麗しの美人CAと、彼女いない歴31年男。まさかの出来事が起こった夜

麗しの美人CAと、彼女いない歴31年男。まさかの出来事が起こった夜

利用旅客数世界屈指の大空港・羽田。

そこには、行き交う人の数だけ、ドラマがある。

日常と非日常。出会いと別れ。

胸を締め付けるほどの期待と、心がちぎれるほどの後悔と。

想いは交差し、今日もここで「誰かの人生」の風向きが、ほんの少しだけ変わるのだ。

これは、羽田空港を舞台に繰り広げられる、様々な男女のオムニバスストーリー。

まず登場したのはグランドスタッフの山田芽衣とパイロット訓練生の神崎賢人。二人の不器用な恋の始まりが語られた。

そして前回、絶賛ハイクラス婚活中の超美人CA相本美琴が登場。今回は、彼女が予定外に好きになってしまった整備士・三上透の胸の内に迫る。



「うっしゃー!無事に飛んだな!透、また腕上げたんじゃないか?たまには奢ってやるぞ、蒲田で一杯いくか」

俺のつなぎの油汚れも気にせず、先輩の洋二さんが後ろからヘッドロックで労ってくれる。洋二さんとは同じ航空整備士専門学校からの付き合いだから、かれこれ10数年の仲だ。

「ありがとうございます、ボーディング遅れなくて良かった。一杯行きたいとこなんですけど、レポート書いたら柔術の練習行かないと。試合が近いんで」

整備道具を、間違えないように確認しながら丁寧に戻していると、洋二さんが心から憐れむような目でこちらを見ているのが分かった。

「透…。お前暇さえあれば勉強か柔術って、もう今年32だろ!?この前誘ってやった羽田交流会、CAとかGHとかいっぱいいたじゃねえか。誰かいなかったのか?

あ!あの有名な超美人CAの相本さんとしゃべってたって聞いたぞ、どうかなってんのか?」

「はあ? どうかなるわけないでしょう、CAさんと。新しく入る機材のこと話してただけですよ。あと、たまたま柔術のジムが同じで」

「…まあなあ、CAって言っても普通のCAじゃないもんな。彼女、なんかすげえ御曹司だかIT社長だかと付き合ってるって噂聞いたぞ、俺らとは世界が違うな」

…そうか、美琴さんの彼氏はそんな凄い人なのか。

彼女は外見だけではなく、性格もとてもいい。流石だ。そういう稀有な人にはそういった男が似合いだろう。

俺はまだまだしゃべってる洋二さんを置いて、ロッカーに移動していた。

早くジムに行かなければ。そういえばもしかして美琴さんもいるかもしれない。


女に縁が無さすぎ三上透の、驚きの思考回路とは?

幸運


「三上君、こんにちは」

2時間ばかり筋トレに励んでいると、後ろから美琴さんの声がした。汗臭いと思い、少し身を引きながら素早く振り返る。

「こんにちは、美琴さん。この前は遅くなってしまってすいません。次の日大丈夫でしたか?」

「ううん、餃子美味しかったね。ま、また偶然一緒になったらぶらっと行きたいなー」

美琴さんはなぜだか赤い顔で空咳をしている。風邪気味なのだろうか。生憎何も風邪に有効なものは持参していない。

しかし俺が思案していると、美琴さんはそのまま隣でトレーニングを開始した。

腹筋のスピードが、女性とは思えない。なかなかの腹筋背筋力だ。負けられない。

こちらも黙々とトレーニングしながら、ふと洋二さんに聞いた話を思い出していた。美琴さんは、もしかして遠からず結婚してしまうのかもしれない。

そしたらもうこんな風にジムで会うこともなくなってしまう。

正直に言って、美琴さんと話したり、帰り道に居酒屋でばったり会って飲んだりする時間は、俺にとって心から楽しい時間だった。



これまで、好きになった女の子がいなかったわけじゃない。でも話しかけても話は全くといっていいほど続かず、こちらも居心地が悪く、いい思い出はひとつもない。

それなのに、美琴さんとは、ずっと前から友達だったかのように楽しく話すことができるのだ。

おそらく世界が違いすぎて恋愛関係とはほど遠いからだろうと推察している。

俺は好きな子の前では固くなってしまい、洒落たセリフのひとつも出てこない。だから、もしも美琴さんに惚れていたら大変だろうと思う。こんなに楽しい時間は過ごせなくなってしまうはずだ。

俺はしみじみと己の幸運を噛みしめながら、筋トレに没頭した。



「え!?休みに誘われた?ジムでよく会う女の子に?…それってデートじゃない?」

筋トレを終えてシャワーを浴びると、美琴さんとタイミングが合ったので、そのまま夕暮れの蒲田の商店街を歩く。

顔が隠れるほど大きなサングラスをした美琴さんが、急に足を止めて素っ頓狂な声を出すので、俺は目をしばたたかせた。

ーデート?何を聞いてたんだ?

「いえ、エイリアンですから、デートではありません」


悲しいくらい噛み合わない2人の、驚くべき行く末は?

「エイリアン」敗れる


美琴さんは勘違いをしている。知り合いの親切な女性が、俺のエイリアン愛を知ってわざわざ映画バーのスクリーン上映の日時を教えてくれたのだ。

正直に言って、一人で見ようが誰と見ようがエイリアンの究極の面白さは変わらない。断じてデートではない。

美琴さんは何か言いたげだったが、またゆっくりと歩き始めた。

「わたしにもエイリアンの本当の楽しみ方教えてよ。3まで見たけど、1が一番面白いと思うのよね。監督違うの?」

「おお、さすが美琴さん!1こそが俺の好きなリドリー・スコット監督です」

たくさんあるシリーズの中で、やっぱり美琴さんも面白いと思うものが同じだ。

俺はなんだか無性に嬉しくて、初代エイリアンの面白さを熱く語りながら、そのまま二人で駅までの道を殊更ゆっくり歩いた。



「透君? どうしたの、ぼーっとして。これからいいところだよ」

女の人の声ではっと我に返る。映画バーの程よい照明の中で、気がつくと主人公のリプリーがすでに武器を持ってエイリアンと対峙していた。

まさか、そんな馬鹿な。俺は驚きのあまり、呆然とクライマックスシーンを見た。

まったく映画に入り込めなかったのだ。ほとんど始まりにも気づかなかったと言ってもいい。こんなことは初めてだった。

エイリアンの、生物としての圧倒的な強さが、俺の憧れだった。究極の強さに、何度見ても夢中になれたし、胸が躍ったのに。

「エイリアンて初めてみたけど、バイオハザードみたいな感じだね」

隣で女の子が何か言っている。全然違うと思うが、議論したいという気持ちも起こらない。

あの人の不在が、エイリアンよりよっぽど俺にインパクトを与えていた。

ただ、ここにいて欲しい。

好きなものを一緒に共有したい。心ゆくまで語り合いたい。美琴さんと。



居心地が良かったのは、気が合うからなのか。

ジムに入ると必ず見回してしまうのも、帰り道に期待して店をのぞいてしまうのも、俺が会いたかったからなのか。

まさか自分が女の人と、しかもあんな上等な人と、相性がいいなんて考えたこともなかったけれど。

残念ながら、あんなに素敵で、しかも恋人がいるかもしれない人なのに、俺は一緒にいるだけで嬉しくなってしまう。長年の「心友」エイリアンが吹っ飛ぶくらいに。

その時、携帯が鳴った。

ポケットに手を入れたとき、俺の野生の勘が、美琴さんからに違いないと告げていた。彼女から電話なんてかかってきたためしがないのに。

近所にいるであろう俺にかけてくるとは、何か困っていて、緊急事態に違いない。通話ボタンを押すと同時に、店を飛び出した。

美琴さんに何があっても、必ず俺が何とかしてやる。

「もしもし?美琴さん?どうした?なんかあった?」

緊張する俺に答えた彼女の声は、やっぱり震えていた。

「もしもし、三上君。あのね―」

その先の言葉は、まったく俺の予想を裏切るものだったけれど。


▶NEXT:5月26日 日曜更新予定
次回、レガシー(大手)CAになれなかったLCC CAの予想外クルーライフと葛藤。



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