「俺と彼女、どう見える?」2年以上片想いしていた彼から言われた、残酷な一言

「俺と彼女、どう見える?」2年以上片想いしていた彼から言われた、残酷な一言

特別だと思っていたのは、私だけだったの−?

広告代理店でコピーライターをしている橋本杏(24歳)は、同期の沢口敦史(24歳)に淡い恋心を抱いている。

“友達以上”の態度をとる敦史に期待してしまう杏。

しかし偶然の成り行きで、杏は学生時代からの親友・優香と敦史を引き合わせてしまったことから関係が一変。

杏のあずかり知らぬところで二人は連絡先を交換。

優香から「敦史くんとデートしてもいいかな?」と相談されてしまう。



慟哭の夜


その日、自宅に戻ることができたのは深夜遅く、日付が変わった後だった。

目黒駅から徒歩5分の場所に借りた部屋は、利便性に反し静かなエリアにある。深夜ともなれば物音ひとつ聞こえない。

「ただいま…」

誰もいない暗闇にそう独りごちたら、静まり返った部屋に疲れ切った声が響いた。途端に孤独と虚しさが襲ってくる。

−私、敦史くんからデートに誘われたの−

あの時、優香はどんな顔をしていたっけ。そして私は、いったいどんな表情で彼女の言葉を聞いていただろう。

…どうして、優香なの。

電気もつけぬまま、フラフラと力なくベッドに腰掛けた。

窓の外に広がる闇と一体化した部屋で、私はたった一人、何度もなんども同じ質問を繰り返すのだった。

私のほうがずっと敦史を知っている。彼のことをわかっている。優香なんかより私のほうが、ずっとずっと敦史のことが好きなのに。

それなのに、どうして敦史は優香をデートに誘うの...。

考えれば考えるほど、震えるほどの後悔が襲ってくる。

どうしてあの時、優香を呼んでしまったのだろう。浅はかにも、敦史と優香を引きあわせてしまったのだろう。

どうしてもっと早く、素直な気持ちを伝えなかったのだろう。

私と敦史は親友なんかじゃない。私の中で、敦史はずっと特別だった。出会った時から、ずっと。

それなのに…私じゃない誰かが、敦史の1番になるなんて。それがよりにもよって、優香だなんて。

涙はとめどなく溢れるけれど、もうそれを拭う力さえ湧いてこない。長い間抑え続けた感情を爆発させるように、私は声をあげて泣いた。

誰に気づかれることもなく、たった一人で。


「親友なんかじゃない」と気づいたのに…。しかし無邪気な敦史の言葉がさらに杏を傷つける


オフィスビル入り口にあるスタバで、ラテとシナモンロールをテイクアウトする。

これは私の、先の見えない残業をする際のルーチンのようなもの。クリエイティブな発想に、糖分は必要不可欠だ。

「お疲れ。…今日も残業?」

店を出た直後、背後からポンと肩を叩かれた。

振り返った先に立っていたのは、同期の長尾健一。

「ったく。あのクライアント、毎回鬼スケジュールだよなぁ」なんて言いながら、彼は私の左手に視線を送る。そしてふっと、目尻を下げた。

「橋本って、ほんとシナモンロール好きだな」

紙バッグに入ってはいるものの、スパイスと砂糖の甘い香りで中身に気づいたらしい。

健一に笑われ、私はなんだか恥ずかしくなってしまった。確かに私はいつもこのセットを買っている。けれどそれを見られていただなんて...知らなかった。

「健一…は、今帰り?」

誤魔化すように尋ねると、彼のほうも「ああ、いや」と少し慌てた様子で目をそらした。

「俺もこれから接待。帰りたくて仕方ないけど(笑)」

だよね、と笑い合い「お互いガンバロ」と声を掛ける。

しかし踵を返し歩き出そうとしたところで、再び呼び止められた。

「橋本」

言葉を探すようなそぶりを見せる健一。しばしの沈黙が二人を包む。

「…あんまり無理しないように」

まっすぐこちらを見つめる彼の瞳は、心を見透かしているようだ。

私は小さく「うん」とだけ答え、今度は意識して足早に、その場を去った。


…最近の私はというと、ずっとこんな調子で残業続きの日々を送っている。

「無理すんなよ」と健一は言うけれど、今の私には無理するくらいでちょうど良かった。余計なことを考えなくて済むから。

敦史と優香はその後、どうなったのだろう。

デートにはもう行ったのだろうか。それで、二人はどうなったの…?

気になって仕方ないが、私に知るすべはない。

優香に自ら尋ねるのも変に思われるだろうし、敦史に聞こうにも、彼はあの一件以来、私の存在など忘れてしまったようなのだ。

最初はただただショックだった。しかし時間が経つにつれ、胸の痛みはふつふつとした怒りへと変わる。

敦史がこんなにも薄情な男だとは思わなかった。他に気になる女ができたら、私のことなんかもうどうでもいいってわけ…?

クリエイティブ局に戻った私は、はぁぁと大きな息を吐きながら席に着く。

テーブル脇に置いたままにしていたスマホに目をやると、ポップアップが表示されているのが見えた。

優香からのLINEだった。



“杏、土曜の夜って空いてたりするかなぁ?”

彼女とやり取りをするのは、あの日...「敦史からデートに誘われた」と報告されたとき以来だ。

一晩中泣き続けたあの夜が蘇り、胸がキュウと締め付けられる。

“空いてない”と、嘘をつけばいい。そのくらいの器用さは持ち合わせているはずなのに、なぜかできなかった。

…敦史とどうなったのか知りたい。

知れば傷つくとわかっているのに、どうしてもその欲求が止められなかったのだと思う。

“うん、大丈夫。空いてるよ”

しかしメッセージを返した直後、私はすぐさま後悔することとなる。

1分と空けず優香から届いたLINEには、こう書かれていたから。

“良かった!実はね…敦史くんが杏も含めて3人で食事しようって言ってるの”


優香からの誘いは、3人での食事会。そこで突きつけられる、ツラい現実。

おとぎ話の終焉


「あ、杏が来た!」

約束の土曜日。

指定された時間に『グリル アンド ワイン ジーニーズ トーキョー』へ向かうと、敦史と優香はすでに着席していた。

「ここに座って」と優香に促されるまま、空けておいてくれたらしい彼女の隣の席に座る。

...なんだか、完全に立場を奪われた気がする。なんて思うのは、私の被害妄想だろうか。

あの日までは、優香を敦史に引きあわせるまでは、私と優香の立ち位置は逆だったはずなのに。

しかし意外だったのは、私を避けているのだとばかり思っていた敦史の態度が以前と同じに戻っていたこと。

久しぶりに軽口を叩き合うのはやっぱり楽しくて、「薄情者!」だなんて怒りさえ抱いていたこともすっかり忘れてしまった。

ただ...優香が私たちの話にくすくすと笑うたび、敦史が彼女を目で追うことだけは、いつまでたっても見慣れそうになかった。



現実を突きつけられることとなったのは、優香に誰かから着信があり、少しばかり席を外した時だった。

二人きりになると、敦史は私に目配せをする。そして戸惑う私をよそにテーブルへと身を乗り出すと、おもむろにこう囁いたのだ。

「杏から見て、俺と優香ちゃんってどうかな?」

−え...?

彼の言葉は、まるで刃だった。あまりの鋭い痛みに、すぐには声を出すこともできない。

「どうって…」

どうにか絞り出した声は、弱々しく掠れている。

−敦史は、何もわかってなかったんだ。私の気持ちなんか、何も…。

泥水でも飲んだように息が苦しい。

優香が敦史と私の間に割り込んできた、彼女が私の立場を奪った。そんな風に思っていた私は大バカだ。

すべては私の独りよがりだった。“友達以上”だと思っていたのは、最初から私だけだったのだ。

しかしそれでも私はすぐに笑顔を作り、当然だと言わんばかりにこう答える。

「…すごく、お似合いだと思うわ」

皮肉なことに、長い友達関係のせいで、私は彼の前で本心を隠すことが癖になってしまっていた。

もう何年もずっと繰り返したことだから、こんな絶望的な状況でさえ笑顔を浮かべられてしまう。

敦史の前で私は、素直になるより嘘をつくほうが楽なのだ。

...大丈夫。涙なら、あの夜に枯れるまで流した。

私は作りものの笑顔を浮かべ、ただひたすらに胸の痛みと戦った。


絶望の淵に落とされた杏。そこで優香への、ある疑惑が芽生える…。


「実は俺たち、付き合うことにしたんだ」

ついに敦史がその、決定的な言葉を口にした時でさえ私は偽りの笑顔を崩さなかった。

もはや心が痛みを感じないほど麻痺していたのかもしれない。

「杏はほら、俺と優香にとってキューピッドだからさ。きちんと報告しようって優香とも話して…」

照れ笑いを浮かべながら、嬉しそうに報告をする敦史。

あまりに無邪気すぎる彼の声は、次第に遠くなり聞こえなくなった。

まるで3人の中で私だけが、暗闇に突き落とされたように。



「杏、私ちょっとお手洗い」

ハッと我に返ったのは、優香が私にそう声をかけたときだった。

「あ、うん」と慌てて応じ、彼女を見送る。

ふと、空席となった椅子の上にスマホが置かれているのに気がついた。

優香が忘れていったのだろう。

...画面を覗いてしまったのは、本当にたまたまだ。

ただそこにあったスマホが、突如光った。それでつい、視線を送ってしまったのだ。

しかし彼女のスマホに表示された名前を目にした瞬間、私の体は固まった。

入江伸之。

聞き覚えのある男の名が、彼女のスマホを延々と呼び出していたのだ。

▶NEXT:7月27日 更新予定
入江伸之とは…?優香が隠していた秘密が明らかとなる。



関連記事

東京カレンダーの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

トレンド アクセスランキング

ランキングの続きを見る

トレンド 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索