恐怖のCAカーストに苦しむ女。超大手エアラインの美人妹に勝てない、LCC勤務の姉

恐怖のCAカーストに苦しむ女。超大手エアラインの美人妹に勝てない、LCC勤務の姉

利用旅客数世界屈指の大空港・羽田。

そこには、行き交う人の数だけ、ドラマがある。

日常と非日常。出会いと別れ。

胸を締め付けるほどの期待と、心がちぎれるほどの後悔と。

想いは交差し、今日もここで「誰かの人生」の風向きが、ほんの少しだけ変わるのだ。

これは、羽田空港を舞台に繰り広げられる、様々な男女のオムニバスストーリー。

これまでに紹介したのはグランドスタッフの山田芽衣とパイロット訓練生の神崎賢人の不器用な恋の始まり。

そして超美人CAの相本美琴と、31年彼女なしの整備士、三上透。

今回は、外資系LCC(ローコストキャリア)CA、仙崎千佳の物語。



「千佳ちゃ〜ん!すごい偶然、この時間到着だったんだ?」

振り返ると、妹の紗矢が黒いキャリーケースを引きながら羽田空港のロビーを小走りに近寄ってくるところだった。

「紗矢も、今帰り?」

「うん、一緒に帰ろ!」

京急線ホームに続く長いエスカレーターを降りていくと、これから出張であろう上りエスカレーターのビジネスマンたちが、すれ違いざまにちらちらと妹を見る。

さっきまでフライトできつくお団子に結っていた黒いロングヘアは、ゆるくダウンスタイルになり、白く滑らかな肌とエレガントなメイクをひきたてていた。

紗矢は、国内大手エアラインのCAだ。

「千佳ちゃんも3泊4日パターンのステイだったよね?どこ飛んでたの?」

「昨日は千歳ステイだよ」

「え!?そうだったの?言ってよ、私も昨日は久々に国内線でしかも千歳だったんだよ!なんだ、一緒にご飯いけたのにね」

「機長がクルー全員にご馳走してくれるっていうから、みんなでジンギスカン食べにいったの。だからどちらにせよご飯は無理だったかも」

私は何でもないことのように会話を続けたけど、本当は、ステイ先でまで紗矢との「格差」を感じたくなくて、連絡しなかっただけ。

市内で一番いいホテルに泊まるレガシー(大手)CAの妹と、狭いビジネスホテルにステイする、LCC(ローコストキャリア) CAの姉。

同じCAでも、そこには深くて暗い溝があるのだ。


レガシーとLCC。CAライフはこんなに違う!?

恐怖のCAカースト


妹は小さい頃から美人で、小学校の頃からちょっとした有名人だった。4つ歳が離れていたから、中学や高校は重ならなくて良かったと思う。

妹のことは大好きなのにそう思ってしまうほど、彼女はあまりにもたくさんのものを持ち、同性として羨まずにはいられなかった。

紗矢の顔はとびきり可愛くて、そしてそれ以上に性格もものすごく可愛い。

小さい頃から喧嘩したことはほとんどない、と人に言うと、そんな姉妹がいるものかと言われるが、本当に喧嘩になるようなことはめったになかった。

それはひたすら紗矢の人徳だと思う。素直で人懐っこくて、いつも楽しそうな紗矢。千佳ちゃん、千佳ちゃんと、どこでも嬉しそうにくっついてきた。

そんな風に愛されキャラで美人の妹は、私が幼い頃からの夢をかなえるためCA受験スクールに1年間も通って十数社受け、なんとか外資系のLCCにひっかかったのと対照的に、4年後新卒で国内大手エアラインの内定をすんなり得た。



2人ともステイで部屋をあけることが多いので、成田にも羽田にもアクセスのいい港区高輪に、やや築年数が経っていて小さめの2LDKを借りて一緒に住み始めた。すると、二人の差、すなわちレガシーとLCC CAの差が浮き彫りになっていく。

パリやハワイなど世界中のメジャーな都市に就航している大手エアラインの、煌びやかなステイ。そのホテルのグレード。通勤タクシーのつく時間帯。

ささいなことかもしれないが、同じ仕事なのに会社によってこんなに違うのかと驚いた。

格安エアラインでは人件費削減のため、CAが機内清掃を行うが、それももちろん大手エアラインでは考えられない。

「LCCはミールやドリンクが有料だから、頼むお客様も少なくて楽チンだね」と大手に勤める友人たちは言う。

そして最高のサービスを追及するC(ビジネスクラス)とF(ファーストクラス)の訓練の大変さ、アッパークラスの乗客の扱いの大変さを半分愚痴として、半分自慢として語る。

そんなすべてを、紗矢と暮らすようになってから一層見せつけられる思いだった。

決して今の自分の会社が嫌いなわけじゃない。むしろ同僚クルーとの絆は深く、サービスだって自分次第。

それでも、それとは別に、どうしてもレガシーCAとの格差を目の当たりにすると哀しくなってしまうのだ。

「…いいなあ、紗矢は」

思わずこぼれた言葉は、リビングでウェディングドレスのカタログを眺めている紗矢の耳にも届いてしまったようだ。

彼女が「え?」と顔を上げた。


紗矢をうらやむ千佳の発言が、思わぬ「出会い」を呼ぶ!?

東大医学部 vs CAお食事会


「…あんな素敵なお医者さんと26歳で結婚するなんて。私だって、フライト後の疲れた体にムチ打ってお食事会いってるのにな」

モヤモヤを全部吐露するなんてできないから、ちょっと茶化して拗ねたフリをすると、紗矢が飄々と応戦する。

「千佳ちゃんお食事会なんて行くより、趣味の集まりとか行ったほうがいいって。のびのびしてる面白い千佳ちゃんがいいって人のほうが長続きするよ」

「どうせ私は、紗矢みたいに第一印象勝負のお食事会は向いてないですよ」

「またそんなこと言って。そんなに出会いを求めてるなら、総一郎さんの大学の同級生にお食事会頼まれてるけど、千佳ちゃんも来る?」

「え!?総一郎さんの大学ってことは東大のお医者さん?行く!」

ただし、と紗矢が付け加える。

「もうお誘いしてるのは私の会社の同僚CAなの。千佳ちゃんだけ初対面だけど、大丈夫かな?」



「えええ!?…ていうことは皆さん東大理Ⅲなんですか!?生まれて初めて理Ⅲの人にお会いしました、しかも4人も!」

西麻布の交差点に近い『アンティキ・サポーリ』の広々とした店内に響き渡るような大きな声で、紗矢の親友が頬っぺたを赤くして興奮気味に叫ぶ。20代半ばだから許される、素直さ、可愛らしさ。もはや完敗だ。



「高校生のとき、もう頑張れないって先生に言ったら『努力で入れないのは東大の理Ⅲだけだ』って励まされたけど、その東大の理Ⅲ…!」

「もちあげすぎだって。でも、勉強頑張ったおかげでこんなキレイなCAさんたちと会えたんだから、頑張った甲斐があったなあ」

超大手エアラインCAと東大卒医者のお食事会のテンプレみたいな会話を、私は黙って聞いていた。ああ、読める、次の展開。

「皆さんは同期で、同じ航空会社にお勤めなんですよね?」

皆が微笑みながらうなずき、それからちらりとこちらを見るより早く、私は口を開いた。

「私は4つ上で、外資系のエアラインに勤めています」

「外資系?すごいね、シンガポール航空とか?」

皆の視線が集まって、一瞬だけ言葉に詰まるが、さらっと笑顔で社名を言うと、男性陣は怪訝な顔になる。気を遣って何か言いたいんだろうけど、おそらくコメントするほどうちの会社のことを知らないのだ。

「あー、LCCか。CAが機内清掃もするんだよね」

―何!?なんか今バカにされた!?

思わず引きつった笑顔で、二人向こうに座る男を見る。

その失礼なセリフをたった今口にしたとは信じられないような、憎らしいほど涼やかな表情。半袖から伸びた腕が、東大理Ⅲの医者とは思えないほど筋肉質に引き締まっている。

それが松坂海里との、最悪な出会いだった。


▶NEXT:6月2日 日曜更新予定
無礼な男・海里の出現で、どうなる、千佳の崖っぷちCAライフ&プライベート!?



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