちょうど欠員が出た私立幼稚園があり、運良くその園に入れることも決まっています。



そして、昌幸さんとの最後の話し合いの時がやってきました。

とはいえ話し合いと言ってははぐらかされてしまうので、みなみの園の行事だからといって昌幸さんを幼稚園の外に呼び出したのです。

「あれ?誰も保護者いなくない?」

不思議そうにする昌幸さんに、私は一歩近づき、最後の問いかけをしました。

「ねぇ、昌幸さん。お願い。みなみのことを思うなら、私と話し合いをして。お願いだから、みなみの父親なら、夫婦の問題を解決しましょうよ」

ですが昌幸さんは、顔を真っ赤にして怒り出しました。

「何言ってるんだ、この後に及んで!みなみの行事なんて嘘ついてまで…どこまで自分勝手なんだよ。もう付き合いきれない。うちはこれでいいんだ。何の問題がある!」

私はすうと息を吸い込みます。

そして、大きく吐き出してから、言葉を選びました。

「あるわ、昌幸さん。大有りよ。だってあなた、散々外で他の女の人と付き合ってるじゃない。私が、浮気に気がついていないと思っていた?あなたの不貞行為、全部証拠があるのよ」

昌幸さんは一瞬ひるんだ表情を見せましたが、なおも怒りを隠せないといった様子でこちらを睨みつけます。

「何を言ってる!だいたい俺が他の女と付き合うことになったのも、君が悪いんだろ」

「私の何が悪いの」

「産後、僕の相手を全くしなくなっただろう。それで亭主が外で浮気して、何が悪い!どうせ証拠なんて、大したもんでもないだろう。離婚でもするつもりか?専業主婦の君が、みなみの親権を取れると思ってるのか?嫌なら君だけが家を出ていけよ」

私はホッとしました。

やっと、最後の証拠が揃ったのです。

私はポケットの中の録音機器のストップボタンをこっそりと押しました。

エミと何度も練習したやり取りです。

会話の録音できる距離感、機器がはみ出さないポケット、会話を録音するタイミング。

一切喋らなくなった私を、昌幸さんは訝しげに睨みつけていました。

「昌幸さん、あなたの気持ちは良くわかりました。私たち、出て行きますね。今まで、ありがとうございました」

私は昌幸さんに深々と頭を下げ、世田谷の実家で私を待っているみなみの元へと駆け出しました。


▶NEXT:3月1日 金曜更新予定
次週最終回:昌幸に別れを告げた実沙子、家庭を維持すると決めたエミ。幸せになるための決意をした女たちの、その後は…?



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