10年前、同級生の女が忽然と姿を消した。27歳になった女たちの、衝撃的な再会

10年前、同級生の女が忽然と姿を消した。27歳になった女たちの、衝撃的な再会

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。

恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、あの時いなくなった女が現れてー。

4人の女が美しい仮面の下に隠す、素顔と真実とは?



「二人とも、写真撮るからこっちきてー!」

甲高い声に、恵子は振り返った。うだるような炎天下のベランダで、声の主・萌が大きく手招きしている。

急いで立ち上がると、毛玉のようなトイプードルが足にまとわりついてくる。万が一にも蹴ってしまうようなことが無いように注意しながら、外にでた。

「こんな暑いのに萌もよくやるよ。インスタってそんなに面白いのかな。ねえ?」

後ろから聞こえる、さくらのつぶやきを、恵子はいつもどおり苦笑とともにやりすごす。こんなやりとりももう、慣れたものだ。

恵子と萌、そしてさくらは、聖陽女学院の同級生だ。

都内でも有数のお嬢様学校で出会った3人は、タイプも性格もまるで違うのに、なんだかんだでもう10年以上、行動を共にしている。

同級生が社会人デビューを果たす中、萌は早々に結婚して家庭に入り、現在は子供もいる。それ以降、3人で会うときは、都内のはずれにある萌自慢の一軒家で集まるようになった。

最近は、ここに来るたびに、インスタグラムに夢中な萌のカメラに収まるのが恒例となっている。

こだわりを詰め込んだという狭いベランダには、ヨーロッパ風のテーブルセットが置いてあるせいで、大人3人も集まれば、外なのに息が詰まる。

「よし、設置オッケー!二人、ここに立って。」

恵子は萌の左側に立つと、息苦しさと蒸し暑さに耐えながら、連射音を立てるカメラに笑顔を向けたのだった。

同級生というのは不思議なものだと、恵子はしみじみと思う。

「友情」という言葉だけでは表せないような、強固な絆で結ばれた関係。それゆえに、一度形成されたヒエラルキーは、絶対に覆らない。


お嬢様学校の同級生、その不思議な友情とは…?

中高一貫校である聖陽女学院では、その生徒のほとんどが中学から入学する。高校から入学した恵子は、卒業から10年経った今でも、中学からの内部進学組である萌やさくらに遠慮を感じてしまう。

例えば、先ほど炎天下からクーラーの効いたリビングに戻った途端、さくらがソファに座り込み、「暑かった」と文句を言った。それに対して萌は笑いながらアイスティーを差し出したのだが、そんな簡単なやりとりが、恵子にはできない。

文句を言ったり茶化したりしたら、嫌われてしまうかもしれない。高校に入ってすぐに感じたそんな不安が、今でも心の底にこびり付いているのだ。



「投稿して30分で、もう200いいね付いた!クッキーのおかげだよー!ありがとー!」

先ほどべランダで撮ったばかりの写真が、多数のハートマークを獲得していることに、萌は興奮気味だ。画面の中では、恵子が手土産に持ってきた『村上開新堂』のクッキーを、女たちが笑顔で囲んでいる。

「"いいね"が他の人から見えなくなるってニュース、聞いたでしょ?もう非表示になってる人もいるみたい。だから、写真とハッシュタグがより一層重要なんだよねえ。」

「役に立てたなら良かった!また予約しとくね。」

萌は「ありがとー」と恵子に微笑むや否や、「で、どうなの。さくらの婚活話、聞かせてよ。」と、さくらの方へぐっと身を乗り出した。

行政書士として新宿の事務所で働くさくらは、今年に入ってから急に婚活に精を出し始めた。

もともとキャリア志向で結婚には興味がないと豪語していたのに、同じ事務所の独身の先輩が大病にかかった際、自分の身にもいつか同じことが起こったら、と急に不安になり、独りで生きていくことに恐怖を覚えたそうだ。

「それが、なかなか条件に合う人っていないのよ。27歳の資格有りの女ならまだ需要あるだろうって思ってたんだけど、私が甘かったわ。…あーあ。選びたい放題の恵子が羨ましい。」

「わかるー!次から次へとお坊ちゃんから求婚されるなんて…贅沢だよー!」

二人のじっとりとした視線に、恵子の背中はぞわっと寒気立つ。

恵子の家は、老舗食品会社の創業家だ。

一人娘を思ってか、「30歳までには結婚を」と焦る両親が、最近は毎月のようにお見合いを組んでくる。そのことが、恵子の目下の悩みであった。

ただし、婚活中のさくらや、子育て真っ最中の萌からすると羨ましい境遇のようで、いつもこうやってからかわれてしまい、対処に困るのだった。

「そ、そんな、求婚なんかじゃないよ。親が焦ってお見合い乱発してるけど、それこそ変な人ばっかりだもん。…大恋愛で結婚した萌や、キャリアウーマンのさくらの方がよっぽど羨ましいし、素敵だよ。」

恵子の弁明にさくらが反論しようと何かを言いかけたが、萌の「あれー?」という大声によって、かき消された。

「この人、私たちのこと知ってるみたい。…メッセージで、久しぶりだって。」


突然萌の元に届いた謎のメッセージ。その送り主の正体は?

萌のインスタに届いたメッセージには、こう記されていた。

“#村上開新堂”で見ていたら、偶然このアカウントを見つけてびっくり!ここに写ってるのって、萌とさくらと、恵子だよね?久しぶりー!“

「って、名前言ってくれないとわかんないじゃん。アカウント名Silklady618か…。私のフォロワーにもいないわ。」

さくらがスマホをいじりながら、あきれたように口をとがらせる。

「この人のページ非公開だし、投稿も見れないね。でもたぶん同級生だよねー?だれだろー。聞いてみよっと。」

萌が慣れた手つきでメッセージの返信をしている最中、恵子も自分のインスタのフォロワーに該当の人物がいないか確認してみたが、そんな人物はやはり存在しなかった。

―silklady618か…。シルクレディ。シルクって…絹?

…絹。

突然ある人物の名前が頭に浮かび、恵子は息をのんだ。それと同時に、萌の叫び声が部屋中に響き渡ったのだ。

「ヤバい!佐久間絹香、覚えてるでしょ?このメッセージ、絹香だって!」



結局、萌の夫と娘が外出から帰ってくるぎりぎりまで、三人は絹香の思い出話で大いに盛り上がった。

それだけでは足りず、家に戻ってからも、突然記憶の中に現れた友人の話題でメッセージボードがすぐに埋まっていく有様だ。

佐久間絹香は、高校2年の始業式の日に、何の前触れもなく転校していった。優等生として知られていた絹香が突然学校を去るという一大事件は、年頃の女生徒たちの興味を大いにそそった。

それまで、萌、さくら、絹香、そして恵子は、仲良し4人組として知られていた。そのため、突然いなくなった絹香のことを、周りから根掘り葉掘り聞かれたものだ。

しかし、恵子はもちろん、中学からの親友だったという萌やさくらすら、その理由を知る由もなかった。メールや、当時皆が利用していたmixiでの連絡もつかず、家を訪ねたときには既に、一家は引っ越した後だった。

きっとなにか事情があるのだろうと3人で話し合い、絹香がいつか話してくれるまでそっとしておこうと、そう決めた。

それ以降、受験や恋愛でそれぞれ忙しくなり、絹香との思い出はどんどん記憶の片隅に追いやられていったのだ。

『絹香から日曜OKって返事きました!ヤバイ!何年ぶりよー!』

萌からのハイテンションなメッセージに『よかった!楽しみだね!』と返し、恵子は日曜に着ていく服でも選ぼうとクローゼットに向かう。

ー10年ぶりかあ…。

お気に入りの洋服がずらりと吊るされたウォークインクローゼットを見渡しながら、恵子はふと考えた。

ーそれにしても、どうしてあの時、絹香は急に消えたんだろう。彼女に一体、何があったの?

それに、10年前、まるで何かから逃げるように姿を消した絹香が、なぜ今頃になって自分たちの前に現れたのだろう。

なんだか、妙な胸騒ぎがするのだった。


そして10年ぶりの再会で、ある衝撃の事実が…!

日曜日、六本木の『オークドア』に恵子が到着した時、まだ誰も来ていなかった。緊張して、約束より15分も早くついてしまったのだから、当然だ。

―絹香、どんな風になってるのかな。

高校時代、恵子と絹香はよく似ていると言われていた。

おっとりした話し方や、少しふくよかな体型。左目の泣きぼくろまでお揃いだったので、何度か間違われたこともあるくらいだ。

昔の絹香の姿を思い出しながら、ふと、大きな窓ガラスに映る自分の姿をチェックする。

あの頃より大分痩せたとはいえ、Aラインのノースリーブワンピから覗く腕のたくましさにげんなりし、バックからカーディガンを取り出すと、肩に羽織った。

「恵子、早いねー!」

5分ほど経つと、セレクトショップの紙袋を持ったさくらが現れた。どうやら、買い物をしてからきたらしい。

「いつもどおり、萌は遅れるってさ。…子持ちって大変よね。」

グループラインには何も来ていなかったので、さくらに個人連絡したのだろう。さくらは肩をすくめながら恵子の方を見遣ると、バッグから小さなポーチをとりだした。

「あー、絹香に会えるの超楽しみ!夜逃げみたいに消えちゃったから、あの時のこともいろいろ聞きたいし、今日を機会にみんなで遊べるようになったらいいよね。

そういえば結婚してるのかな?あの子。既に子供もいるかもね。昔、萌と絹香と、将来の子供の名前考えたのが懐かしいなー。」

口紅を塗りながら、さくらは器用に話し続ける。

自分だけが知らない絹香との思い出話に、恵子は黙って微笑むことしかできなかった。



メニューを見ているふりをしながらも、恵子は店の入り口が気になって仕方がない。それはさくらも同じようで、「あれかな?…違うか」と先ほどから何度も口にしている。

「…ねえ、実は私、あんまり絹香のこと知らないの。1年しか一緒に居なかったし。絹香って中学の時どんなだったの?」

ソワソワした気持ちを少しでもほぐそうと、恵子はさくらに質問した。

「そういえば、そうだよね。絹香と恵子ってすっごい似てたから、なんだか恵子が中学からいた気になっちゃう。絹香は中学のころから頭良くて、確か入学式で代表挨拶してたかなあ。…というか、そろそろ時間じゃない?」

その指摘に恵子が顔を上げた瞬間、向こうから歩いてくる一人の女性に目を奪われた。見るからに上質な服に身を包み、頭のてっぺんから爪先まで手入れが行き届いているような、洗練された女性だ。

ーわあ…。なんて綺麗な人。スタイルも良くて、モデルみたい…!

ふとその女性と目が合うと、驚くべきことにこちらに向かって手を振り、小走りでこちらに近づいてくるではないか。

「え、ちょっと…嘘でしょ。」

さくらが、驚きの声を上げ、その場に立ちあがる。恵子は言葉を失って、口元を手で覆った。

「さくら、恵子、久しぶり!うわー懐かしい!」
「き、絹香…?」

完璧な笑顔で頷いた美女は、立ち上がったさくらを慣れた様子でハグする。そして、その笑顔のまま、次は恵子の方に手を大きく広げた。

「恵子!会えてうれしい!」

至近距離で見るこの絶世の美女に、あのころの面影など、ほとんどない。

そっくりと言われていた恵子と絹香だが、ガラスに映る二人の女性は似ても似つかないのだから。

ー本当にこの人、絹香なの?

ハグを終えた目の前の美女は、乱れた前髪を手ではらう。その時、見覚えのある泣きぼくろが、確かに見えたのだった。


▶NEXT:8月29日 木曜更新予定
絶世の美女に変貌を遂げていた絹香。一体彼女に、過去何があったのか…?


▶明日8月23日(金)は、人気連載『家族ぐるみ』最終回!

〜夫の学生時代の友人2家族と、家族ぐるみの付き合いを開始した美希(36)。けれどもその関係はいびつに変化していき…。ついにそれぞれの本音が明かされる!明日の連載をお楽しみに。



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